弁護士大窪のコラム

2026.08.03更新

親御さんが亡くなられて相続をどう進めればよいか分からないというご相談や、以前に相続が起きたものの、そのままにしてある不動産があるというご相談をお受けすることがあります。相続に関する法律は、平成三十年から令和にかけて大きく改正され、その後も見直しが続いています。まず申し上げておきたいのは、これらの改正の中には、手続を放置していると不利益を受けたり、過料を科されたりしかねないものが含まれているということです。他方で、正しく理解して早めに動いていただければ、過度に慌てる必要はありません。この機会に、相続法の改正が実務でどう変わったのか、そして今、特に気をつけていただきたい点を整理しておきたいと思います。

はじめに、少し前の改正になりますが、遺言と遺留分について確認しておきます。まず遺言については、以前のコラムでも触れたとおり、自筆証書遺言に添付する財産目録を手書きではなくパソコンなどで作成できるようになり(平成三十一年一月十三日から)、また、法務局で自筆証書遺言を保管してもらえる制度も始まりました(令和二年七月十日から。「法務局における遺言書の保管等に関する法律」)。自宅で保管する自筆証書遺言には、紛失や改ざん、あるいは死後に発見されないおそれがありますが、法務局の保管制度を利用すれば、こうした心配を避けることができ、家庭裁判所の検認の手続も不要になります。次に遺留分についてです。令和元年七月一日以降に亡くなった方の相続については、いわゆる遺留分の制度が大きく変わりました(民法千四十六条)。以前は「遺留分減殺請求」といって、遺贈や贈与された財産そのものを取り戻すという考え方でしたが、現在は「遺留分侵害額請求」といい、侵害された遺留分に相当する金銭の支払を求める権利へと改められました。これにより、不動産などが相続人同士の複雑な共有状態になることを避けやすくなっています。もっとも、この権利には期間の制限があり、相続の開始と遺留分を侵害する遺贈・贈与があったことを知った時から一年以内に行使しなければ、時効によって消滅してしまいますので(民法千四十八条)、この点は注意が必要です。

そのうえで、近年の改正の中で特に気をつけていただきたいのが、遺産分割の「十年ルール」と、相続登記の義務化です。

まず、遺産分割についてです。令和五年四月一日に施行された民法の改正により、相続が開始した時から十年を経過した後にする遺産分割については、原則として、特別受益(生前贈与などを受けていたこと。民法九百三条)や寄与分(被相続人の財産の維持・増加に特別の貢献をしたこと。民法九百四条の二)を主張することができなくなりました(民法九百四条の三)。これらは、本来であれば各相続人の取り分を具体的な事情に応じて調整するための仕組みですが、相続開始から十年が過ぎると、原則として法定の相続分(あるいは遺言による指定相続分)で分けることになるわけです。しかも、この十年ルールは、令和五年四月一日より前に発生していた相続にも適用されます(ただし、施行の時点ですでに相続開始から相当の年数が経っている場合には、施行の時から少なくとも五年間の猶予が設けられています)。長年にわたって遺産分割を先延ばしにしてきた場合、「自分が親の面倒をみてきた」「他の相続人が生前に多額の援助を受けていた」といった事情を主張できなくなってしまうおそれがありますので、心当たりのある方は早めに手を着けていただくのがよいと思います。

次に、相続登記の義務化です。令和六年四月一日から、不動産を相続で取得した相続人は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつその不動産の所有権を取得したことを知った日から三年以内に、相続登記の申請をしなければならないことになりました(不動産登記法七十六条の二)。正当な理由なくこれを怠った場合には、十万円以下の過料が科されることがあります。そして注意していただきたいのは、この義務が、令和六年四月一日より前に相続が発生していた不動産についても及ぶという点です。この場合は、施行日である令和六年四月一日から三年以内、すなわち令和九年三月三十一日までに登記をする必要があります。「昔亡くなった親の名義のままになっている土地がある」という場合も対象になりますので、注意が必要です。もっとも、遺産分割がまとまらないなど、すぐに正式な相続登記ができない事情がある場合には、「相続人申告登記」という簡易な手続をとることで、とりあえず登記の義務を果たしたものと扱ってもらうことができます(不動産登記法七十六条の三)。これは、自分がその被相続人の相続人であることを法務局に申し出るだけのもので、過料を避けるための暫定的な手段として利用できます。ただし、これはあくまで暫定的なものであり、最終的には遺産分割を経て正式な相続登記をする必要がありますので、この点は誤解のないようにしていただきたいところです。

こうした手続を進めるにあたって、やっていただきたくないのは、やはり放置してしまうことです。相続をそのままにしておくと、その間に相続人のどなたかが亡くなって次の相続が重なり(いわゆる数次相続)、関係者が二十人、三十人と膨れ上がって、話し合い自体が極めて困難になってしまうことが少なくありません。また、感情的な対立から一部のご親族だけで話を進めようとして、かえってこじれてしまう例もよく見受けられます。費用や期間については、遺産の内容や相続人の数、争いの有無によって大きく異なりますので一律に申し上げることは難しいのですが、遺産分割の話し合いがまとまらず調停や審判に至る場合には、相応の時間がかかることが見込まれます。ご相談の際には、想定される手続の流れとあわせて、費用の見込みについてもご説明いたします。相続は、時間が経つほど関係者が増え、資料も集めにくくなり、選べる手段も狭まっていきます。相続のことでご不安がある場合には、まずはお早めにご相談いただければと思います。

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投稿者: 弁護士大窪和久

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