弁護士大窪のコラム

2022.03.29更新

民法改正により、2022年4月1日より成年年齢が20歳から18歳に引き下げられます。
この改正により、2022年4月1日の時点で18歳、19歳の人は同日の時点で成人年齢に達するということになります。
民法上の成年年齢の引き下げに伴い、18歳で親の同意がなくとも様々な契約をすることができるようになります。未成年者の場合、契約は親の同意が必須であり、同意なき契約については未成年者取消権により契約の取消しが可能です。これまで20歳まで認められていた未成年者取消権の範囲が縮小しますので、消費者被害が拡大するのではないかとの懸念もあげられています。
また、女性が結婚できる最低年齢は16歳から18歳に引き上げられ、結婚できるのは男女ともに18歳以上となります。
子どもに対する親権が及ぶのが未成年の間である関係上、養育費に関する判断にも影響が及ぶことが想定されます。もっとも、これまでも養育費の審判に関しては成人年齢以後も認めるケースがある(大学進学を想定していたと認められる場合等)ので、今後も18歳に達した後も養育費の支払を認める判断がなされることはあるでしょう。

一方、民法改正後も、飲酒や喫煙、競馬などの公営競技に関する年齢制限は、パターナリズムの観点よりこれまでと変わらず20歳とされています。

また、民法改正にあわせ、少年法改正により、18歳、19歳の者に対する少年法の適用も変更される点があります。
18歳、19歳の者についても、「特定少年」として引き続き少年法が適用される点には違いはありません。
ただし、原則として逆送決定(検察官の判断で成人と同様の刑事裁判にかけられる)される対象事件が拡大されました。これまでは16歳以上の少年の時犯した故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件について原則逆送の対象となっていましたが、これに加えて、18歳以上の少年のとき犯した死刑、無期又は短期(法定刑の下限)1年以上の懲役・禁固に当たる罪の事件(現住建造物等放火罪、強制性交等罪、強盗罪、組織的詐欺罪など)が追加されました。
さらに、特定少年が逆送後起訴された場合は、原則として20歳以上と同様に取り扱いがなされることになります。
また、少年法で原則禁止されている実名報道についても、特定少年が逆送されて起訴された場合(略式手続の場合を除く)は、その段階から解禁されることとなりました。

成年年齢の引き下げは民法制定以来のドラスティックな改正であり、今後様々な分野で影響が及ぶことになります。内容については確認しておくことをお勧め致します。

投稿者: 弁護士大窪和久

2021.03.19更新

 本月17日に、札幌地裁が同性婚の不受理を行なったことについては憲法に違反するという判断を示しました。本判決はBBCニュースでも報じられ、白石早樹子さんの解説において「今回の札幌地裁の判決ははっきりとした分岐点だ。賠償請求は退けられたが、違憲判決という大きな成果を勝ち取った実質勝訴だという声が次々に上がっている」と紹介されています。

 本裁判については、弁護団がCALL4(社会課題の解決を目指す訴訟“の支援に特化したウェブプラットフォーム)上で判決文、判決要旨だけではなく、主張書面や証拠なども公開しているため(公開箇所はこちら)、原告被告がどのような主張を行なっているのか明確になっています。原告準備書面では同性婚に関して緻密な書面が提出されており、弁護団が本判決を勝ち取るのにいかに汗を流してきたかが良くわかるものとなっています。

 判決では、 同性間の婚姻を認める規定を設けていない民法及び戸籍法の婚姻に関する諸規定について、法の下の平等を定める憲法14条1項に反するとの判断をしています。

 具体的には、「同性愛は精神疾患ではなく,自らの意思に基づいて選択、変更できないことは,現在は確立した知見になっている。圧倒的多数派である異性愛者の理解又は許容がなければ,同性愛者のカップルは,重要な法的利益である婚姻によって生じる法的効果を享受する利益の一部であってもこれを受け得ないとするのは,同性愛者の保護が,異性愛者と比してあまりにも欠けるといわざるを得ない」「我が国及び諸外国において,同性愛者と異性愛者との間の区別を解消すべきとする要請が高まっていることは考慮すべき事情である一方,同性婚に対する否定的意見や価値観を有する国民が少なからずいることは,同性愛者に対して,婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段を提供しないことを合理的とみるか否かの検討の場面においては,限定的に斟酌すべきものである」とした上で、同性愛者に対しては,婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段を提供しないとしていることは,立法府の裁量権の範囲を超えたものであるといわざるを得ず,本件区別取扱いは,その限度で合理的根拠を欠く差別取扱いに当たると解さざるを得ない」と判断しているのです。これまで日本の裁判所が同性婚を認めない民法等の規定を違憲であるとした判断はなく、まさに画期的な判断といえるでしょう。

 なお本判決は、同性婚を認めない民法等の規定は憲法24条には違反しないとしています。その理由については、現行民法への改正や憲法が制定された戦後初期の頃においても、同性愛は精神疾患であるとされており、同性婚は許されないものと解されていたこと、憲法 24条が「両性」など男女を想起させる文言を用いていることにも照らせば、同条は異性婚について定めたものであり、同性婚について定めるものではないというものです。ただここで本判決は、民法等で同性婚を認める規定をおくことについて「憲法24条に反する」という判断を行なっているわけではありません。ネット等では本判決が同性婚を憲法24条に違反するものと判示したというような言説がありますが、判決文にあたればそのような読み方は出来ないことは明白です。

 判決中にも言及されているとおり、日本では特に高齢者で同性婚について否定的な意見を持つ人が多く、(私も地方時代、そのような意見を聞くことが少なからずありました)、そのせいもあってか法制度の整備も遅々としているのが現状です。本判決を機に法制度整備をきちんと進める方向へ議論がなされることを期待します。

 

投稿者: 弁護士大窪和久

2020.03.18更新

 2020年4月1日より改正民法が施行されます。今回の改正は大規模改正であり多くの点が変わっておりますが、その中でも特に気をつけておく必要のある消滅時効の期間の変更について簡単に説明致します。

1 消滅時効期間の変更

 消滅時効とは、権利を行使しないまま一定期間が経過した場合に、その権利を消滅させる制度です。これまでは、原則として「権利を行使することができる時から10年」経過した場合に消滅時効が成立することになっていました。但し、例外が多数定められていました。例えば飲み屋のツケは1年で時効が成立したり、弁護士報酬については2年で時効が成立するということになっていたのです。

 改正後は、シンプルに統一化し、消滅時効期間は原則として「権利を行使することができることを知った時から5年、または権利を行使することができる時から10年」となりました。例えば貸金の場合、契約上返済期限は定まっているのが通常ですから、返済期限がきてから5年間経過してしまうと消滅時効が成立してしまい貸主が返済を求めることができなくなってしまいます。

2 生命・身体の損害による損害賠償請求権の時効期間の特則

 法改正により、生命・身体の損害が生じた場合の損害賠償請求については、通常より時効期間を延長させる(消滅時効期間を「権利を行使することができることを知った時から5年、または権利を行使することができる時から20年」とする)という特則が設けられました。詳しくは下記の通りです。

(1)契約責任に基づく損害賠償請求の場合

 例えば、会社で従業員が過労死し、会社は過大な労働をさせたとして契約上の安全配慮義務違反があったとして従業員の遺族に損害賠償しなければならないとします。前記の通り法改正後の消滅時効期間は原則「権利を行使するができることを知った時から5年、または権利を行使することができる時から10年」ですが、このケースのように契約上の義務違反により生命・身体の損害が生じた場合には、「権利を行使することができることを知った時から5年、または権利を行使することができる時から20年」の間は消滅時効が成立しないことになります。

(2)不法行為に基づく損害賠償請求の場合

 例えば、自動車事故により被害者が亡くなり、運転者側が被害者の遺族に対し損害賠償しなければならないとします。自動車事故のような不法行為の損害賠償請求の時効期間は原則「権利を行使することができることを知った時から3年、または権利を行使することができる時から20年」ですが、生命・身体の損害が生じた場合には、法改正により上記契約責任の場合同様「権利を行使することができることを知った時から5年、または権利を行使することができる時から20年」の間は消滅時効が成立しないことになります。

3 消滅時効については、2020年4月1日の法施行日の前に生じた債権、および施行日以後に生じた債権でもその原因である法律行為が施工日前になされていたものについては、改正前の民法の時効期間が適用されることになります。

 よって2020年4月1日以降、消滅時効期間がどうなるかについては契約時期等により異なることになりますので注意が必要です。

投稿者: 弁護士大窪和久

2020.01.28更新

 近時民法など相続に関する法律が大きく改正され相続に関するルールが変わっています。この記事では2019年7月1日の法施行により内容が変わった遺留分について、改正がなされた点及び注意点を簡単に説明します。

1 遺留分について変わった点1 遺留分減殺請求から遺留分侵害額請求へ
 遺留分とは、亡くなった人(被相続人)の相続財産について、被相続人の兄弟姉妹以外の法定相続人に法律上最低限保証された相続分のことを指します。
 この遺留分を侵害された場合、法改正前には相続人は「遺留分減殺請求権」を行使することができ、遺言による贈与自体が一部無効になるという効果が生じます。その結果、不動産が共有となってしまい、その後問題の解決の為に不動産の共有物分割請求という手続をとる必要がありました。
 このため、例えば被相続人が事業承継のため子どもに事業財産を遺贈した場合、それを良く思わない他の相続人から遺留分減殺請求がなされることによって、事業財産が共有になってしまい事業承継が上手くいかないといった事態が生じたりしていました。
 このような事態を解消するため、法改正により2019年7月1日以降に亡くなった人の関係では、遺留分が侵害された場合には「遺留分侵害額請求権」を行使することができるとされ、遺留分の侵害額に相当する金銭の請求をすることができることに変更されました。したがって、前記のような場合事業財産の共有という事態は生じなくなりました。もっとも金銭請求のみという形に変わったことで、支払が難しいという人が出てくることにも配慮して、裁判所が支払について相当の期限を許与することができるという条文も新設されてます。

2 遺留分について変わった点2 遺留分算定方法の見直し
 遺留分を算定するための財産価額は、法改正前には次のように算定していました。

相続開始時の資産-負債+相続人への生前贈与額(期間制限なし)+第三者への生前贈与(原則1年以内)
 しかし、法改正により2019年7月1日以降に亡くなった人の関係では、相続人への生前贈与について原則として相続開始の10年前からに限定されることになったので、法的な安定性が増しました。

3 遺留分についての注意点
 上記の通り、2019年7月1日より前か後かによって、遺留分によって請求できる権利の内容が変わりましたので、権利行使については留意する必要があります。
 また、遺留分については相続の開始及び遺留分を侵害する行為があることを知ったときから1年で消滅時効にかかり、権利行使できなくなるということは特に注意すべきことで、これは法改正によって変更はありません。ただ、法改正により遺留分侵害額請求権を行使した結果、金銭債権が生じることになりますが、この金銭債権についても消滅時効の問題があることには気をつける必要があります。金銭債権の消滅時効についても民法改正があり、改正法施行の2020年4月1日より前は10年と定められていますが、それ以降は5年と半分になってしまいます(なお、消滅時効の改正については別途記事を書く予定です)。

 遺留分については金額の算定等難しい点もありますので、権利行使を検討する際には予め弁護士に相談することをお勧めいたします。

投稿者: 弁護士大窪和久

2019.12.09更新

 近時民法など相続に関する法律が大きく改正され相続に関するルールが変わっています。この記事では2020年4月1日より施行される配偶者居住権について簡単に説明します。

 1 配偶者居住権について
 配偶者居住権とは、配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に居住していた場合に、原則として終身その建物に住み続けることができるという権利です。
 改正前に、配偶者が被相続人所有の建物に住み続けるためにはその建物の権利を得るというのが通常でしたが、その場合相続財産の分割で支障がでることがありました。
 例えば、相続人が妻及び子1人のみで、被相続人の遺産が自宅(評価額4000万円)及び預貯金が500万円だった場合、妻と子の相続分は1対1(妻2250万円、子2250万円)ということになります。妻が自宅に住み続ける場合自宅の権利を引き継ぐことになるのが通常ですが、預貯金が500万円しかありませんので、子が自分の相続分が足りないと不満に思い相続財産分割の審判を申立てる可能性があります。そして審判において自宅の売却が決まってしまい、結果妻が住まいを失うということにもなりえます。
 配偶者居住権が新設されたことにより、配偶者居住権は妻、同権利の負担付き自宅の所有権を子が取得するということができるようになりました。配偶者居住権の価値が2000万円だとすると、負担付き所有権の価値は2000万円となり、預貯金を250万円ずつ取得すれば法定相続分通りの相続でも妻が住まいを失うことにはなりません。

2 配偶者居住権の定め方
 配偶者居住権については、被相続人が遺言で妻に権利を遺贈するという形等で、被相続人が内容を定めることができます。
 被相続人が遺言で配偶者居住権について決めていなかったとしても、相続人間で協議して配偶者居住権について定めることができます。また相続人間で協議してまとまらなかった場合でも、遺産分割の審判を行う家庭裁判所が、妻の希望や妻の生活を維持するための必要性の高さなどを考慮して定めることができます。

3 配偶者居住権の注意点
 配偶者居住権で一点注意すべき所は、この権利について登記をしておかないと、建物の所有権を得た第三者にその権利を主張できなくなるという点です。例えば先の例で妻と子が協議を行い、自宅の配偶者居住権を妻が得た後で、子がその自宅を第三者に売却してしまったとします。この場合妻が配偶者居住権についてあらかじめ登記をしておかなかった場合、自宅の所有権を手に入れた第三者に権利を主張できず、自宅に住み続けることができないということになってしまいます。登記をしておかなければいけないという点は特に注意しておく必要があります。
 配偶者居住権は全く新しい制度ですので、遺言作成や相続財産分割の際どのように定めるか分からないということもあると思います。ご不明な点があればお近くの法律事務所に相談されることをおすすめいたします。

投稿者: 弁護士大窪和久

2019.12.02更新

近時民法など相続に関する法律が大きく改正され相続に関するルールが変わっています。この記事では遺言に関して変わったところについて簡単にまとめていきます。

1 自筆証書遺言(自分自身で書く遺言)の作成方法

 自筆証書遺言は法律上で作り方が定められており、それに従わない遺言は効力が認められません。
 従前は、自筆証書遺言については、財産目録を含めた全文を自書した上、日付と氏名を明記し押印したものでなければなりませんでした。法律改正後は遺言本文に添付する財産目録については、自筆ではなくても良いことになり、パソコン等で作成した目録を遺言に添付することができるようになりました。また、不動産の登記事項証明書、預貯金通帳のコピーなどを添付して目録として使用することも可能になりました。
 なお、偽造防止の為、自書によらない財産目録については、各ページに署名押印をしなければいけないことになっています。

2 法務局における自筆証書遺言の保管制度の創設
 2020年7月より自筆証書遺言を作成した人は法務局に遺言書の保管を申請することができるようになります。これまで自筆証書遺言は自宅に保管したり貸金庫に預けたりするような形で自分に保管するのが通常でしたが、それを公的機関である法務局で預かってくれるようになります。
 被相続人本人が亡くなった後、遺言書が保管されているかどうかについて相続人が法務局に問い合わせて調べることもできます。遺言書が保管されている場合には遺言書の閲覧をしたり、写しを交付してもらうこともできます。

3 遺言執行者人の権限の明確化
  遺言執行者とは、遺言の内容を正確に実現させるために必要なことを行う人を指し、遺言の中で被相続人本人が指定することができます。
  旧法では抽象的な規定のみでしか遺言執行者の権限については定められておらず、裁判例により具体化されていました。今回の法改正により遺言執行者の法的地位及び権限が法律上明確にされました。
  また、遺言執行人は財産目録を作成した上で遺言の内容を相続人に知らせることが義務とされました。このことにより、相続人は自分の相続内容について把握しやすくなりました。
  遺言制度に関する見直しが行われたことにより、以前より遺言による相続がやりやすくなりました。遺言の作成等ご不明な点があればお近くの法律事務所に相談されることをおすすめいたします。

投稿者: 弁護士大窪和久

弁護士大窪のコラム 桜丘法律事務所

法律相談であなたのお悩みお話ししてみませんか?

法律相談は、今後に対する見通しを立てるプロセス。
正式依頼は、具体的に関係者などへ働きかけていくプロセスです。
この両者は全く異なりますので、別物としてお考えください。
法律相談で得た知識を元に、ご自分で進めてみても良いでしょう。

桜丘法律事務所 弁護士 大窪和久 TEL:03-3780-0991 受付時間 9:30~20:00 定休日 土曜日曜・祝日 住所 〒150-0031 東京都渋谷区桜丘町17-6 渋谷協栄ビル7階 24時間WEB予約。受付時間外はこちらからご連絡ください。 WEBでのご予約・ご相談はこちら
sp_bn01.png
予約はこちらから