弁護士大窪のコラム

2022.08.19更新

2022年8月17日の読売新聞の記事によれば、「暴行でけがを負わせた相手方への賠償金支払いに応じず、裁判所の財産開示手続きに出頭しなかったとして民事執行法違反の疑いで書類送検され、大阪地検が不起訴とした加害者の男性に対し、大阪第4検察審査会が「起訴相当」と議決した」とのことです。本件で検察審査会の議決では男性には地裁から期日の呼び出しの書類が届いていたことなどを指摘し、「不起訴には疑義があり、国民の常識で考えると刑事責任は厳しく追及されるべきだ」としているとのことです。

財産開示手続については、現行法では6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金の刑事罰が定められています。刑事罰が定められる前は、財産開示手続の期日に出頭しない債務者が多く、手続の実効性について問題がありました。刑事罰が定められた現在、刑事罰導入前に比べて手続を無視する債務者も減少したように思われます。ただ、財産開示手続を無視する債務者に対して、検察が不起訴としてしまえば財産開示手続の実効性が損なわれることになることとなるでしょう。期日呼び出しが正当に行なわれていたにも関わらず、嫌疑不十分とした検察の判断については疑問が残るところであり、検察審査会により正常な判断がなされたといえるのではないでしょうか。

私が携わった案件でも、財産開示手続を利用することにより、債権回収に繋がったケースもあります。債務者の財産が不明な場合でも債権回収を諦めることなく、弁護士に相談して財産開示手続を進めることを検討しても良いでしょう。

投稿者: 弁護士大窪和久

2022.05.26更新

日本経済新聞の記事によれば、総務省が今年の夏に改正予定の郵便事業の個人情報保護の指針解説において、弁護士会照会(弁護士会が弁護士会を通じて照会を行ない情報開示を求める制度)による転居者情報の開示を認めるようにするとのことです。

日本郵便は、これまで郵便局に提出された転居届の情報について、弁護士会照会による開示に一切応じてきませんでした。この点、弁護士会照会による報告義務があることについては裁判において認められてきたものの、義務を怠ったことによるペナルティがない(弁護士会が損害賠償を求めた裁判において、最高裁が損害賠償義務を否定する判断をしたため)こともあり、転居先情報が開示されない状態が今も続いています。日弁連も日本郵便に弁護士会照会に対する回答を行なうよう会長談話をだしていますが全く聞き入れられませんでした。

これまで、転居先が分からないことにより裁判等を断念せざるを得ないケースが数多くありましたが、運用が変われば救われる人も出てくることになるでしょう。

 

投稿者: 弁護士大窪和久

2021.12.02更新

11月30日に、ツイッターの投稿のリツイートに対する法的責任を認めた東京地方裁判所の判決があり、各種メディアでも取り上げられています。

同判決の判決文については本日の時点では確認できておりませんが、ツイッターの投稿のリツイートに対する法的責任を認めた裁判例は珍しくありません。

昨年6月23日に大阪高等裁判所が出した判決(令和元年(ネ)第2126号)では、リツイートにより多数の閲読者が元ツイートを閲読することが可能な状態におかれることに着目し、「本件元ツイートの表現の意味内容が一般閲読者の普通の注意と読み方を基準として解釈すれば他人の社会的評価を低下させるものであると判断される場合,控訴人が本件投稿によって本件元ツイートの表現内容を自身のアカウントのフォロワーの閲読可能な状態に置くということを認識している限り,違法性阻却事由又は責任阻却事由が認められる場合を除き,本件投稿を行った経緯,意図,目的,動機等のいかんを問わず,本件投稿について不法行為責任を負うものというべきである」との判断を行なっています。確かに、元ツイートがそのままの形で拡散することそれ自体が被害を拡大するものですから、本高裁判決の考え方は基本的に妥当だろうと私も考えています。

クリック一つで簡単に行なうことができるリツイートですが、それを行なうことにより重い責任が課されることもありますので、リツイートを行なうにあたってはその点を考慮して行なうべきでしょう。

 

 

投稿者: 弁護士大窪和久

2021.07.02更新

共同通信で、「米、日本の技能実習を問題視 国務省が人身売買報告書」とのニュースが報じられていました。

同ニュース記事によれば、「米国務省は1日、世界各国の人身売買に関する2021年版の報告書を発表した。日本については国内外の業者が外国人技能実習制度を「外国人労働者搾取のために悪用し続けている」として問題視」「日本の外国人技能実習制度では政府当局の監視強化などが必要だと明記」とのことです。

外国人技能実習制度については、技能実習とは建前で、実態としては安い労働力確保の手段として都会・地方問わず広く使われているものとして国内外でも問題視されて久しいです。米国も2010年以来毎年年次報告書でこの制度を批判しており、今回が初めてではありません。そうした批判にも関わらず我が国は外国人技能実習制度を継続しています。

この外国人技能実習制度の犠牲になった方の一人について、先日当事務所の新人が事件として受任しており、雇用先が不払にしていた給料を先取特権を行使し差押を行ないました(詳細は事務所ブログのこちらの記事参照)。これは氷山の一角にすぎず、同制度が続く限りは同じように犠牲になる人が増え続けていくことになるでしょう。

投稿者: 弁護士大窪和久

2021.05.16更新

読売新聞オンラインで、「【独自】家族間問題に「ウェブ調停」導入へ…東京など4家裁で試行」との記事が掲載されていました。

記事によれば、「最高裁は、家族間の問題を扱う家事調停に、インターネット上で手続きを進める「ウェブ会議」を導入する方針を固めた。裁判のIT化の一環で、今年度内に東京、大阪、名古屋、福岡の4家裁で試行を開始し、その後、他地域への拡大も検討する」とのことです。

これまで、離婚や相続の家事調停については、原則として当事者が裁判所に出頭して行なうこととされています。調停の場合訴訟と異なり、当事者間の協議を行なうという性格上、代理人がついている場合でも当事者本人も裁判所に来る必要がありました。当事者が遠隔地に居住する場合等については、電話会議を用いる運用も例外的に行なわれてはいますが、原則としては裁判所への出頭が必要です。

民事訴訟についてはWEB会議が実施されるようになっていますが、家事事件についてはこれまで実施されておらず、これからの課題とされていたところです。

この点、特に東京家裁においては、当事者が裁判所に多数出頭することで裁判所が混み合う状況がかねてより存在し、昨年からのコロナ渦においては三密を避ける目的から調停期日を多く入れられないということも生じています。新型コロナウイルス感染防止の観点から裁判所に人が来ることを防ぐ必要は確かにありますので、WEB会議については積極的に実施して頂きたいものです。

投稿者: 弁護士大窪和久

2020.12.23更新

最高裁が袴田事件の高裁決定(1審で行なわれた再審決定を覆す)を取消、東京高裁に差し戻した上で再度審理するべきという決定を行ないました。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201223/k10012779771000.html

本件決定で興味深いのは、5人の裁判官のうち2人が、東京高裁での審理をさせるのではなく、最高裁自ら再審開始決定の判断をすべきだという意見をだしていることです。

2人の裁判官は、本件で出されている証拠(DNA鑑定と、みそ漬けの再現実験の報告書)はいずれも新証拠として認められる物で、高裁の審理を要することなく再審開始の要件をみたすものであり、高裁に差し戻すことにより時間を費やすことに反対するという理由から、上記意見を出しています。最高裁の裁判官がこのような意見を出すのは異例ですが、この事件が既に50年余り費やしている事件であることを鑑みれば、2人の裁判官がこのような意見を出すことはうなずけます。1審で行なわれた再審決定からも既に6年も経過しており、高裁差戻の再審決定→再審開始も更に時間を要するのは当事者にとって酷にすぎるといえるでしょう。

投稿者: 弁護士大窪和久

2020.10.12更新

手軽にVRを楽しめるVRヘッドセットとして、Oculus Questがあります。PCやゲーム機といった親機と接続することなくスタンドアローンで映像やゲームなどを体験することができる製品

私自身も購入して試してみましたが、確かに画期的な製品だと思いましたが、既存のゲーム機・スマートフォンと比べて画素が荒く、まだまだ発展途上のものであるという感想を抱いています。

この新製品であるOculus Quest 2が明日発売となります。カタログスペックでいうと既存機を遙かに上回るものであり、期待できるかもしれません。

ただその反面、Oculus Quest 2などOculusのヘッドセットを使うに当たって、今月よりfacebookのアカウントが必須となったことがインターネット上で議論となっています。2014年にOculusを買収したFacebookの意向によるものですが、facebookのアカウントで登録したところアカウントが凍結されてしまい、使用できなくなったというケースが少なからず報告されているようです。また、そもそもこのOculusのログインにFacebookアカウントを必須とすることは反トラスト法(独占禁止法)に引っかかる可能性もあるとの指摘もあります。

上記のような問題もありますので、購入に当たっては様子を見ておき、問題が解決された段階で新規購入してみようかと思います。

 

投稿者: 弁護士大窪和久

2020.10.03更新

裁判官が民事事件に関する文書やUSBメモリーを紛失するという事件が報道されていました。

NHKの報道によれば、「高松地方裁判所によりますと刑事部に所属する男性の裁判官が先月26日午前2時ごろに飲酒を伴う会食をしたあと、帰宅途中にリュックサックを紛失した」「リュックサックにはこの裁判官が担当する予定の民事裁判の原告側や被告側が作った書面の写しや、この裁判を含む複数の裁判についての情報が記録されたUSBメモリが入っている」とのことです。

裁判所は、裁判官が裁判に関する文書やデータを自宅に持ち帰る際は飲酒はせず、娯楽施設などに立ち寄らないよう指導していたにも関わらず、この指導を守らなかった裁判官に落ち度があるとしているようです。ただ、そもそも機密情報であるデータをUSBという紛失しやすい媒体で持ち帰ったり、裁判に関する文書を自宅に持ち帰ったりするという運用そのものがあり得ないことではないでしょうか。

しかも、裁判官が裁判に関する文書やUSBを紛失することはこれまでにもあったことです。裁判所の外部に持ち出す以上常に紛失する可能性は付いて回るものなので、再発を防ぐためには持ち出し自体を禁止すべきでした。民間企業では通常のルールとして運用されているものですが、裁判所は事件情報という当事者にとって非常にセンシティブなものについて杜撰な取り扱いを行ない続けていることになり、大変な問題といって良いでしょう。

コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言より後も、裁判所は隔週開廷となったり、裁判官も含めた職員が交代で休みを取るなどしてソーシャルディスタンスを図っています。このことにより事件滞留も指摘されているところです。裁判官も事件滞留を防ぐためには自宅での起案をせざるを得ないという事情もあったのかも知れません。しかし裁判官の自宅起案を認めるのであれば、そもそも事件情報を持ち出さなくても参照できるシステム(VPNの導入、クラウドストレージの利用等)を進めておくべきでした。もちろんVPNやクラウドストレージからの情報流出の危険は皆無ではありませんが、USBを持ち歩くことよりは危険度は遙かに低いものです。かりにこうしたシステムをどうしても導入できないのであれば、ソーシャルディスタンスを保って業務や起案のできる事務所等を臨時に借り上げるべきでしょう。

裁判所が今回紛失した裁判官を非難することに終始し、運用の問題点を抜本的に改善するのでなければ、今回のような事態が再発することは必須です。

投稿者: 弁護士大窪和久

弁護士大窪のコラム 桜丘法律事務所

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