裁判官が民事事件に関する文書やUSBメモリーを紛失するという事件が報道されていました。
NHKの報道によれば、「高松地方裁判所によりますと刑事部に所属する男性の裁判官が先月26日午前2時ごろに飲酒を伴う会食をしたあと、帰宅途中にリュックサックを紛失した」「リュックサックにはこの裁判官が担当する予定の民事裁判の原告側や被告側が作った書面の写しや、この裁判を含む複数の裁判についての情報が記録されたUSBメモリが入っている」とのことです。
裁判所は、裁判官が裁判に関する文書やデータを自宅に持ち帰る際は飲酒はせず、娯楽施設などに立ち寄らないよう指導していたにも関わらず、この指導を守らなかった裁判官に落ち度があるとしているようです。ただ、そもそも機密情報であるデータをUSBという紛失しやすい媒体で持ち帰ったり、裁判に関する文書を自宅に持ち帰ったりするという運用そのものがあり得ないことではないでしょうか。
しかも、裁判官が裁判に関する文書やUSBを紛失することはこれまでにもあったことです。裁判所の外部に持ち出す以上常に紛失する可能性は付いて回るものなので、再発を防ぐためには持ち出し自体を禁止すべきでした。民間企業では通常のルールとして運用されているものですが、裁判所は事件情報という当事者にとって非常にセンシティブなものについて杜撰な取り扱いを行ない続けていることになり、大変な問題といって良いでしょう。
コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言より後も、裁判所は隔週開廷となったり、裁判官も含めた職員が交代で休みを取るなどしてソーシャルディスタンスを図っています。このことにより事件滞留も指摘されているところです。裁判官も事件滞留を防ぐためには自宅での起案をせざるを得ないという事情もあったのかも知れません。しかし裁判官の自宅起案を認めるのであれば、そもそも事件情報を持ち出さなくても参照できるシステム(VPNの導入、クラウドストレージの利用等)を進めておくべきでした。もちろんVPNやクラウドストレージからの情報流出の危険は皆無ではありませんが、USBを持ち歩くことよりは危険度は遙かに低いものです。かりにこうしたシステムをどうしても導入できないのであれば、ソーシャルディスタンスを保って業務や起案のできる事務所等を臨時に借り上げるべきでしょう。
裁判所が今回紛失した裁判官を非難することに終始し、運用の問題点を抜本的に改善するのでなければ、今回のような事態が再発することは必須です。