弁護士大窪のコラム

2026.08.18更新

弁護士の業務に、AIをはじめとする技術がどこまで関わってよいのかは、私自身も関心をもって見ている問題です。令和八年八月、報道によりますと、法務省が、生成AIを用いたいわゆるリーガルテックの推進に向けて、どこまでが弁護士法の禁じる「非弁行為」に当たらない適法なサービスなのかを明確にする、新しい指針をまとめたことが明らかになりました。契約書の作成やチェックをAIが支援するサービスは、すでに企業の法務の現場で使われ始めており、それを利用してよいのか、あるいは提供する側として弁護士法に触れないのか、という問題は、今後さらに身近なものになっていくと思われます。まず申し上げておきたいのは、この指針は、企業の法務を支援するAIサービスについて、これまで曖昧だった適法と違法の境目を示し、事業者が萎縮せずにサービスを展開できるようにするという、規制緩和の方向を打ち出したものだということです。他方で、AIに任せてよい場面とそうでない場面の見極めは依然として重要であり、利用する側にも提供する側にも、なお慎重さが求められる点は変わりません。

はじめに、前提となる弁護士法七十二条について確認しておきます。同条は、弁護士または弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で、訴訟事件や紛争といった法律事件に関する法律事務を、業として取り扱うことを原則として禁止しています。これは、いわゆる「非弁行為」の禁止と呼ばれるもので、法律の専門家でない者が報酬目的で他人の法律事務に立ち入ることによって、依頼した方が不利益を被ったり、法律秩序が乱されたりすることを防ぐための規制です。違反した場合には刑事罰の定めもあります。以前のコラムでも、「必ず消せます」とうたうインターネットの削除業者について、弁護士でない者が報酬を得て削除の交渉や手続を代行することはこの七十二条に触れるおそれがある、と申し上げたことがありますが、この条文は、AIを用いたサービスについても同じように問題になり得ます。

AIと弁護士法七十二条との関係については、すでに令和五年八月に、法務省が「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第七十二条との関係について」という指針を公表していました。もっとも、その後の生成AIの急速な発展もあって、当時の指針では適法と違法の線引きが分かりづらく、かえって事業展開の妨げになっているとの指摘が出ていたようです。報道によりますと、今回の新しい指針は、この点をより具体的に整理し、たとえば、一つ目に紛争案件に用いることを目的として設計されたサービスではないこと、二つ目にそのために特化した機能を備えていないこと、三つ目に紛争案件への不適切な利用を避けるための措置が講じられていること、といった条件を満たしている場合には、仮にそのサービスが結果として紛争の場面で使われることがあったとしても、直ちに事業者による非弁行為とみなすのは難しい、という考え方を示したとされています。そのうえで、契約書の作成・審査・管理や、社内の内部通報に関する調査、コンプライアンスに関する業務などを支援するサービスは、原則として弁護士法に触れないものとして例示された、と報じられています。

このように適法な範囲が明確になること自体は、企業がAIを安心して活用していくうえで意義のあることだと思います。もっとも、私が弁護士の立場から申し上げておきたいのは、線引きが緩やかになるということは、裏を返せば、信頼性の十分でないサービスが世に広がりやすくなるということでもある、という点です。実際、今回の指針も、信頼性の低いサービスが広がれば法秩序が害されかねないと指摘し、弁護士の関与や、問題が生じた場合の相談窓口の設置、重大な規約違反があった場合にサービスの利用を停止する措置といった、事業者側の体制の整備を求めていると報じられています。AIは、定型的な契約書のチェックや情報の整理といった場面では大いに力を発揮しますが、個別の事情を踏まえた法的な判断や、相手方との交渉、紛争そのものの解決は、本来、責任を負う弁護士が担うべき領域です。利用される企業の側でも、どこまでをAIに任せ、どこからを弁護士に相談するのかを、意識して使い分けていただくことが大切だと思います。

もう一つ、今回の議論で触れておきたいのは、こうした技術の活用が、企業の法務にとどまらず、一般の市民の司法へのアクセスをどう広げていくか、という視点です。報道の中でも、専門家から、弁護士の偏在が深刻化している現状を踏まえ、企業法務だけでなく、市民が法的な助けを得やすくするという観点も必要であり、将来的には、適切な仕組みを整えたうえで、離婚後の養育費の取決めのような一部の身近な問題についても技術を使えるようにしていくべきだ、との指摘がなされています。諸外国でも、ドイツやアメリカの一部の州などで、弁護士でない事業者による法的サービスを、消費者保護の仕組みとあわせて一定の範囲で認めていく動きがあるようです。法務省も、今年度中に有識者による検討会を設け、来年度中にルールのあり方をまとめ、必要であれば新しい法律の制定も含めて検討していく方針だと報じられており、この分野の制度は、今後さらに動いていくものと思われます。

AIをはじめとする技術が法律の世界に入ってくること自体は、避けられない流れであり、うまく使えば、これまで法的な助けを得にくかった方々にとっての助けにもなり得ます。私自身も、日々の業務の中で、こうした技術の便利さと危うさの両方を感じています。大切なのは、便利さだけに目を向けるのではなく、その判断に誰が責任を負うのか、利用する方が不利益を被らない仕組みになっているのか、という点を見失わないことだと思います。AIを用いたサービスの利用にあたってご不安がある場合や、ご自身の抱えておられる問題がAIに任せてよいものかどうか迷われた場合には、まずはお早めに弁護士にご相談いただければと思います。

投稿者: 弁護士大窪和久

2026.08.17更新

X(旧Twitter)に事実に反する書き込みや中傷をされ、誰が投稿したのかを明らかにしたい、というご相談をお受けすることがあります。発信者情報の開示は、私が中心的に取り扱っている分野の一つですので、まず結論から申し上げますと、Xの匿名のアカウントによる投稿であっても、投稿者を特定できる場合は少なくありません。もっとも、Xには、投稿そのものを行なった時のIPアドレスを保有していないことや、後で述べる裁判上の手続を段階を踏んで進めなければならないことなど、他のサービスとは異なる特有の事情があり、また通信の記録が保存されている期間にも限りがありますので、特定できるかどうかは、着手の早さに大きく左右されます。残念ながら特定できないこともある、というのが正直なところですが、だからこそ、早めに手続を始めていただくことが何よりも大切です。

はじめに、投稿者を特定するための手続の枠組みを確認しておきます。インターネット上の匿名の投稿について、その投稿者を明らかにするためには、おおまかにいえば、まず投稿がされたサービスの提供者(X)から、投稿に用いられたIPアドレスなどの情報を開示させ、次に、そのIPアドレスから判明する通信会社(経由プロバイダ)に対して、契約者の氏名・住所の開示を求める、という二つの段階を経ることになります。令和四年十月からは、これらをできるだけ切れ目なく進めることを念頭に置いた「発信者情報開示命令」という制度も設けられました(当時のプロバイダ責任制限法、現在の情報流通プラットフォーム対処法に基づくものです)。この制度には、次にどの通信会社へ手続を進めればよいかをサービスの提供者に明らかにさせる「提供命令」や、通信の記録が消されないよう保全を命じる「消去禁止命令」といった手段が付属しており、サービスの提供者がこれらに応じてくれる場合には、二つの段階を比較的スムーズに進めることができます。いずれの手続でも、開示が認められるためには、その投稿によって権利が侵害されたことが明らかであること、そして発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があること、という要件を満たす必要があります。単に不快であるとか腹立たしいというだけでは足りず、名誉を毀損する事実の摘示にあたるなど、法的に保護される権利の侵害があるといえることが求められる、という点にはご留意いただきたいと思います。

もっとも、Xについては、この枠組みがそのままには当てはまらない、という点に注意が必要です。まず、Xは、一般に、投稿がされた時点のIPアドレスを保有しておらず、開示を求めても得られるのは、そのアカウントにログインした際のIPアドレス(ログイン情報)であることが多いという事情があります。加えて、実務上、Xは前述の提供命令には応じない取扱いが続いており、提供命令を使って経由プロバイダを早い段階で把握する、という道が現実には使いにくいのが実情です。そのため、Xに対しては、まず発信者情報開示の仮処分を申し立てて、ログイン時のIPアドレスなどのログイン情報を開示させ、そのうえで、そこから判明した経由プロバイダに対して、改めて発信者情報開示命令(あるいは開示請求の訴訟)を申し立てて契約者の氏名・住所の開示を求める、という二段階の手続を、それぞれ別々に進めていくことになります。なお、Xは、アカウントの登録に用いられたメールアドレスや、場合によっては電話番号を保有していることがあり、これらの開示を受けられれば、投稿者にたどり着くための手がかりとなることもあります。Xは、令和七年四月に施行された情報流通プラットフォーム対処法において、総務省から大規模な事業者の一つとして指定されており、削除の申出などについては窓口の整備が求められていますが、投稿者を特定するための手続については、以上のとおり、原則として裁判所を通じて段階を踏んで行なうことになります。

ここで特に申し上げておきたいのが、時間との関係です。経由プロバイダが保有するアクセスの記録は、おおむね三か月から六か月程度で消去されてしまうことが多く、この記録が失われてしまいますと、たとえその後に手続を進めても、投稿者にたどり着けなくなってしまいます。Xに対する仮処分と、経由プロバイダに対する開示の手続とを、順を追って別々に行なわなければならないことを考えますと、なおさら早く動くことが重要になります。経由プロバイダに対する手続では、記録が消されてしまわないよう、契約者情報の開示とあわせて、通信記録の保全を求めておくことも考えられます。Xから得られるのがログイン時のIPアドレスにとどまることとあわせて考えますと、投稿を見つけてから実際に動き出すまでの時間の長さが、特定できるかどうかを大きく左右することになります。

一方で、被害に遭われた際に、やってはいけないこともあります。まず、相手のアカウントに対して、ご自身のアカウントから公開で反論をしたり、感情的なやり取りを続けたりすることです。応酬が表に残ってかえって拡散を招くことがありますし、後に開示や損害賠償を求める場面で、ご自身の投稿の当否まで問題にされてしまうこともあります。次に、問題の投稿を、証拠を残さないまま相手に削除させたり、通報して消してもらったりしてしまうことです。投稿が消えてしまうと、そもそも権利の侵害があったこと自体の立証が難しくなりますので、まずは投稿のURLや画面、投稿の日時が分かる形での保存をしておいていただくことが大切です。そして、「必ず特定できます」とうたう業者にもご注意ください。弁護士でない者が報酬を得て開示請求の手続を代行することは、弁護士法(第七十二条)に触れるおそれがあります。

投稿者を特定できた場合には、その方に対して、名誉毀損などの不法行為(民法第七百九条)に基づく損害賠償を求め、また、二度と同様の投稿をしないよう求めていくことになります。開示の手続に要した弁護士費用の一部についても、損害として賠償を求めることが認められる場合があります。費用や期間の見通しについては、投稿の数や内容、相手方の通信会社がどこか、任意の開示に応じるか否かなどによって大きく異なりますので、一律に申し上げることは難しいのですが、Xに対する仮処分と、経由プロバイダに対する開示という二段階の手続を、順を追って別々に進めていくことになりますので、特定までにおおむね数か月から一年程度の時間がかかることも少なくありません。ご相談の際には、想定される手続の流れとあわせて、費用の見込みについてもご説明いたします。繰り返しになりますが、通信の記録が消えてしまう前に着手できるかどうかが、結果を大きく左右します。Xでの誹謗中傷にお困りの際には、まずは投稿の記録を保存していただいたうえで、お早めにご相談いただければと思います。

 

 

投稿者: 弁護士大窪和久

2026.08.10更新

企業のご担当者から、社内の通報窓口をどのように整えればよいか、通報をしてきた社員をどこまで守らなければならないのか、といったご相談を、私もお受けすることがあります。公益通報者保護法は令和七年に大きく改正され、その改正法が令和八年十二月一日から施行されることになりました(施行の期日は、令和七年十二月に公布された政令で定められています)。まず申し上げておきたいのは、この改正によって、通報をした人を保護する仕組みが一段と強化される一方で、企業の側から見ると、対応を誤った場合の責任が重くなり、あらかじめ整えておくべき事柄も増えるということです。他方で、施行まではまだ時間がありますので、今のうちから順を追って準備をしていただければ、慌てる必要はありません。以前のコラムで改正の内容そのものには触れましたが、施行が近づいてまいりましたので、あらためて、企業として今から備えておくべき点を、実務の観点から整理しておきたいと思います。

はじめに、現在の制度を確認しておきます。公益通報者保護法は、労働者などが、勤務先の法令違反にあたる事実を、社内の窓口や監督官庁、報道機関などに通報した場合に、その通報を理由とする解雇その他の不利益な取扱いから通報者を保護する法律です。令和二年の改正(令和四年六月一日施行)により、常時使用する労働者の数が三百人を超える事業者には、通報に適切に対応するために必要な体制を整備する義務(同法十一条二項)と、通報を受け付けて対応する担当者を「公益通報対応業務従事者」として指定する義務(同法十一条一項)とが課されました。この従事者には、通報者を特定させる事項を漏らしてはならないという守秘義務があり、これに違反した場合には刑事罰(三十万円以下の罰金)が科されることがあります。なお、常時使用する労働者が三百人以下の事業者については、これらは努力義務とされています。

そのうえで、令和七年の改正(令和七年六月十一日公布・令和七年法律第六十二号)によって、大きく次のような点が変わります。まず、通報者に対する不利益な取扱いを抑止するための仕組みが強められます。これまでは、通報を理由に解雇や懲戒などの不利益な取扱いをしても、その効力が否定されたり、損害賠償の対象になったりするにとどまっていましたが、改正法では、公益通報を理由として解雇または懲戒を行なった者に対して、刑事罰が科されることになります。報道等によれば、その法定刑は、行為をした個人について六月以下の拘禁刑または三十万円以下の罰金、法人については三千万円以下の罰金とされています。さらに、公益通報をした時からおおむね一年以内にされた解雇・懲戒については、公益通報を理由としてされたものと推定するという、いわゆる立証責任を転換する規定が設けられます。これにより、企業の側で、その解雇や懲戒が通報とは関係のない正当な理由によるものであることをきちんと説明できなければ、違法と扱われやすくなります。

次に、通報を妨げようとする行為への対処も加えられます。誰が通報したのかを詮索する、いわゆる通報者の探索を行なうことが禁止され、また、通報をしないことをあらかじめ約束させるような合意は無効とされます。あわせて、消費者庁による立入検査の権限が新設され、行政の勧告に従わない場合の命令や、その命令に違反した場合の罰則も設けられます。企業の対応が不十分な場合に、行政による関与が強まることになります。また、保護される「公益通報者」の範囲も広がります。現在は、在職中の労働者や、退職後一年以内の退職者、役員などが対象とされていますが、改正により、業務委託を受けて働くいわゆるフリーランス(特定受託事業者)なども保護の対象に加えられる予定です。社外の委託先も視野に入れて、通報の受付や周知のあり方を考えておく必要があります。

こうした改正を前に、企業の側でやっていただきたくないことを申し上げます。まず、通報をしてきた社員を、それを理由に配置転換したり、退職に追い込んだり、人事評価で不利に扱ったりすることです。改正後はこうした行為に刑事罰が伴い得るうえ、先ほどの推定規定によって、通報の後にされた不利益な取扱いは通報を理由とするものと扱われやすくなります。次に、通報者が誰かを社内で探ろうとしたり、「余計なことを外部に言うな」といった口止めをしたりすることも、禁止や無効の対象となりますので、避けるべきです。そして、「うちは従業員が三百人以下だから関係ない」と考えて何もしないことも、おすすめできません。体制整備が努力義務にとどまる小規模な事業者であっても、通報者を不利益に取り扱ってはならないという保護の規定そのものは、規模にかかわらず全ての事業者に及びます。最後に、施行の直前になって慌てて対応しようとすることも、避けたいところです。規程の見直しや社内への周知には、相応の時間がかかるためです。

そのうえで、施行までに備えておくべきことを整理します。体制整備義務のある事業者であれば、まず、現在の内部通報規程が改正法の内容に沿っているかを点検し、必要に応じて改訂することになります。通報を受け付ける窓口が実際に機能しているか、従事者の指定や守秘の取扱いが適切かを確認し、通報者を不利益に扱わないこと、探索や口止めをしないことを、担当部署だけでなく管理職を含めて社内に周知していくことが重要です。保護の対象が広がることを踏まえ、従業員だけでなく、退職した方や業務委託先に対しても、通報窓口の存在や利用の方法を伝える工夫が求められます。なお、この改正にあわせて、企業がとるべき措置を具体的に示す法定の指針も見直されることになっていますので、最終的にはその内容も踏まえて整えていくことになります。三百人以下の事業者においても、努力義務ではありますが、これを機に最低限の窓口と規程を整えておくことは、社内の不正を早期に発見し是正するという点でも意味があると考えます。

規程の整備や研修にどの程度の手間や費用がかかるかは、会社の規模や、現在の体制がどの程度整っているかによって大きく異なりますので、一律に申し上げることは難しいところです。ご相談をいただければ、貴社の現状をうかがったうえで、施行までに何を優先して行なうべきか、想定される進め方とあわせてご説明いたします。公益通報への対応は、いざ通報が寄せられてから慌てて整えようとしても間に合わないことが少なくありません。施行までまだ時間のある今のうちに、社内の体制を一度点検しておかれることをおすすめします。ご不明な点や、体制整備の進め方についてお考えの際には、まずはお早めにご相談いただければと思います。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 内部リンク(本文末・実URL)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
公益通報者保護法改正により通報者に対する(不)利益な取扱いからの保護・救済が大幅強化されました

【最高裁判例】正社員と契約社員の退職金・賞与の格差が不合理か否か



投稿者: 弁護士大窪和久

2026.08.03更新

親御さんが亡くなられて相続をどう進めればよいか分からないというご相談や、以前に相続が起きたものの、そのままにしてある不動産があるというご相談をお受けすることがあります。相続に関する法律は、平成三十年から令和にかけて大きく改正され、その後も見直しが続いています。まず申し上げておきたいのは、これらの改正の中には、手続を放置していると不利益を受けたり、過料を科されたりしかねないものが含まれているということです。他方で、正しく理解して早めに動いていただければ、過度に慌てる必要はありません。この機会に、相続法の改正が実務でどう変わったのか、そして今、特に気をつけていただきたい点を整理しておきたいと思います。

はじめに、少し前の改正になりますが、遺言と遺留分について確認しておきます。まず遺言については、以前のコラムでも触れたとおり、自筆証書遺言に添付する財産目録を手書きではなくパソコンなどで作成できるようになり(平成三十一年一月十三日から)、また、法務局で自筆証書遺言を保管してもらえる制度も始まりました(令和二年七月十日から。「法務局における遺言書の保管等に関する法律」)。自宅で保管する自筆証書遺言には、紛失や改ざん、あるいは死後に発見されないおそれがありますが、法務局の保管制度を利用すれば、こうした心配を避けることができ、家庭裁判所の検認の手続も不要になります。次に遺留分についてです。令和元年七月一日以降に亡くなった方の相続については、いわゆる遺留分の制度が大きく変わりました(民法千四十六条)。以前は「遺留分減殺請求」といって、遺贈や贈与された財産そのものを取り戻すという考え方でしたが、現在は「遺留分侵害額請求」といい、侵害された遺留分に相当する金銭の支払を求める権利へと改められました。これにより、不動産などが相続人同士の複雑な共有状態になることを避けやすくなっています。もっとも、この権利には期間の制限があり、相続の開始と遺留分を侵害する遺贈・贈与があったことを知った時から一年以内に行使しなければ、時効によって消滅してしまいますので(民法千四十八条)、この点は注意が必要です。

そのうえで、近年の改正の中で特に気をつけていただきたいのが、遺産分割の「十年ルール」と、相続登記の義務化です。

まず、遺産分割についてです。令和五年四月一日に施行された民法の改正により、相続が開始した時から十年を経過した後にする遺産分割については、原則として、特別受益(生前贈与などを受けていたこと。民法九百三条)や寄与分(被相続人の財産の維持・増加に特別の貢献をしたこと。民法九百四条の二)を主張することができなくなりました(民法九百四条の三)。これらは、本来であれば各相続人の取り分を具体的な事情に応じて調整するための仕組みですが、相続開始から十年が過ぎると、原則として法定の相続分(あるいは遺言による指定相続分)で分けることになるわけです。しかも、この十年ルールは、令和五年四月一日より前に発生していた相続にも適用されます(ただし、施行の時点ですでに相続開始から相当の年数が経っている場合には、施行の時から少なくとも五年間の猶予が設けられています)。長年にわたって遺産分割を先延ばしにしてきた場合、「自分が親の面倒をみてきた」「他の相続人が生前に多額の援助を受けていた」といった事情を主張できなくなってしまうおそれがありますので、心当たりのある方は早めに手を着けていただくのがよいと思います。

次に、相続登記の義務化です。令和六年四月一日から、不動産を相続で取得した相続人は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつその不動産の所有権を取得したことを知った日から三年以内に、相続登記の申請をしなければならないことになりました(不動産登記法七十六条の二)。正当な理由なくこれを怠った場合には、十万円以下の過料が科されることがあります。そして注意していただきたいのは、この義務が、令和六年四月一日より前に相続が発生していた不動産についても及ぶという点です。この場合は、施行日である令和六年四月一日から三年以内、すなわち令和九年三月三十一日までに登記をする必要があります。「昔亡くなった親の名義のままになっている土地がある」という場合も対象になりますので、注意が必要です。もっとも、遺産分割がまとまらないなど、すぐに正式な相続登記ができない事情がある場合には、「相続人申告登記」という簡易な手続をとることで、とりあえず登記の義務を果たしたものと扱ってもらうことができます(不動産登記法七十六条の三)。これは、自分がその被相続人の相続人であることを法務局に申し出るだけのもので、過料を避けるための暫定的な手段として利用できます。ただし、これはあくまで暫定的なものであり、最終的には遺産分割を経て正式な相続登記をする必要がありますので、この点は誤解のないようにしていただきたいところです。

こうした手続を進めるにあたって、やっていただきたくないのは、やはり放置してしまうことです。相続をそのままにしておくと、その間に相続人のどなたかが亡くなって次の相続が重なり(いわゆる数次相続)、関係者が二十人、三十人と膨れ上がって、話し合い自体が極めて困難になってしまうことが少なくありません。また、感情的な対立から一部のご親族だけで話を進めようとして、かえってこじれてしまう例もよく見受けられます。費用や期間については、遺産の内容や相続人の数、争いの有無によって大きく異なりますので一律に申し上げることは難しいのですが、遺産分割の話し合いがまとまらず調停や審判に至る場合には、相応の時間がかかることが見込まれます。ご相談の際には、想定される手続の流れとあわせて、費用の見込みについてもご説明いたします。相続は、時間が経つほど関係者が増え、資料も集めにくくなり、選べる手段も狭まっていきます。相続のことでご不安がある場合には、まずはお早めにご相談いただければと思います。

──────────────────────
■ 関連コラム
──────────────────────
遺留分について法改正がなされた点及び注意点 
遺言に関する見直しについて 
配偶者居住権について 

投稿者: 弁護士大窪和久

2026.07.27更新

ある日突然、ご家族が逮捕されたという連絡を受け、どうしてよいか分からないまま、当事務所にお電話をくださる方がいらっしゃいます。ご本人と連絡が取れず、警察も詳しいことを教えてくれない、面会もできないと言われた――という状況で、強い不安を抱えてご相談に来られるのがほとんどです。まず申し上げておきたいのは、逮捕された直後の時期は、その後の見通しを大きく左右する非常に大切な時間であり、この時期にご家族にできることは、限られてはいるものの、確かにあるということです。他方で、良かれと思ってなさったことが、かえってご本人に不利に働いてしまうこともありますので、落ち着いて対応していただくことが大切です。

はじめに、逮捕された後、身柄の拘束がどのように進んでいくのかを整理しておきます。警察官は、被疑者を逮捕した場合、留置の必要があると判断すれば、逮捕の時から四十八時間以内に、書類とともに被疑者を検察官へ送致する手続をとらなければなりません(刑事訴訟法二百三条)。送致を受けた検察官は、二十四時間以内に、引き続き身柄を拘束する必要があると考えれば、裁判官に対して勾留を請求します(同法二百五条)。裁判官が勾留を認めると、原則として十日間、被疑者は勾留されることになり、さらにやむを得ない事由があると認められれば、最大で十日間まで延長されることがあります(同法二百八条)。つまり、逮捕から勾留の満期までは、最長でおよそ二十日余りという時間の枠組みの中で、起訴するかどうかが判断されていくことになります。この間、特に逮捕から勾留が決まるまでの最初の数日間は、ご本人が外部と連絡を取りにくく、また取調べも集中して行なわれる、極めて重要な時期です。

次に、この時期にご本人・ご家族が気をつけていただきたいことを申し上げます。まず、取調べにおける供述の問題です。ご本人には、自分の意思に反して供述をする必要はないという黙秘権が保障されています。これは憲法の保障する権利であり(憲法三十八条一項)、刑事訴訟法上も、取調べに先立って自己の意思に反して供述をする必要がない旨が告げられることになっています(同法百九十八条二項)。動揺した状態のまま、事実と異なる供述をしてしまったり、記憶があいまいなまま調書に署名してしまったりすると、後の裁判で不利に扱われてしまうことがあります。ご家族としては、面会や差入れの機会があれば、取調べには弁護士とよく相談してから対応するように、はっきりしないことをその場の勢いで認めないように、とお伝えいただくのがよいと思います。

一方で、ご家族の側でやってはいけないこと、避けていただきたいこともあります。事件の関係者と目される方――被害者とされる方やその周囲の方など――に、ご家族が直接連絡を取って謝罪や示談を持ちかけることは、控えていただくべきです。かえって証拠を隠そうとしている、口裏合わせをしようとしていると受け取られ、罪証を隠滅するおそれがあるとして、勾留や後に述べる接見禁止の判断に悪い影響を与えてしまうことがあります。示談や被害者への対応は、弁護士を通じて慎重に進めるべき事柄です。また、SNSなどに事件のことを書き込むことも、思わぬ形でご本人に不利益をもたらしかねませんので、お控えください。

そして、逮捕直後の段階でご家族にできる最も実効的なことは、できるだけ早く弁護士に相談し、弁護士にご本人と接見してもらうことです。身体を拘束されている被疑者は、弁護人となろうとする者と、立会人なしで面会し、書類や物のやり取りをすることができます(刑事訴訟法三十九条一項)。これを接見交通権といい、警察官や検察官の立会いなしに話ができるという点で、ご家族の面会とは大きく異なります。ご家族の面会は、時間や回数が制限され、警察官が立ち会うのが通常で、後で述べる接見禁止が付くと面会自体ができないこともありますが、弁護士の接見はこうした制約を受けません。弁護士が早期に接見することで、ご本人に黙秘権をはじめとする権利を正しく説明し、取調べへの対応を助言し、ご家族との橋渡しをすることができます。

弁護士に依頼する方法としては、大きく分けて、当番弁護士制度を利用する方法と、私選で弁護士に依頼する方法とがあります。当番弁護士制度は、各地の弁護士会が運営している制度で、逮捕されたご本人やご家族が弁護士会に連絡すると、原則として一回、弁護士が無料で接見に赴いてくれるというものです。まずはこの制度を使って一度弁護士に会ってもらい、その上で継続的な弁護を依頼するかどうかを検討することができます。また、勾留された事件については、資力が一定額に満たない場合に、国の費用で弁護人を付ける被疑者国選弁護制度を利用できます。この制度は、平成三十年六月一日から対象が広げられ、現在では勾留された全ての事件が対象となっています。もっとも、国選弁護人が付くのは勾留されてからであり、逮捕されてから勾留が決まるまでの最初の時期には、当番弁護士や私選の弁護士による対応が重要になります。

なお、事件によっては、裁判官が、罪証を隠滅するおそれがあるなどとして、弁護人以外の者との接見や書類のやり取りを禁じる、いわゆる接見禁止の決定をすることがあります(刑事訴訟法八十一条)。この場合、ご家族であっても面会や手紙のやり取りができなくなりますが、それでも弁護人の接見交通権は制限されません。接見禁止が付いている場合には、弁護士を通じてご本人の様子を確認したり、弁護士から、接見禁止の一部を解除するよう裁判所に働きかけたりすることも考えられます。

費用や見通しについては、事件の内容や、私選か国選か、身柄の解放を目指すのか否かなどによって大きく異なりますので、一律に申し上げることは難しいところです。ご相談の際に、想定される手続の流れとあわせてご説明いたします。逮捕直後の時期は、時間の制約が厳しく、最初の対応がその後を大きく左右します。ご家族が逮捕されてご不安な際には、ご本人のためにも、まずはお早めにご相談いただければと思います。

■ 関連コラム

刑事弁護費用の改訂

保釈制度関連法の改正について

 

投稿者: 弁護士大窪和久

2026.07.21更新

「残業をしても残業代が支払われていない」「固定残業代しかもらっていないが、実際の残業はそれを大きく超えている」「退職したが在職中の残業代を請求したい」といったご相談をお受けすることがあります。まず結論から申し上げますと、法律上支払われるべき残業代が支払われていないのであれば、これを請求することは可能です。もっとも、残業代の請求権には時効があり、時間が経つにつれて古い月の分から順に請求できなくなっていきます。そして、いくら残業をしたかを示す証拠が手元にあるかどうかで、実際に回収できる金額は大きく変わってきます。この二点を踏まえて、早めに動いていただくことが何よりも大切です。

はじめに、どのような場合に残業代が発生するのかを整理しておきます。労働基準法は、原則として一日八時間、一週四十時間を超えて労働させてはならないと定めており(同法三十二条)、これを超えて働かせる場合には、使用者は割増賃金を支払わなければなりません(同法三十七条)。割増率は、法定労働時間を超える時間外労働については二割五分以上、深夜(午後十時から午前五時まで)の労働については二割五分以上、法定休日の労働については三割五分以上とされています。さらに、一か月に六十時間を超える時間外労働については五割以上の割増率となり、これは従来猶予されていた中小企業についても、令和五年四月一日から適用されています。「固定残業代(みなし残業代)を払っているから追加の支払は不要だ」「あなたは管理職だから残業代は出ない」といった説明を受けることがありますが、固定残業代を超える残業があればその超過分は当然に請求できますし、いわゆる管理監督者にあたるかどうかも実態に即して判断されますので、会社の説明をそのまま受け入れる必要はありません。

次に、被害を大きくしないために避けていただきたいことがあります。最も避けたいのは、「いつか請求しよう」と考えたまま何もせずに放置してしまうことです。後で述べるとおり残業代の請求権は時効によって消えていきますので、放置している間にも、請求できたはずの古い月の分が一か月また一か月と失われていきます。また、在職中の方であれば、タイムカードや業務日報、パソコンのログ、業務に関するメールの送受信時刻、入退館の記録といった、労働時間を裏づける資料を、可能な範囲で早めに確保しておいていただくことが重要です。退職してしまうと、こうした資料を手に入れることが難しくなることが少なくありません。感情的に会社と対立してしまい、必要な資料を確保できないまま関係が断たれてしまうことも、できれば避けたいところです。

そして、特に注意していただきたいのが時効です。令和二年四月一日に施行された労働基準法の改正により、賃金請求権の消滅時効期間は、本来は五年、ただし「当分の間」は三年とされました(同法百十五条)。これは令和二年四月一日以降に支払期日が到来する賃金について適用されます(なお、退職金の請求権の時効は従来どおり五年です)。残業代を含む賃金の時効は、それぞれの給与の支払日を起算点として日々進行していきますので、放置すればするほど、請求できる範囲が古い方から狭まっていきます。この「当分の間三年」という経過措置については、日本弁護士連合会が令和七年六月にその速やかな撤廃(本来の五年への移行)を求める会長声明を出すなど、見直しを求める動きがあり、改正法の施行から五年が経過したことを踏まえた検討が今後行なわれる見込みですが、現時点ではなお三年とされています。したがって、いずれ五年に延びる可能性があるとしても、それを当てにして待つのではなく、今の時点で請求できる範囲を確保するために早めに動いていただくのが安全です。なお、時効が完成しそうな場合には、内容証明郵便で支払を求める(催告する)ことによって、六か月間は時効の完成が猶予されますので(民法百五十条)、その間に交渉や法的手続の準備を進めることになります。

実際に請求する場面での手段としては、まずは会社との話し合い・交渉から始め、それで解決しない場合には、労働審判や訴訟といった裁判所の手続を用いることになります。訴訟で認められた場合には、未払の残業代そのものに加えて、遅延損害金を請求することができます。遅延損害金の利率は、在職中の期間については民法の定める法定利率(令和八年四月以降も引き続き年三パーセントとされています)ですが、退職後の期間については、賃金の支払の確保等に関する法律により年十四・六パーセントとなります(ただし、会社が支払わないことについて合理的な理由があって争っている場合などには、この高い利率が適用されないこともあります)。さらに、割増賃金が支払われていなかったような場合には、裁判所は、労働者の請求により、未払額と同額までの「付加金」の支払を会社に命じることができます(労働基準法百十四条)。もっとも、付加金を命じるかどうかは裁判所の裁量に委ねられており、必ず認められるものではありません。

費用や期間の見通しについては、証拠がどの程度そろっているか、会社が争ってくるかどうか、金額の多寡などによって大きく異なりますので、一律に申し上げることは難しいところです。ご相談の際に、想定される手続の流れとあわせて、費用の見込みについてもご説明いたします。残業代の請求は、証拠を確保できているかどうかと、時効で消えてしまう前に動けるかどうかが結果を大きく左右します。未払の残業代があるのではないかと思われた際には、まずはお早めにご相談いただければと思います。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 関連コラム
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
消滅時効の期間が変更されます
 
【最高裁判例】正社員と契約社員の退職金・賞与の格差が不合理か否か
 
弁護士費用について
 

投稿者: 弁護士大窪和久

2026.07.14更新

以前のコラムでも触れましたが、令和七年四月一日に、いわゆるプロバイダ責任制限法が改正され、「情報流通プラットフォーム対処法」(正式には「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」といいます)として施行されました。施行から一年余りが経ちましたので、あらためて、この法律によってインターネット上の投稿の削除依頼がどう変わったのかを整理しておきたいと思います。

この法律の大きな特徴は、利用者の多い大規模なプラットフォーム事業者に対して、削除への対応を分かりやすく、かつ透明にすることを義務づけた点にあります。総務省は、令和七年四月三十日に、Google、LINEヤフー、Meta、TikTok、Xの五社を「大規模特定電気通信役務提供者」として指定しました。日常的に使われている主要なSNSや検索サービスの多くが、この規律の対象に含まれたことになります。

指定を受けた事業者は、おおむね次のような対応を求められます。まず、権利侵害を受けた人が削除を申し出るための窓口と方法を整備し、公表することです。次に、削除の申出を受けた場合には、その対応の結果を一定の期間内に申出をした人へ通知することです。さらに、どのような場合に削除を行なうのかという基準をあらかじめ定めて公表し、削除の運用状況を定期的に公表することも求められます。これらによって、これまで「申し出ても返事が来ない」「なぜ削除されないのか分からない」といった不透明さが、一定程度改善されることが期待されています。

もっとも、実務に携わる立場から申し上げますと、この改正で全てが解決するわけではない点にも注意が必要です。第一に、こうした義務が課されるのは指定された大規模な事業者に限られ、小規模な掲示板やサイトはこれまでと同じ枠組みで対応することになります。第二に、削除の申出に対して「通知が来る」ことと、実際に「削除される」こととは別の問題です。削除するかどうかは、最終的には事業者が権利侵害の有無を判断することになりますので、申し出れば必ず消えるというものではありません。そして第三に、この法律はあくまで投稿の削除に関する仕組みであり、誰が投稿したのかを特定する発信者情報開示の手続とは別のものです。投稿の削除と投稿者の特定とは、目的も手続も異なりますので、混同しないことが大切です。

したがって、窓口が整備され、以前よりは削除の申出がしやすくなったとはいえ、どの投稿がどの権利の侵害にあたるのかを的確に主張し、その裏づけとなる資料を揃えることの重要性は、これまでと変わりません。ご自身で削除の申出をしてみて対応が得られない場合や、投稿者の特定まで含めて検討したい場合には、お早めに弁護士にご相談いただければと思います。

投稿者: 弁護士大窪和久

2026.03.22更新

先日、北海道紋別市にて、紋別ひまわり基金法律事務所の所長引継式に参加してまいりました。私はこの事務所の3代目所長を務めた縁があり、久しぶりの紋別訪問となりました。
紋別ひまわり基金法律事務所は、2001年に北海道で初めて、全国でも3番目のひまわり基金法律事務所(公設事務所)として開設された事務所です。以来25年にわたり、旭川地方裁判所紋別支部の管内の法的サービスの拠点として活動を続けてきました。
今回の引継式では、8代目所長の宮下尚也先生が4年8ヶ月の任期を終えて退任し、9代目所長として久住和輝先生が新たに就任されました。久住先生は第二東京弁護士会が設立した都市型公設事務所の東京フロンティア基金法律事務所で約2年間の養成を経ての赴任です。
当日は、日本弁護士連合会の佐藤昭彦副会長、紋別市の山崎彰則市長、旭川弁護士会の佐藤真悟会長(元稚内ひまわり基金法律事務所所長)をはじめ、全国各地から約110名もの方々が参加されました。稚内から長崎まで、各地の弁護士が集まるという盛大な式となりました。地元の商工会議所青年部の会長の鈴木伸児様からも挨拶があり、宮下先生が弁護士業務だけでなく、商工会議所青年部の専務理事として地域に深く溶け込んで活動してこられたことが語られ、会場が温かい雰囲気に包まれました。宮下弁護士がいかに地域に愛されていたかが伝わってきました。
旭川弁護士会管内には現在6か所のひまわり基金法律事務所があります。一方で、一昨年には名寄の公設事務所が引き継ぎ手が見つからず廃止となるなど、担い手の確保は深刻な課題です。北海道弁護士会連合会からは、公設事務所に赴任する弁護士への退職金制度を新設することを検討しているとの紹介もありました。
司法過疎地域におけるひまわり基金法律事務所の存在意義は、民事・刑事を問わず地域住民の権利保障の礎であり、その重要性は変わっていないと思います。9代目の久住先生の今後のご活躍を心から祈念するとともに、宮下弁護士の4年8ヶ月にわたるご尽力に敬意を表します。宮下弁護士は4月から札幌で新たに活動を始められるとのことで、そちらでのご活躍も期待しています。
自分が20代で赴任した事務所の歴代の所長や関係者の方々と再会できたこと、そして何より事務所のたすきがしっかりとつながれたことを嬉しく思います。

投稿者: 弁護士大窪和久

2026.01.05更新

謹んで新年のご祝儀を申し上げます。 本年もどうぞよろしくお願い致します。

東京に戻ってきて、今年で早10年が経ちました。 この10年間、桜丘法律事務所にて多くの新人弁護士を迎え入れ、育て、地域へと送り出してまいりました。彼らが東京に戻ることなく、それぞれの赴任地で必要とされ、地域に根を張って奮闘している姿を見るにつけ、寂しさ半分、そして頼もしさ半分といった感慨に浸っております。

今も昔も、刑事弁護の現場は決して平坦な道のりではありません。私自身、理不尽な壁にぶつかり、徒労感を覚える瞬間も正直なところ年々増えてまいりました。 しかし、新しく入ってくる弁護士たちは皆、民事事件よりも困難な刑事事件にこそ強い興味と情熱を抱いています。

「労多くして功少なし」と感じてしまう私と、「困難だからこそ挑みたい」と願う彼ら。 その対比を感じた時、ああ、現場の熱気はこうして次の世代に引き継がれていくのだなと、腑に落ちる感覚がありました。これからの厳しい現場を切り拓くのは、間違いなく彼らのその眩しい情熱です。

だからこそ、私自身もこれまでの役割に安住せず、次のステージへ踏み出す時だと感じています。 養成という枠組みを超えて、次の10年で私が法曹界や社会に何ができるのか。本年はその「新しいこと」を形にする一年にしたいと思います。

変化を恐れず進んでまいりますので、温かく見守っていただければ幸いです。

投稿者: 弁護士大窪和久

2025.12.12更新

私が所属する第二東京弁護士会の会報誌『NIBEN Frontier』(2025年12月号)が発行されました。
他会の先生方は普段目にされる機会が少ないかと存じますが、今号に掲載されていた「市民会議報告」の内容が、所属会を問わず、私たち弁護士業界全体にとって極めて深刻かつ共有すべき課題を含んでいましたので、本ブログでご紹介したいと思います。
■ 議題となった「弁護士広告の課題」
今回の市民会議では、インターネット広告を利用した不適切な弁護士業務、特に「二次被害」を生むような事案について厳しい議論が交わされました。
報告の中で、当会の副会長より、以下のような実態が問題提起されています。
・詐欺被害金の回収等を謳いながら、高額な着手金を受け取り、実質的な活動を行わない悪質な事例
・依頼者が一度も弁護士と会うことなく、弁護士資格のない事務員等が対応しているケース
近年、国際ロマンス詐欺や投資詐欺の被害回復を掲げるネット広告が急増していますが、被害者救済どころか、傷口に塩を塗るような対応が行われているケースがあるというのです。
これは単なる「質の低い業務」の範疇を超え、非弁提携や詐欺的な業務運営が疑われる事案であり、弁護士全体の信用を失墜させる由々しき問題です。
■ 市民委員からの痛烈な指摘
こうした現状に対し、外部の有識者である市民委員の方々からは、非常に重い指摘がなされています。
「監督官庁を持たない弁護士業界だからこそ、JARO(日本広告審査機構)のような第三者機関と連携し、消費者からの声を真摯に受け止めるべき」
私たちは「弁護士自治」のもと、自らを律することを前提に高い独立性を認められています。しかし、自浄作用が働いていないと見なされれば、このように「外部機関による監視・連携が必要だ」という声が上がるのは必然です。
また、「市場原理に任せると、検索結果が広告料をかけている情報に偏る」との懸念も示されました。
資金力のある一部の不適切な業者の広告ばかりが市民の目に留まり、真面目に業務を行っている弁護士にアクセスできなくなる。その結果、市民が不利益を被るという構造的な問題も指摘されています。
■ 業界全体の信頼を守るために
報告では、「クリーンな弁護士像を積極的に発信していくべき」という意見や、弁護士個々の倫理観の向上、継続的なコンプライアンス研修の必要性についても触れられていました。
一部の弁護士(あるいは弁護士の名を借りた業者)による悪質な行為が、「弁護士なんてそんなものだ」という不信感を社会に植え付けてしまえば、私たち全員がそのツケを払うことになります。
二弁の会報誌での報告ではありましたが、ここで指摘された課題は、どの単位会に所属しているかに関わらず、現代の弁護士全員が直面している問題です。
「監督官庁がない」という特権にあぐらをかくことなく、市民からの厳しい視線を意識し、襟を正して業務にあたらねばならないと痛感した次第です。

投稿者: 弁護士大窪和久

前へ

SEARCH

弁護士大窪のコラム 桜丘法律事務所

法律相談であなたのお悩みお話ししてみませんか?

法律相談は、今後に対する見通しを立てるプロセス。
正式依頼は、具体的に関係者などへ働きかけていくプロセスです。
この両者は全く異なりますので、別物としてお考えください。
法律相談で得た知識を元に、ご自分で進めてみても良いでしょう。

桜丘法律事務所 弁護士 大窪和久 TEL:03-3780-0991 受付時間 9:30~20:00 定休日 土曜日曜・祝日 住所 〒150-0031 東京都渋谷区桜丘町17-6 渋谷協栄ビル7階 24時間WEB予約。受付時間外はこちらからご連絡ください。 WEBでのご予約・ご相談はこちら
sp_bn01.png
予約はこちらから