弁護士大窪のコラム

2025.05.08更新

インターネット上の電子掲示板における投稿に関し、ファイル転送サービスのダウンロードURLを公開する行為が著作権(公衆送信権)侵害にあたるとして、プロバイダに対する発信者情報開示請求が認められた裁判例(東京地方裁判所判決/令和7年3月7日。以下「本判決」といいます。)について、事案の概要と本判決の意義について解説いたします。
1.事案の概要
本件は、原告が、インターネットの動画共有サイトであるYouTubeやツイキャスにおいて動画配信活動を行っていたところ、そのうち有料会員限定で配信した動画(本件配信動画)の一部を複製した動画ファイル(本件動画ファイル)が、無料大容量ファイル転送サービス「ギガファイル便」にアップロードされ、そのダウンロード用URL(本件URL)が被告の提供するインターネット接続サービスを介して、氏名不詳者(本件投稿者)により電子掲示板に投稿・公開された事案です。
原告は、本件記事の投稿により、有料会員限定であった本件配信動画が無料でダウンロードできる状態に置かれ、原告の営業活動上の利益が侵害されたこと、及び本件配信動画に係る著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかであるとして、本件投稿者との契約関係に基づきその氏名、住所等の情報を保有する被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)第5条第1項に基づき、本件投稿者の発信者情報の開示を求めたものです。
2.争点
本件における主な争点は、本件記事の投稿によって、原告の権利(特に著作権)が侵害されたことがプロバイダ責任制限法第5条第1項にいう「明らか」といえるかという点でした。
被告は、著作権侵害の主張に対し、以下の点を反論として主張しました。
• 本件投稿者が本件動画ファイルをギガファイル便にアップロードした者と同一人物であるかは明らかでない。
• 仮に本件投稿者がアップロード者と同一人物でない場合、本件動画ファイルがギガファイル便にアップロードされた時点、あるいは本件URLがアップロード者によって第三者に公開された時点で既に「送信可能化」は完了しており、本件記事の投稿によって重ねて送信可能化がされたとはいえない。
• したがって、本件投稿者が著作権侵害を幇助したことも明らかではない。
3.裁判所の判断
裁判所は、以下のとおり認定・判断し、原告の請求を認めました。
(1) 事実認定
• 原告はツイキャスにおいて有料会員限定の動画配信を行っており、本件配信動画は有料会員のみが視聴できる動画であった。
• 本件配信動画は、原告の見解発信等を含み、一定の創作性を有する映画の著作物にあたり、著作権者は原告であると認められる。
• 本件動画ファイルは、本件配信動画の大部分を録画したものであり、本件配信動画の複製物である。
• ギガファイル便は、ファイルをアップロードした際に生成される固有のダウンロードページURLを知らないと、ファイルをダウンロードできない仕組みである。また、アップロードされたファイルのファイル名等からURLを検索する機能は設けられていない。
• 本件記事が投稿されるまでの間、本件URLがインターネット上で公開されるなど、不特定又は多数の者に知られていた事実は認められない。
• 本件記事は、原告のチャンネル名や本件配信動画の内容を示す記載とともに本件URLが記載されており、これに接した者が本件URLから本件チャンネルの動画をダウンロードできると理解できるように記載されていた。
(2) 著作権侵害に関する判断
裁判所は、上記の事実認定を踏まえ、以下のように判断しました。
• ギガファイル便にアップロードされた本件動画ファイルは、本件記事の投稿の前には、不特定又は多数の者からの求めに応じ自動的に送信されることはなかった。
• しかし、本件記事が投稿され本件URLが公開されたことによって、不特定又は多数の者が本件動画ファイルをダウンロードすることができるようになり、「自動公衆送信」される状態に至った。
• 本件投稿者が本件動画ファイルをギガファイル便にアップロードした本人であるか否かは明らかではないとしながらも、本件投稿者は、本件記事を投稿し、本件URLを公開することによって、不特定または多数の者が本件動画ファイルをダウンロードすることを可能にしたものと認定しました。
• これは、不特定または多数の者が、インターネットを通じて(求めに応じて)著作物を自動的に受信できる状態にする行為、すなわち公衆送信権侵害(送信可能化)に該当すると判断しました。
• そして、本件動画ファイルが本件配信動画の複製物であり、著作権者の許諾を得ていないことは明らかであることから、本件記事の投稿は原告の著作権(公衆送信権)侵害を直接的にもたらしており、「侵害情報の流通によって」原告の著作権が侵害されたことが明らかであると結論づけました。
(3) 情報開示の正当理由に関する判断
裁判所は、原告が本件投稿者に対して損害賠償請求権等を行使する予定であることが認められ、そのために発信者情報の開示を受ける必要性があることから、原告にはプロバイダ責任制限法第5条第1項第2号に定める「当該発信者情報の開示を受けるべき正当な理由」があることを認めました。
4.結論
以上の判断に基づき、裁判所は原告の請求を全面的に認め、被告に対し、本件投稿者の氏名、住所、電話番号、メールアドレスといった発信者情報を開示するよう命じる判決を下しました。
5.本判決の意義
本判決は、無料ファイル転送サービスに違法にアップロードされた著作物のダウンロードURLを電子掲示板等に投稿し公開する行為について、以下の重要な法的示唆を与えています。
• ファイルをアップロードした者とURLを投稿した者が同一であるか否かに関わらず、URLを投稿・公開する行為自体が、不特定多数の者が当該ファイルにアクセスしダウンロードすることを可能にする行為として、「送信可能化」に該当し、著作権(公衆送信権)侵害となり得ることを明確に示しました。
• URL公開前は不特定多数がアクセスできない状態であったものが、URL公開によってアクセス可能となった場合、URL公開行為が著作権侵害の状態を完成させる行為として評価されることを示しました。
本判決は、ファイル共有サービスにおける違法アップロードへの関与形態のうち、特にダウンロードURLの公開行為に対する法的評価を明確にしたものであり、今後の著作権侵害事案における発信者情報開示請求の実務に影響を与える可能性のある裁判例であると考えられます。
インターネット上での情報発信は自由ですが、他者の著作権を侵害するコンテンツのダウンロードURLを安易に公開する行為は、違法な「送信可能化」行為として法的責任を問われる可能性があることを改めて認識する必要があります。

投稿者: 弁護士大窪和久

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