弁護士大窪のコラム

2026.08.10更新

企業のご担当者から、社内の通報窓口をどのように整えればよいか、通報をしてきた社員をどこまで守らなければならないのか、といったご相談を、私もお受けすることがあります。公益通報者保護法は令和七年に大きく改正され、その改正法が令和八年十二月一日から施行されることになりました(施行の期日は、令和七年十二月に公布された政令で定められています)。まず申し上げておきたいのは、この改正によって、通報をした人を保護する仕組みが一段と強化される一方で、企業の側から見ると、対応を誤った場合の責任が重くなり、あらかじめ整えておくべき事柄も増えるということです。他方で、施行まではまだ時間がありますので、今のうちから順を追って準備をしていただければ、慌てる必要はありません。以前のコラムで改正の内容そのものには触れましたが、施行が近づいてまいりましたので、あらためて、企業として今から備えておくべき点を、実務の観点から整理しておきたいと思います。

はじめに、現在の制度を確認しておきます。公益通報者保護法は、労働者などが、勤務先の法令違反にあたる事実を、社内の窓口や監督官庁、報道機関などに通報した場合に、その通報を理由とする解雇その他の不利益な取扱いから通報者を保護する法律です。令和二年の改正(令和四年六月一日施行)により、常時使用する労働者の数が三百人を超える事業者には、通報に適切に対応するために必要な体制を整備する義務(同法十一条二項)と、通報を受け付けて対応する担当者を「公益通報対応業務従事者」として指定する義務(同法十一条一項)とが課されました。この従事者には、通報者を特定させる事項を漏らしてはならないという守秘義務があり、これに違反した場合には刑事罰(三十万円以下の罰金)が科されることがあります。なお、常時使用する労働者が三百人以下の事業者については、これらは努力義務とされています。

そのうえで、令和七年の改正(令和七年六月十一日公布・令和七年法律第六十二号)によって、大きく次のような点が変わります。まず、通報者に対する不利益な取扱いを抑止するための仕組みが強められます。これまでは、通報を理由に解雇や懲戒などの不利益な取扱いをしても、その効力が否定されたり、損害賠償の対象になったりするにとどまっていましたが、改正法では、公益通報を理由として解雇または懲戒を行なった者に対して、刑事罰が科されることになります。報道等によれば、その法定刑は、行為をした個人について六月以下の拘禁刑または三十万円以下の罰金、法人については三千万円以下の罰金とされています。さらに、公益通報をした時からおおむね一年以内にされた解雇・懲戒については、公益通報を理由としてされたものと推定するという、いわゆる立証責任を転換する規定が設けられます。これにより、企業の側で、その解雇や懲戒が通報とは関係のない正当な理由によるものであることをきちんと説明できなければ、違法と扱われやすくなります。

次に、通報を妨げようとする行為への対処も加えられます。誰が通報したのかを詮索する、いわゆる通報者の探索を行なうことが禁止され、また、通報をしないことをあらかじめ約束させるような合意は無効とされます。あわせて、消費者庁による立入検査の権限が新設され、行政の勧告に従わない場合の命令や、その命令に違反した場合の罰則も設けられます。企業の対応が不十分な場合に、行政による関与が強まることになります。また、保護される「公益通報者」の範囲も広がります。現在は、在職中の労働者や、退職後一年以内の退職者、役員などが対象とされていますが、改正により、業務委託を受けて働くいわゆるフリーランス(特定受託事業者)なども保護の対象に加えられる予定です。社外の委託先も視野に入れて、通報の受付や周知のあり方を考えておく必要があります。

こうした改正を前に、企業の側でやっていただきたくないことを申し上げます。まず、通報をしてきた社員を、それを理由に配置転換したり、退職に追い込んだり、人事評価で不利に扱ったりすることです。改正後はこうした行為に刑事罰が伴い得るうえ、先ほどの推定規定によって、通報の後にされた不利益な取扱いは通報を理由とするものと扱われやすくなります。次に、通報者が誰かを社内で探ろうとしたり、「余計なことを外部に言うな」といった口止めをしたりすることも、禁止や無効の対象となりますので、避けるべきです。そして、「うちは従業員が三百人以下だから関係ない」と考えて何もしないことも、おすすめできません。体制整備が努力義務にとどまる小規模な事業者であっても、通報者を不利益に取り扱ってはならないという保護の規定そのものは、規模にかかわらず全ての事業者に及びます。最後に、施行の直前になって慌てて対応しようとすることも、避けたいところです。規程の見直しや社内への周知には、相応の時間がかかるためです。

そのうえで、施行までに備えておくべきことを整理します。体制整備義務のある事業者であれば、まず、現在の内部通報規程が改正法の内容に沿っているかを点検し、必要に応じて改訂することになります。通報を受け付ける窓口が実際に機能しているか、従事者の指定や守秘の取扱いが適切かを確認し、通報者を不利益に扱わないこと、探索や口止めをしないことを、担当部署だけでなく管理職を含めて社内に周知していくことが重要です。保護の対象が広がることを踏まえ、従業員だけでなく、退職した方や業務委託先に対しても、通報窓口の存在や利用の方法を伝える工夫が求められます。なお、この改正にあわせて、企業がとるべき措置を具体的に示す法定の指針も見直されることになっていますので、最終的にはその内容も踏まえて整えていくことになります。三百人以下の事業者においても、努力義務ではありますが、これを機に最低限の窓口と規程を整えておくことは、社内の不正を早期に発見し是正するという点でも意味があると考えます。

規程の整備や研修にどの程度の手間や費用がかかるかは、会社の規模や、現在の体制がどの程度整っているかによって大きく異なりますので、一律に申し上げることは難しいところです。ご相談をいただければ、貴社の現状をうかがったうえで、施行までに何を優先して行なうべきか、想定される進め方とあわせてご説明いたします。公益通報への対応は、いざ通報が寄せられてから慌てて整えようとしても間に合わないことが少なくありません。施行までまだ時間のある今のうちに、社内の体制を一度点検しておかれることをおすすめします。ご不明な点や、体制整備の進め方についてお考えの際には、まずはお早めにご相談いただければと思います。

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公益通報者保護法改正により通報者に対する(不)利益な取扱いからの保護・救済が大幅強化されました

【最高裁判例】正社員と契約社員の退職金・賞与の格差が不合理か否か



投稿者: 弁護士大窪和久

2025.06.19更新

企業・組織の不正行為が後を絶たない現代において、組織内部からの「公益通報」は、社会の健全性を保つ上で極めて重要です。しかし、通報者が不利益な取扱いを受ける事例が多発し、通報をためらう大きな要因となっていました。
このような状況を改善すべく、「公益通報者保護法の一部を改正する法律」が今年の6月11日に施行されました。この改正は、公益通報を理由とする不利益な取扱いを強力に抑止し、もし通報者が被害を受けた場合には、これまで以上に手厚く救済することを目指すものです。

・なぜ、今、法改正が必要とされたのか?
これまでの公益通報者保護法にも通報者保護の規定はありましたが、実運用上の課題が指摘されていました。特に、通報者が不利益な取扱いを受けた場合でも、それが「公益通報を理由とするもの」であることを通報者自身が証明する負担が非常に大きく、結果的に救済が困難となるケースが多く見られました。また、保護の対象となる通報者の範囲が限定的であることや、事業者側の内部通報体制が不十分であったり、通報自体を妨げる行為があったりすることも問題視されていました。
今回の法改正は、これらの根本的な課題に対処し、通報者への不利益な取扱いを徹底的に排除し、通報者が安心して声を上げられる環境を整備することに、その趣旨があります。

・改正によって何がどう変わるのか?
今回の法改正は、公益通報者保護の「抑止」と「救済」を大きく強化する画期的な内容を含んでいます。
1. 保護される通報者の範囲が拡大されました これまでの労働者に加え、事業者と業務委託関係にあるフリーランスの方々も、新たに保護の対象となる公益通報者に加わりました。これにより、多様な働き方をする方々も、安心して不正を指摘できるようになります。
2. 不利益な取扱いに対する「推定規定」が導入されました 公益通報をした後に解雇や特定の懲戒処分が通報の日から1年以内に行われた場合、「公益通報を理由として行われたもの」と推定されることになりました。これは民事訴訟において、通報者側が「通報が理由だ」と証明する負担が大幅に軽減され、事業者側が「通報が理由ではない」ことを証明しなければならなくなるため、通報者の「救済」が格段に容易になります。
3. 不利益な取扱いに対する「直罰規定」が新設されました 公益通報を理由として解雇や懲戒を行った者に対し、6ヶ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が科されることになりました。また、法人に対しては3,000万円以下の罰金が科される可能性もあります。これにより、通報者への報復行為に対する強力な「抑止力」が働くことが期待されます。
4. 通報妨害行為や通報者探索行為が禁止され、違反行為は無効となります 事業者が、正当な理由なく「通報しない」合意を求めたり、通報した場合に不利益な取扱いをすると告げたりする行為が明確に禁止され、そのような合意は無効とされます。また、正当な理由なく通報者を特定しようとする行為も禁止されます。これらは通報への「抑止」要因を取り除くための重要な措置です。
5. 事業者への体制整備義務が強化され、行政による監督も強化されました 常時使用する従業員が300人を超える事業者には、社内の公益通報対応体制を整備し、従業員に周知する義務が明確化されました。これに違反した場合、内閣総理大臣による助言・指導に加え、勧告、そして従わない場合の「命令」が可能となり、命令に違反すれば刑事罰(30万円以下の罰金)や公表の対象となります。さらに、内閣総理大臣には事業者への報告徴収や立入検査の権限も新設されました。これにより、内部通報制度の形骸化を防ぎ、実効性のある体制整備を強力に促す「抑止」効果が期待されます。

・期待される効果と実務上の影響
今回の公益通報者保護法改正は、通報者への「抑止」と「救済」を大幅に強化するものです。
特に、不利益な取扱いに対する「推定規定」や「直罰規定」の導入は、通報者が安心して声を上げられる心理的な安全性をもたらし、もし被害を受けたとしても、法的手段によって救済される可能性が高まります。弁護士の立場から見ても、不利益な取扱いを受けた場合の損害賠償請求や解雇無効の訴訟において、通報者側の立証負担が軽減されることは、通報者にとって極めて有利な解決に繋がる大きな変化です。
事業者にとっては、内部通報制度の適切な運用が、単なる努力義務ではなく、刑事罰を含む法的リスクを回避するための必須事項となりました。これにより、各企業で内部通報制度の質が向上し、組織全体のガバナンス強化と健全化が進むことが期待されます。

投稿者: 弁護士大窪和久

2022.03.29更新

民法改正により、2022年4月1日より成年年齢が20歳から18歳に引き下げられます。
この改正により、2022年4月1日の時点で18歳、19歳の人は同日の時点で成人年齢に達するということになります。
民法上の成年年齢の引き下げに伴い、18歳で親の同意がなくとも様々な契約をすることができるようになります。未成年者の場合、契約は親の同意が必須であり、同意なき契約については未成年者取消権により契約の取消しが可能です。これまで20歳まで認められていた未成年者取消権の範囲が縮小しますので、消費者被害が拡大するのではないかとの懸念もあげられています。
また、女性が結婚できる最低年齢は16歳から18歳に引き上げられ、結婚できるのは男女ともに18歳以上となります。
子どもに対する親権が及ぶのが未成年の間である関係上、養育費に関する判断にも影響が及ぶことが想定されます。もっとも、これまでも養育費の審判に関しては成人年齢以後も認めるケースがある(大学進学を想定していたと認められる場合等)ので、今後も18歳に達した後も養育費の支払を認める判断がなされることはあるでしょう。

一方、民法改正後も、飲酒や喫煙、競馬などの公営競技に関する年齢制限は、パターナリズムの観点よりこれまでと変わらず20歳とされています。

また、民法改正にあわせ、少年法改正により、18歳、19歳の者に対する少年法の適用も変更される点があります。
18歳、19歳の者についても、「特定少年」として引き続き少年法が適用される点には違いはありません。
ただし、原則として逆送決定(検察官の判断で成人と同様の刑事裁判にかけられる)される対象事件が拡大されました。これまでは16歳以上の少年の時犯した故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件について原則逆送の対象となっていましたが、これに加えて、18歳以上の少年のとき犯した死刑、無期又は短期(法定刑の下限)1年以上の懲役・禁固に当たる罪の事件(現住建造物等放火罪、強制性交等罪、強盗罪、組織的詐欺罪など)が追加されました。
さらに、特定少年が逆送後起訴された場合は、原則として20歳以上と同様に取り扱いがなされることになります。
また、少年法で原則禁止されている実名報道についても、特定少年が逆送されて起訴された場合(略式手続の場合を除く)は、その段階から解禁されることとなりました。

成年年齢の引き下げは民法制定以来のドラスティックな改正であり、今後様々な分野で影響が及ぶことになります。内容については確認しておくことをお勧め致します。

投稿者: 弁護士大窪和久

2021.04.22更新

以前も当ブログでとりあげていた、プロバイダ責任制限法の改正案が昨日21日の参議院本会議で可決されました。改正法は2022年末までに施行される予定です。

本法律改正では、こちらの記事でも取り上げられている新しい裁判手続(これまで二度の手続を要していた発信者情報開示が一回の手続で完結するようになる)が目玉となっていますが、それ以外にもログイン情報の開示を明文で認めたり、裁判外での開示促進に関する条文を入れるなど、従前の制度より改善されている点がいくつかあります。

もっとも、改正法でも開示の要件緩和しませんでしたので、法改正がなされたとしても権利侵害の明白性についてプロバイダ側が厳しく争ってくることには違いはありませんし、新しい裁判手続についてはプロバイダ側が異議を出して正式な裁判に持ち込むことも可能ですので、どこまで開示者にとって利便性が高まるかについては運用が始まってみないと分からない点が多いです。また、本改正案の付帯決議で定められた事業者向けガイドラインの作成で、どのような内容が定められるのかも注目していきたい所です。新しい情報が入ってきましたらまた当ブログで取り上げてみたいと思います。

 

 

投稿者: 弁護士大窪和久

2021.04.02更新

本年4月1日付で、「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」(取引透明化法)について、同法の規制対象となる事業者を指定されると共に、デジタルプラットフォームを利用する事業者の相談に応じ、解決に向けた支援を行うための相談窓口を設置されました(経産省ニュースリリース)。

取引透明化法は、デジタルプラットフォームにおいて規約の変更や取引拒絶の理由が明らかにされないなど、不透明な実態があることから定められた法律です。今回規制対象とされた事業者は、オンラインモールの関係ではアマゾンジャパン合同会社、楽天グループ株式会社、ヤフー株式会社で、アプリストアの関係では、Apple Inc.及びiTunes株式会社、Google LLCとなっております。

経済産業省は、相談窓口で得られた事業者の声を元に課題を抽出し、取引環境の改善を目指すと言うことですので、積極的に利用されることをお勧め致します(窓口はこちら)。

デジタルプラットフォームを運営する会社に関する相談は、事業者からも消費者からも少なからず受けておりますが、対応がかなり硬直的であり、情報も公開しないという傾向はやはり見られます。本法の運用を通じて少しでも対応が改善されれば良いと思います。

 

投稿者: 弁護士大窪和久

2020.03.18更新

 2020年4月1日より改正民法が施行されます。今回の改正は大規模改正であり多くの点が変わっておりますが、その中でも特に気をつけておく必要のある消滅時効の期間の変更について簡単に説明致します。

1 消滅時効期間の変更

 消滅時効とは、権利を行使しないまま一定期間が経過した場合に、その権利を消滅させる制度です。これまでは、原則として「権利を行使することができる時から10年」経過した場合に消滅時効が成立することになっていました。但し、例外が多数定められていました。例えば飲み屋のツケは1年で時効が成立したり、弁護士報酬については2年で時効が成立するということになっていたのです。

 改正後は、シンプルに統一化し、消滅時効期間は原則として「権利を行使することができることを知った時から5年、または権利を行使することができる時から10年」となりました。例えば貸金の場合、契約上返済期限は定まっているのが通常ですから、返済期限がきてから5年間経過してしまうと消滅時効が成立してしまい貸主が返済を求めることができなくなってしまいます。

2 生命・身体の損害による損害賠償請求権の時効期間の特則

 法改正により、生命・身体の損害が生じた場合の損害賠償請求については、通常より時効期間を延長させる(消滅時効期間を「権利を行使することができることを知った時から5年、または権利を行使することができる時から20年」とする)という特則が設けられました。詳しくは下記の通りです。

(1)契約責任に基づく損害賠償請求の場合

 例えば、会社で従業員が過労死し、会社は過大な労働をさせたとして契約上の安全配慮義務違反があったとして従業員の遺族に損害賠償しなければならないとします。前記の通り法改正後の消滅時効期間は原則「権利を行使するができることを知った時から5年、または権利を行使することができる時から10年」ですが、このケースのように契約上の義務違反により生命・身体の損害が生じた場合には、「権利を行使することができることを知った時から5年、または権利を行使することができる時から20年」の間は消滅時効が成立しないことになります。

(2)不法行為に基づく損害賠償請求の場合

 例えば、自動車事故により被害者が亡くなり、運転者側が被害者の遺族に対し損害賠償しなければならないとします。自動車事故のような不法行為の損害賠償請求の時効期間は原則「権利を行使することができることを知った時から3年、または権利を行使することができる時から20年」ですが、生命・身体の損害が生じた場合には、法改正により上記契約責任の場合同様「権利を行使することができることを知った時から5年、または権利を行使することができる時から20年」の間は消滅時効が成立しないことになります。

3 消滅時効については、2020年4月1日の法施行日の前に生じた債権、および施行日以後に生じた債権でもその原因である法律行為が施工日前になされていたものについては、改正前の民法の時効期間が適用されることになります。

 よって2020年4月1日以降、消滅時効期間がどうなるかについては契約時期等により異なることになりますので注意が必要です。

投稿者: 弁護士大窪和久

2020.01.28更新

 近時民法など相続に関する法律が大きく改正され相続に関するルールが変わっています。この記事では2019年7月1日の法施行により内容が変わった遺留分について、改正がなされた点及び注意点を簡単に説明します。

1 遺留分について変わった点1 遺留分減殺請求から遺留分侵害額請求へ
 遺留分とは、亡くなった人(被相続人)の相続財産について、被相続人の兄弟姉妹以外の法定相続人に法律上最低限保証された相続分のことを指します。
 この遺留分を侵害された場合、法改正前には相続人は「遺留分減殺請求権」を行使することができ、遺言による贈与自体が一部無効になるという効果が生じます。その結果、不動産が共有となってしまい、その後問題の解決の為に不動産の共有物分割請求という手続をとる必要がありました。
 このため、例えば被相続人が事業承継のため子どもに事業財産を遺贈した場合、それを良く思わない他の相続人から遺留分減殺請求がなされることによって、事業財産が共有になってしまい事業承継が上手くいかないといった事態が生じたりしていました。
 このような事態を解消するため、法改正により2019年7月1日以降に亡くなった人の関係では、遺留分が侵害された場合には「遺留分侵害額請求権」を行使することができるとされ、遺留分の侵害額に相当する金銭の請求をすることができることに変更されました。したがって、前記のような場合事業財産の共有という事態は生じなくなりました。もっとも金銭請求のみという形に変わったことで、支払が難しいという人が出てくることにも配慮して、裁判所が支払について相当の期限を許与することができるという条文も新設されてます。

2 遺留分について変わった点2 遺留分算定方法の見直し
 遺留分を算定するための財産価額は、法改正前には次のように算定していました。

相続開始時の資産-負債+相続人への生前贈与額(期間制限なし)+第三者への生前贈与(原則1年以内)
 しかし、法改正により2019年7月1日以降に亡くなった人の関係では、相続人への生前贈与について原則として相続開始の10年前からに限定されることになったので、法的な安定性が増しました。

3 遺留分についての注意点
 上記の通り、2019年7月1日より前か後かによって、遺留分によって請求できる権利の内容が変わりましたので、権利行使については留意する必要があります。
 また、遺留分については相続の開始及び遺留分を侵害する行為があることを知ったときから1年で消滅時効にかかり、権利行使できなくなるということは特に注意すべきことで、これは法改正によって変更はありません。ただ、法改正により遺留分侵害額請求権を行使した結果、金銭債権が生じることになりますが、この金銭債権についても消滅時効の問題があることには気をつける必要があります。金銭債権の消滅時効についても民法改正があり、改正法施行の2020年4月1日より前は10年と定められていますが、それ以降は5年と半分になってしまいます(なお、消滅時効の改正については別途記事を書く予定です)。

 遺留分については金額の算定等難しい点もありますので、権利行使を検討する際には予め弁護士に相談することをお勧めいたします。

投稿者: 弁護士大窪和久

2019.12.09更新

 近時民法など相続に関する法律が大きく改正され相続に関するルールが変わっています。この記事では2020年4月1日より施行される配偶者居住権について簡単に説明します。

 1 配偶者居住権について
 配偶者居住権とは、配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に居住していた場合に、原則として終身その建物に住み続けることができるという権利です。
 改正前に、配偶者が被相続人所有の建物に住み続けるためにはその建物の権利を得るというのが通常でしたが、その場合相続財産の分割で支障がでることがありました。
 例えば、相続人が妻及び子1人のみで、被相続人の遺産が自宅(評価額4000万円)及び預貯金が500万円だった場合、妻と子の相続分は1対1(妻2250万円、子2250万円)ということになります。妻が自宅に住み続ける場合自宅の権利を引き継ぐことになるのが通常ですが、預貯金が500万円しかありませんので、子が自分の相続分が足りないと不満に思い相続財産分割の審判を申立てる可能性があります。そして審判において自宅の売却が決まってしまい、結果妻が住まいを失うということにもなりえます。
 配偶者居住権が新設されたことにより、配偶者居住権は妻、同権利の負担付き自宅の所有権を子が取得するということができるようになりました。配偶者居住権の価値が2000万円だとすると、負担付き所有権の価値は2000万円となり、預貯金を250万円ずつ取得すれば法定相続分通りの相続でも妻が住まいを失うことにはなりません。

2 配偶者居住権の定め方
 配偶者居住権については、被相続人が遺言で妻に権利を遺贈するという形等で、被相続人が内容を定めることができます。
 被相続人が遺言で配偶者居住権について決めていなかったとしても、相続人間で協議して配偶者居住権について定めることができます。また相続人間で協議してまとまらなかった場合でも、遺産分割の審判を行う家庭裁判所が、妻の希望や妻の生活を維持するための必要性の高さなどを考慮して定めることができます。

3 配偶者居住権の注意点
 配偶者居住権で一点注意すべき所は、この権利について登記をしておかないと、建物の所有権を得た第三者にその権利を主張できなくなるという点です。例えば先の例で妻と子が協議を行い、自宅の配偶者居住権を妻が得た後で、子がその自宅を第三者に売却してしまったとします。この場合妻が配偶者居住権についてあらかじめ登記をしておかなかった場合、自宅の所有権を手に入れた第三者に権利を主張できず、自宅に住み続けることができないということになってしまいます。登記をしておかなければいけないという点は特に注意しておく必要があります。
 配偶者居住権は全く新しい制度ですので、遺言作成や相続財産分割の際どのように定めるか分からないということもあると思います。ご不明な点があればお近くの法律事務所に相談されることをおすすめいたします。

投稿者: 弁護士大窪和久

2019.12.02更新

近時民法など相続に関する法律が大きく改正され相続に関するルールが変わっています。この記事では遺言に関して変わったところについて簡単にまとめていきます。

1 自筆証書遺言(自分自身で書く遺言)の作成方法

 自筆証書遺言は法律上で作り方が定められており、それに従わない遺言は効力が認められません。
 従前は、自筆証書遺言については、財産目録を含めた全文を自書した上、日付と氏名を明記し押印したものでなければなりませんでした。法律改正後は遺言本文に添付する財産目録については、自筆ではなくても良いことになり、パソコン等で作成した目録を遺言に添付することができるようになりました。また、不動産の登記事項証明書、預貯金通帳のコピーなどを添付して目録として使用することも可能になりました。
 なお、偽造防止の為、自書によらない財産目録については、各ページに署名押印をしなければいけないことになっています。

2 法務局における自筆証書遺言の保管制度の創設
 2020年7月より自筆証書遺言を作成した人は法務局に遺言書の保管を申請することができるようになります。これまで自筆証書遺言は自宅に保管したり貸金庫に預けたりするような形で自分に保管するのが通常でしたが、それを公的機関である法務局で預かってくれるようになります。
 被相続人本人が亡くなった後、遺言書が保管されているかどうかについて相続人が法務局に問い合わせて調べることもできます。遺言書が保管されている場合には遺言書の閲覧をしたり、写しを交付してもらうこともできます。

3 遺言執行者人の権限の明確化
  遺言執行者とは、遺言の内容を正確に実現させるために必要なことを行う人を指し、遺言の中で被相続人本人が指定することができます。
  旧法では抽象的な規定のみでしか遺言執行者の権限については定められておらず、裁判例により具体化されていました。今回の法改正により遺言執行者の法的地位及び権限が法律上明確にされました。
  また、遺言執行人は財産目録を作成した上で遺言の内容を相続人に知らせることが義務とされました。このことにより、相続人は自分の相続内容について把握しやすくなりました。
  遺言制度に関する見直しが行われたことにより、以前より遺言による相続がやりやすくなりました。遺言の作成等ご不明な点があればお近くの法律事務所に相談されることをおすすめいたします。

投稿者: 弁護士大窪和久

弁護士大窪のコラム 桜丘法律事務所

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