弁護士大窪のコラム

2025.06.19更新

企業・組織の不正行為が後を絶たない現代において、組織内部からの「公益通報」は、社会の健全性を保つ上で極めて重要です。しかし、通報者が不利益な取扱いを受ける事例が多発し、通報をためらう大きな要因となっていました。
このような状況を改善すべく、「公益通報者保護法の一部を改正する法律」が今年の6月11日に施行されました。この改正は、公益通報を理由とする不利益な取扱いを強力に抑止し、もし通報者が被害を受けた場合には、これまで以上に手厚く救済することを目指すものです。

・なぜ、今、法改正が必要とされたのか?
これまでの公益通報者保護法にも通報者保護の規定はありましたが、実運用上の課題が指摘されていました。特に、通報者が不利益な取扱いを受けた場合でも、それが「公益通報を理由とするもの」であることを通報者自身が証明する負担が非常に大きく、結果的に救済が困難となるケースが多く見られました。また、保護の対象となる通報者の範囲が限定的であることや、事業者側の内部通報体制が不十分であったり、通報自体を妨げる行為があったりすることも問題視されていました。
今回の法改正は、これらの根本的な課題に対処し、通報者への不利益な取扱いを徹底的に排除し、通報者が安心して声を上げられる環境を整備することに、その趣旨があります。

・改正によって何がどう変わるのか?
今回の法改正は、公益通報者保護の「抑止」と「救済」を大きく強化する画期的な内容を含んでいます。
1. 保護される通報者の範囲が拡大されました これまでの労働者に加え、事業者と業務委託関係にあるフリーランスの方々も、新たに保護の対象となる公益通報者に加わりました。これにより、多様な働き方をする方々も、安心して不正を指摘できるようになります。
2. 不利益な取扱いに対する「推定規定」が導入されました 公益通報をした後に解雇や特定の懲戒処分が通報の日から1年以内に行われた場合、「公益通報を理由として行われたもの」と推定されることになりました。これは民事訴訟において、通報者側が「通報が理由だ」と証明する負担が大幅に軽減され、事業者側が「通報が理由ではない」ことを証明しなければならなくなるため、通報者の「救済」が格段に容易になります。
3. 不利益な取扱いに対する「直罰規定」が新設されました 公益通報を理由として解雇や懲戒を行った者に対し、6ヶ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が科されることになりました。また、法人に対しては3,000万円以下の罰金が科される可能性もあります。これにより、通報者への報復行為に対する強力な「抑止力」が働くことが期待されます。
4. 通報妨害行為や通報者探索行為が禁止され、違反行為は無効となります 事業者が、正当な理由なく「通報しない」合意を求めたり、通報した場合に不利益な取扱いをすると告げたりする行為が明確に禁止され、そのような合意は無効とされます。また、正当な理由なく通報者を特定しようとする行為も禁止されます。これらは通報への「抑止」要因を取り除くための重要な措置です。
5. 事業者への体制整備義務が強化され、行政による監督も強化されました 常時使用する従業員が300人を超える事業者には、社内の公益通報対応体制を整備し、従業員に周知する義務が明確化されました。これに違反した場合、内閣総理大臣による助言・指導に加え、勧告、そして従わない場合の「命令」が可能となり、命令に違反すれば刑事罰(30万円以下の罰金)や公表の対象となります。さらに、内閣総理大臣には事業者への報告徴収や立入検査の権限も新設されました。これにより、内部通報制度の形骸化を防ぎ、実効性のある体制整備を強力に促す「抑止」効果が期待されます。

・期待される効果と実務上の影響
今回の公益通報者保護法改正は、通報者への「抑止」と「救済」を大幅に強化するものです。
特に、不利益な取扱いに対する「推定規定」や「直罰規定」の導入は、通報者が安心して声を上げられる心理的な安全性をもたらし、もし被害を受けたとしても、法的手段によって救済される可能性が高まります。弁護士の立場から見ても、不利益な取扱いを受けた場合の損害賠償請求や解雇無効の訴訟において、通報者側の立証負担が軽減されることは、通報者にとって極めて有利な解決に繋がる大きな変化です。
事業者にとっては、内部通報制度の適切な運用が、単なる努力義務ではなく、刑事罰を含む法的リスクを回避するための必須事項となりました。これにより、各企業で内部通報制度の質が向上し、組織全体のガバナンス強化と健全化が進むことが期待されます。

投稿者: 弁護士大窪和久

2024.09.11更新

発信者情報開示事件の裁判実務の改善のために事例集積を行う目的で、この度第二東京弁護士会でアンケートをとることになりました。

(全国の弁護士対象)発信者情報開示に関するアンケート回答ご協力のお願い

本アンケートは私の所属する消費者問題対策委員会で企画を行ったものです。

改正プロバイダ責任制限法改正以後、委員会内の弁護士で経験した発信者情報開示手続に関する事案の中では、コンテンツプロバイダの中には発信者情報開示手続に適正に対応せず、その結果手続上の問題が生じているように思われる例が多くありました。問題としては次の様なものがあります。

・発信者情報の提供命令が発令されても、コンテンツプロバイダがこれに応じない

・コンテンツプロバイダの代理人が訴訟委任状を提出しないまま、代理人として事実上出頭を続ける。

・発信者情報開示事件の決定がなされた場合でも、コンテンツプロバイダがこれに応じない。

こうした問題について解決する必要があると考えますが、そのためにはまず問題事案の集積が必要となるので、この度アンケートの実施に至っております。発信者情報開示手続に携わる先生方のご協力を頂ければと思います。

 

投稿者: 弁護士大窪和久

2024.03.07更新

私の所属する第二東京弁護士会で、「国際ロマンス詐欺その他投資詐欺案件の依頼にあたってのご注意」という文章が掲載されています。

https://niben.jp/news/ippan/2024/202402153940.html

同文章では、国際ロマンス詐欺や、その他投資詐欺案件について「・出資金の返還交渉を弁護士に委任し、着手金を支払ったが高額に過ぎる ・弁護士に高額の着手金を支払ったものの事務員が対応するのみで進展がない ・弁護士に委任した後、委任契約の解除を求めたが対応してもらえないといった相談が、当会の市民相談窓口に数多く寄せられています。」「国際ロマンス詐欺、その他投資詐欺の被害に遭われ、被害の回復を弁護士に依頼する方は、依頼する予定の弁護士から、事件処理の進め方、被害回復の可能性を含めた見通し、これらを踏まえた着手金・報酬金の妥当性について十分な説明を受けた上で依頼の検討をいただくよう、お願いいたします。」と弁護士に対しての注意喚起がなされています。

私も詐欺案件の相談はよく受けますが、相談者から、先に相談した弁護士から呈示された見積額について疑問があり、費用を支払って弁護士に委任した場合に回収できるのかどうかということを聞かれることもあります。

投資詐欺案件、特に最近流行しているSNSグループ内で投資を薦められて詐欺に遭った案件については、詐欺を行なった相手の連絡先がLINEしか分からない、入金手段も銀行口座を指定されてはいるが口座の名義人についての素性を知らないというのが通例となっております。

詐欺を行なった相手の連絡先がLINEしか分からない場合、詐欺師を特定することは事実上困難(LINEの運営会社が弁護士会照会に応じず回答しない等の事情による)で、詐欺師に対する裁判を行なうことも困難です。

また、銀行口座については振り込め詐欺救済法による銀行口座から被害金の支払が得られる可能性はありますが、詐欺を行なった相手は銀行口座からすぐに出金してしまうことが通例です。また、銀行口座に被害金が残っていたとしても、振り込め詐欺救済法による被害金の支払は被害者間で公平に行なわれますので、被害者多数の場合にはほとんど支払が得られないというケースもあります。

こうした事情から、投資詐欺案件に弁護士に依頼して回収できるかという点については数々のハードルがあり、回収可能性が高いとは言えません。

特に最近流行しているSNSグループ内で投資を薦められて詐欺に遭った案件については、加害者の特定ができず回収が難しいことが殆どです。そのため、法律相談の結果、詐欺事件として警察に届け出をした上、口座を凍結させて振り込め詐欺救済法による被害金の支払を待つことを選ぶ方も多いです。私が依頼を受けたケースでも、回収できた場合でも一部に留まり、残念ながら全額回収に至ったケースはありません。

弁護士に投資詐欺案件について相談する場合、回収可能性については弁護士本人から直接しっかりと確認した上、委任するかしないか判断して頂ければと思います。

 

投稿者: 弁護士大窪和久

2023.06.19更新

詐欺被害の際、加害者との連絡手段にLINEを使っていたため、LINEしか連絡手段がわからないと言うことは良くあります。例えば電話で連絡していた場合には、電話番号について電話会社に弁護士会照会を行なって加害者を特定させることは可能です。ただ、LINEについては、弁護士会照会に基本的に応じないため、加害者を特定できないままになるという問題がありました。このため、各弁護士会や日弁連等が運用を改善するよう意見書を出していたことは本ブログでも取り上げました。

この点、先月(2023年5月)からLINE が、弁護士会照会に対して開示に応じるべく、内部基準を緩和したとのことであるから、今後の対応においては、弁護士会照会の活用も検討するようにする旨弁護士会からアナウンスがありました。

今後については、詐欺被害等の際、LINEしか連絡手段がない場合でも、弁護士会照会によって相手方を特定することができるようになるかもしれません。実際の運用がわかりましたら、おってこちらでも取り上げたいと思います。

投稿者: 弁護士大窪和久

2023.02.01更新

この度、株式会社エンリケ空間・株式会社エンリケスタイル及びその関係会社による被害の救済等を目的として、エンリケ空間・エンリケスタイル被害弁護団を結成致しました。団長は私大窪です。 (弁護団ホームページ https://enrikehigai.com )

弁護団設立前より、株式会社エンリケ空間・株式会社エンリケスタイルからの返金が得られないという被害者からの相談を受けてきました。こうした被害者らが早急に同社に対し対応する必要があると考え、本弁護団を設立した次第です。

問い合わせは弁護団ホームページ経由あるいは本ホームページのフォームから頂きますようお願い致します。

投稿者: 弁護士大窪和久

2022.08.19更新

第二東京弁護士会は、SNSサービスを利用した違法行為に対する意見書(弁護士会照会への対応)を2022年8月17日に、総務大臣、消費者庁長官、内閣府消費者委員会委員長に提出しています。本意見書については私の所属する委員会の担当部会で議論し会としての提出ができるよう調整し、ようやく提出に至ったものです。なお、本意見書とほぼ同様の内容の意見書・会長声明が埼玉弁護士会、愛知県弁護士会、福井弁護士会からも既に出されています。

内容は、SNSサービスを通じた詐欺被害の実態を調査した上で、事業者に対して詐欺の被害者からの開示請求(特に弁護士会照会について)適切に回答をするよう指導するよう求めるものです。

背景として、現在広く使われているLINEが、詐欺の加害者と被害者との間のコミュニケーションで多く使われているという事実があります。詐欺の被害者は、加害者のLINEのアカウントしかわからず、損害賠償請求するにも加害者の所在が全く分からないということが良くあります。しかし、弁護士会照会などにより詐欺の個人情報の開示を求めても、事業者がこれに応じないため、被害者が泣き寝入りをせざるを得なくなっているというのが現状です。少なくとも、私の所属する委員会の担当部会で事例調査した限りでは、LINE株式会社が弁護士会照会に答えたケースはほぼありませんでした(過去例外的に回答したケースはあるようですが、近年は回答例は見受けられません)。

本意見書の提出は問題解決へのスタートラインに過ぎません。LINEなどSNSサービス事業者が適切な対応をするよう取り組みを続けていきたいと考えております。

投稿者: 弁護士大窪和久

2022.08.06更新

個人情報保護委員会が、7月20日付で破産者の個人情報をインターネット上で掲載しているWEBサイト運営者に対して、情報開示を停止するよう勧告を行っています。

破産者の個人情報については、官報に掲載されています。この情報をインターネット上で掲載するWEBサイトは過去にもありました。それらは既に削除されていますが、再び破産者の個人情報を掲載するWEBサイトが現れたので、それに対する勧告ということになります。

個人情報保護委員会は、個人情報の掲載がなされていることによって違法行為を助長誘発する可能性がある(法19条違反)、利用目的の本人の通知がなされていない(法21条1項違反)、本人の同意なく不特定多数人にデータが閲覧可能な状態にある(法27条1項違反)を理由として、法145条1項に基づき勧告を行っています。

もっとも、WEBサイトは海外のサーバー上にデータが存在し、運営者に関する連絡手段も存在しないことから個人情報保護委員会は公示送達により勧告を行っているに留まっています。

しかしながら、今日(2022年8月6日現在)も、問題となっているWEBサイトでは引き続き破産者の個人情報(住所氏名)をインターネット上での公開を続けており、ビットコインの支払を行わなければ情報削除には応じないとしています。今のところ、個人情報保護委員会の勧告に従う様子はありません。

このようなサイトが現れる背景には、破産者の個人情報が官報に掲載されているという点があり、弁護士会の消費者保護委員会等でもこの点が問題にされています。もっとも債権者側からすれば破産者の個人情報を知る必要性も存在しており、破産者の個人情報の公開をどうするかについては議論の余地があるところです。

現時点では、破産者の個人情報をインターネット上で公開されてしまうリスクがあることを前提として、破産手続を行うか否かについて検討を行う必要があると言えそうです。

投稿者: 弁護士大窪和久

2022.03.26更新

本年3月23日に、個人情報保護委員会が破産者等の情報を公開するサイトに対して停止命令を行っています。
サイト上にプレスリリースが公開されています(こちら)。

プレスリリースによれば、サイト上で破産者等の情報をデータベース化した上、本人の同意なく第三者に個人情報を提供していることが個人情報保護法23条1項違反にあたるとして、今年2月18日付でサイトを停止するよう事業者に勧告したが、これに事業者が従わなかったということです。

そこで、法42条2項(個人情報保護委員会は、前項の規定による勧告を受けた個人情報取扱事業者等が正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかった場合において個人の重大な権利利益の侵害が切迫していると認めるときは、当該個人情報取扱事業者等に対し、その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる)に基づきサイトの停止等を命令するに至りました。

サイト運営事業者がこの命令に従わなかった場合、法83条(第42条第2項又は第3項の規定による命令に違反した場合には、当該違反行為をした者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する)の罰則の適用も求めて刑事告発することを検討してもいるそうです。

従前破産者マップで破産者情報が公開され問題になったことがありますが、今回個人情報保護委員会が問題にしているサイトのように、破産者情報がインターネット上で公開される問題は継続しています。サイトの事業者が匿名で行って身元を隠しているようなこともあり、解決については容易ではありません。

サイト運営者は官報で公開されている情報であり問題ないとの認識のようですが、官報とインターネット上で誰でも見られる状態で情報拡散することは影響力に格段の差があり、それを理由として破産をすることを躊躇するという方も出てくると思います。停止命令には速やかに従っていただくことを願います。

 

投稿者: 弁護士大窪和久

2021.11.04更新

沖縄タイムスで、「登録サイトの料金が未払い」法律事務所を名乗る人物から電話 20代女性が145万円の詐欺被害という記事が掲載されていました。

記事によれば、「法律事務所職員を名乗る何者かが女性のスマホに電話をかけ「以前登録したインターネットサイトの未払い料金がある」「今日中に支払わなければ裁判になる」と話し、指定した口座に約50万円を振り込む指示をした。電話の内容を信じた女性が同日に金を振り込むと、翌21日にも「別のサイトで未払いがある」などと請求され、約95万円を2回に分けて振り込んだ。その後詐欺を疑い、署に相談して発覚した」ということです。

架空請求による詐欺については手口は巧妙化していますが、法律事務所を騙って支払を求めるのも詐欺の手口としてはオーソドックスなものです。実際に実在している法律事務所や弁護士の名前を使って請求を行なう詐欺も珍しくは無く、注意が必要です。法律事務所や弁護士の場合、日弁連の弁護士検索により名前を検索すれば登録の有無は直ぐに分かります。そこに名前がなければ詐欺ですし、仮に名前があっても実際に事務所に連絡して、詐欺と分かることもありますので、法律事務所から請求があってもあわてずにまず検索をすることをお勧め致します。

投稿者: 弁護士大窪和久

2021.09.24更新

朝日新聞で、「破産者マップ」で氏名や住所公開したことについて、2人がサイト運営者を提訴したとの報道がありました。その他メディアでも広く報道されています。

報道によれば、「破産者の情報を地図上に示した無料ウェブサイト「破産者マップ」でプライバシーと名誉を侵害されたとして、氏名や住所を掲載された2人がサイト運営者に計22万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。「ネットの地図上で可視化するのは公益性がまったくない」と訴えている」とのことです。

サイト自体は個人情報保護委員会の行政指導により2019年3月に閉鎖されておりますが、それから約2年半経過してからの提訴となりました。各種報道によれば相手方本人の特定や送達に相当の時間を要したとのことですが、本件ではサイト運営者の身元が不明であり、特定に相当のコストがかかったことは容易に想像ができます。

サイト運営者側は争っており、いずれ地裁判決で判断がなされるものと思われます。訴訟については経過等わかればおってこちらでも取り上げたいと思います。

 

 

投稿者: 弁護士大窪和久

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弁護士大窪のコラム 桜丘法律事務所

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