弁護士大窪のコラム

2024.03.07更新

私の所属する第二東京弁護士会で、「国際ロマンス詐欺その他投資詐欺案件の依頼にあたってのご注意」という文章が掲載されています。

https://niben.jp/news/ippan/2024/202402153940.html

同文章では、国際ロマンス詐欺や、その他投資詐欺案件について「・出資金の返還交渉を弁護士に委任し、着手金を支払ったが高額に過ぎる ・弁護士に高額の着手金を支払ったものの事務員が対応するのみで進展がない ・弁護士に委任した後、委任契約の解除を求めたが対応してもらえないといった相談が、当会の市民相談窓口に数多く寄せられています。」「国際ロマンス詐欺、その他投資詐欺の被害に遭われ、被害の回復を弁護士に依頼する方は、依頼する予定の弁護士から、事件処理の進め方、被害回復の可能性を含めた見通し、これらを踏まえた着手金・報酬金の妥当性について十分な説明を受けた上で依頼の検討をいただくよう、お願いいたします。」と弁護士に対しての注意喚起がなされています。

私も詐欺案件の相談はよく受けますが、相談者から、先に相談した弁護士から呈示された見積額について疑問があり、費用を支払って弁護士に委任した場合に回収できるのかどうかということを聞かれることもあります。

投資詐欺案件、特に最近流行しているSNSグループ内で投資を薦められて詐欺に遭った案件については、詐欺を行なった相手の連絡先がLINEしか分からない、入金手段も銀行口座を指定されてはいるが口座の名義人についての素性を知らないというのが通例となっております。

詐欺を行なった相手の連絡先がLINEしか分からない場合、詐欺師を特定することは事実上困難(LINEの運営会社が弁護士会照会に応じず回答しない等の事情による)で、詐欺師に対する裁判を行なうことも困難です。

また、銀行口座については振り込め詐欺救済法による銀行口座から被害金の支払が得られる可能性はありますが、詐欺を行なった相手は銀行口座からすぐに出金してしまうことが通例です。また、銀行口座に被害金が残っていたとしても、振り込め詐欺救済法による被害金の支払は被害者間で公平に行なわれますので、被害者多数の場合にはほとんど支払が得られないというケースもあります。

こうした事情から、投資詐欺案件に弁護士に依頼して回収できるかという点については数々のハードルがあり、回収可能性が高いとは言えません。

特に最近流行しているSNSグループ内で投資を薦められて詐欺に遭った案件については、加害者の特定ができず回収が難しいことが殆どです。そのため、法律相談の結果、詐欺事件として警察に届け出をした上、口座を凍結させて振り込め詐欺救済法による被害金の支払を待つことを選ぶ方も多いです。私が依頼を受けたケースでも、回収できた場合でも一部に留まり、残念ながら全額回収に至ったケースはありません。

弁護士に投資詐欺案件について相談する場合、回収可能性については弁護士本人から直接しっかりと確認した上、委任するかしないか判断して頂ければと思います。

 

投稿者: 弁護士大窪和久

2023.06.19更新

詐欺被害の際、加害者との連絡手段にLINEを使っていたため、LINEしか連絡手段がわからないと言うことは良くあります。例えば電話で連絡していた場合には、電話番号について電話会社に弁護士会照会を行なって加害者を特定させることは可能です。ただ、LINEについては、弁護士会照会に基本的に応じないため、加害者を特定できないままになるという問題がありました。このため、各弁護士会や日弁連等が運用を改善するよう意見書を出していたことは本ブログでも取り上げました。

この点、先月(2023年5月)からLINE が、弁護士会照会に対して開示に応じるべく、内部基準を緩和したとのことであるから、今後の対応においては、弁護士会照会の活用も検討するようにする旨弁護士会からアナウンスがありました。

今後については、詐欺被害等の際、LINEしか連絡手段がない場合でも、弁護士会照会によって相手方を特定することができるようになるかもしれません。実際の運用がわかりましたら、おってこちらでも取り上げたいと思います。

投稿者: 弁護士大窪和久

2023.02.01更新

この度、株式会社エンリケ空間・株式会社エンリケスタイル及びその関係会社による被害の救済等を目的として、エンリケ空間・エンリケスタイル被害弁護団を結成致しました。団長は私大窪です。 (弁護団ホームページ https://enrikehigai.com )

弁護団設立前より、株式会社エンリケ空間・株式会社エンリケスタイルからの返金が得られないという被害者からの相談を受けてきました。こうした被害者らが早急に同社に対し対応する必要があると考え、本弁護団を設立した次第です。

問い合わせは弁護団ホームページ経由あるいは本ホームページのフォームから頂きますようお願い致します。

投稿者: 弁護士大窪和久

2022.08.19更新

第二東京弁護士会は、SNSサービスを利用した違法行為に対する意見書(弁護士会照会への対応)を2022年8月17日に、総務大臣、消費者庁長官、内閣府消費者委員会委員長に提出しています。本意見書については私の所属する委員会の担当部会で議論し会としての提出ができるよう調整し、ようやく提出に至ったものです。なお、本意見書とほぼ同様の内容の意見書・会長声明が埼玉弁護士会、愛知県弁護士会、福井弁護士会からも既に出されています。

内容は、SNSサービスを通じた詐欺被害の実態を調査した上で、事業者に対して詐欺の被害者からの開示請求(特に弁護士会照会について)適切に回答をするよう指導するよう求めるものです。

背景として、現在広く使われているLINEが、詐欺の加害者と被害者との間のコミュニケーションで多く使われているという事実があります。詐欺の被害者は、加害者のLINEのアカウントしかわからず、損害賠償請求するにも加害者の所在が全く分からないということが良くあります。しかし、弁護士会照会などにより詐欺の個人情報の開示を求めても、事業者がこれに応じないため、被害者が泣き寝入りをせざるを得なくなっているというのが現状です。少なくとも、私の所属する委員会の担当部会で事例調査した限りでは、LINE株式会社が弁護士会照会に答えたケースはほぼありませんでした(過去例外的に回答したケースはあるようですが、近年は回答例は見受けられません)。

本意見書の提出は問題解決へのスタートラインに過ぎません。LINEなどSNSサービス事業者が適切な対応をするよう取り組みを続けていきたいと考えております。

投稿者: 弁護士大窪和久

2022.08.06更新

個人情報保護委員会が、7月20日付で破産者の個人情報をインターネット上で掲載しているWEBサイト運営者に対して、情報開示を停止するよう勧告を行っています。

破産者の個人情報については、官報に掲載されています。この情報をインターネット上で掲載するWEBサイトは過去にもありました。それらは既に削除されていますが、再び破産者の個人情報を掲載するWEBサイトが現れたので、それに対する勧告ということになります。

個人情報保護委員会は、個人情報の掲載がなされていることによって違法行為を助長誘発する可能性がある(法19条違反)、利用目的の本人の通知がなされていない(法21条1項違反)、本人の同意なく不特定多数人にデータが閲覧可能な状態にある(法27条1項違反)を理由として、法145条1項に基づき勧告を行っています。

もっとも、WEBサイトは海外のサーバー上にデータが存在し、運営者に関する連絡手段も存在しないことから個人情報保護委員会は公示送達により勧告を行っているに留まっています。

しかしながら、今日(2022年8月6日現在)も、問題となっているWEBサイトでは引き続き破産者の個人情報(住所氏名)をインターネット上での公開を続けており、ビットコインの支払を行わなければ情報削除には応じないとしています。今のところ、個人情報保護委員会の勧告に従う様子はありません。

このようなサイトが現れる背景には、破産者の個人情報が官報に掲載されているという点があり、弁護士会の消費者保護委員会等でもこの点が問題にされています。もっとも債権者側からすれば破産者の個人情報を知る必要性も存在しており、破産者の個人情報の公開をどうするかについては議論の余地があるところです。

現時点では、破産者の個人情報をインターネット上で公開されてしまうリスクがあることを前提として、破産手続を行うか否かについて検討を行う必要があると言えそうです。

投稿者: 弁護士大窪和久

2022.03.26更新

本年3月23日に、個人情報保護委員会が破産者等の情報を公開するサイトに対して停止命令を行っています。
サイト上にプレスリリースが公開されています(こちら)。

プレスリリースによれば、サイト上で破産者等の情報をデータベース化した上、本人の同意なく第三者に個人情報を提供していることが個人情報保護法23条1項違反にあたるとして、今年2月18日付でサイトを停止するよう事業者に勧告したが、これに事業者が従わなかったということです。

そこで、法42条2項(個人情報保護委員会は、前項の規定による勧告を受けた個人情報取扱事業者等が正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかった場合において個人の重大な権利利益の侵害が切迫していると認めるときは、当該個人情報取扱事業者等に対し、その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる)に基づきサイトの停止等を命令するに至りました。

サイト運営事業者がこの命令に従わなかった場合、法83条(第42条第2項又は第3項の規定による命令に違反した場合には、当該違反行為をした者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する)の罰則の適用も求めて刑事告発することを検討してもいるそうです。

従前破産者マップで破産者情報が公開され問題になったことがありますが、今回個人情報保護委員会が問題にしているサイトのように、破産者情報がインターネット上で公開される問題は継続しています。サイトの事業者が匿名で行って身元を隠しているようなこともあり、解決については容易ではありません。

サイト運営者は官報で公開されている情報であり問題ないとの認識のようですが、官報とインターネット上で誰でも見られる状態で情報拡散することは影響力に格段の差があり、それを理由として破産をすることを躊躇するという方も出てくると思います。停止命令には速やかに従っていただくことを願います。

 

投稿者: 弁護士大窪和久

2021.11.04更新

沖縄タイムスで、「登録サイトの料金が未払い」法律事務所を名乗る人物から電話 20代女性が145万円の詐欺被害という記事が掲載されていました。

記事によれば、「法律事務所職員を名乗る何者かが女性のスマホに電話をかけ「以前登録したインターネットサイトの未払い料金がある」「今日中に支払わなければ裁判になる」と話し、指定した口座に約50万円を振り込む指示をした。電話の内容を信じた女性が同日に金を振り込むと、翌21日にも「別のサイトで未払いがある」などと請求され、約95万円を2回に分けて振り込んだ。その後詐欺を疑い、署に相談して発覚した」ということです。

架空請求による詐欺については手口は巧妙化していますが、法律事務所を騙って支払を求めるのも詐欺の手口としてはオーソドックスなものです。実際に実在している法律事務所や弁護士の名前を使って請求を行なう詐欺も珍しくは無く、注意が必要です。法律事務所や弁護士の場合、日弁連の弁護士検索により名前を検索すれば登録の有無は直ぐに分かります。そこに名前がなければ詐欺ですし、仮に名前があっても実際に事務所に連絡して、詐欺と分かることもありますので、法律事務所から請求があってもあわてずにまず検索をすることをお勧め致します。

投稿者: 弁護士大窪和久

2021.09.24更新

朝日新聞で、「破産者マップ」で氏名や住所公開したことについて、2人がサイト運営者を提訴したとの報道がありました。その他メディアでも広く報道されています。

報道によれば、「破産者の情報を地図上に示した無料ウェブサイト「破産者マップ」でプライバシーと名誉を侵害されたとして、氏名や住所を掲載された2人がサイト運営者に計22万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。「ネットの地図上で可視化するのは公益性がまったくない」と訴えている」とのことです。

サイト自体は個人情報保護委員会の行政指導により2019年3月に閉鎖されておりますが、それから約2年半経過してからの提訴となりました。各種報道によれば相手方本人の特定や送達に相当の時間を要したとのことですが、本件ではサイト運営者の身元が不明であり、特定に相当のコストがかかったことは容易に想像ができます。

サイト運営者側は争っており、いずれ地裁判決で判断がなされるものと思われます。訴訟については経過等わかればおってこちらでも取り上げたいと思います。

 

 

投稿者: 弁護士大窪和久

2021.06.06更新

読売新聞で「「社員が殺されても知らないぞ」匿名メールの情報開示認めず…最高裁が1・2審判断覆す」という記事が掲載されていました。

記事によると、「〈放火されて社員が殺されても知らないぞ〉2019年夏。東京都内の映像会社にこんな内容の匿名メールが繰り返し送りつけられた。36人が犠牲になった「京都アニメーション放火殺人事件」の直後だったこともあり、映像会社は責任を追及するため、送信者を特定することにした」「同社は、民事訴訟法の規定に着目。証拠の散逸などを防ぐために設けられた「証拠保全手続き」や、その証拠を提示させる規定を使い、ネット接続業者(プロバイダー)のNTTドコモを相手取り、送信者の氏名や住所などの開示を求める裁判を起こした」とのことです。

記事にも指摘がありますが、インターネット上での誹謗中傷の投稿者の発信者情報開示に用いられるプロバイダ責任制限法は、不特定多数に向けられた投稿のみを対象としており、メールやダイレクトメッセージといった「1対1」のメッセージは対象外とされています(この点日弁連からはプロバイダ責任制限法の改正にあたり「実効的な発信者情報開示請求のための法改正等を求める意見書」内において「1対1」のメッセージの送信者情報も開示の対象に含めるべきとの意見がでておりますが、改正法でもこの意見は入れられませんでした)。そこで被害に遭った映像会社は、訴えの提起前における証拠保全として,送信者の氏名・住所が記録された記録媒体等につき検証の申出をするとともにNTTドコモに対する検証物提示命令の申立てを行なったのです。

この点原決定(東京高裁)は、「本件メールが明白な脅迫的表現を含むものであること、本件メールの送信者情報は本件送信者に対して損害賠償責任を追及するために不可欠なものであること、本件記録媒体等の開示により本件送信者の受ける不利益や抗告人に与える影響等の諸事情を比較衡量すると、本件記録媒体等に記録され、又は記載された送信者情報は保護に値する秘密に当たらず、抗告人は、本件記録媒体等を検証の目的として提示する義務を負う」との判断を行い、申立てを認めました。

しかしながら、最高裁判所第1小法廷の決定(令和3年3月18日 令和2年(許)第10号)では、次のような理由付で原決定を破棄して申立を却下しました(なおこの決定は先日までは最高裁ホームページに掲載されていましたが現在は掲載されていないようです。裁判所時報1764号3頁には掲載はなされています。)

「(1) 民訴法197条1項2号は、医師、弁護士、宗教等の職(以下、同号に列挙されている職を「法定専門職」という。)にある者又は法定専門職にあった者(以下、併せて「法定専門職従事者等」という。)が職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて尋問を受ける場合には、証言を拒むことができると規定する。これは、法定専門職にある者が、その職務上、依頼者等の秘密を取り扱うものであり、その秘密を保護するために法定専門職従事者等に法令上の守秘義務が課されていることに鑑みて、法定専門職従事者等に証言拒絶権を与えたものと解される。
 電気通信事業法4条1項は、「電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。」と規定し、同条2項は、「電気通信事業に従事する者は、在職中電気通信事業者の取扱中に係る通信に関して知り得た他人の秘密を守らなければならない。その職を退いた後においても、同様とする。」と規定する。これらは、電気通信事業に従事する者が、その職務上、電気通信の利用者の通信に関する秘密を取り扱うものであり、その秘密を保護するために電気通信事業に従事する者及びその職を退いた者(以下、併せて「電気通信事業従事者等」という。)に守秘義務を課したものと解される。
 そうすると、電気通信事業従事者等が職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて尋問を受ける場合に証言を拒むことができるようにする必要があることは、法定専門職従事者等の場合と異なるものではない。
 したがって、電気通信事業従事者等は、民訴法197条1項2号の類推適用により、職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて証言を拒むことができると解するのが相当である。
 (2) 民訴法197条1項2号所定の「黙秘すべきもの」とは、一般に知られていない事実のうち、法定専門職従事者等に職務の遂行を依頼した者が、これを秘匿することについて、単に主観的利益だけではなく、客観的にみて保護に値するような利益を有するものをいうと解するのが相当である(最高裁平成16年(許)第14号同年11月26日第二小法廷決定・民集58巻8号2393頁参照)。
 電気通信事業法4条1項が通信の秘密を保護する趣旨は、通信が社会生活にとって必要不可欠な意思伝達手段であることから、通信の秘密を保護することによって、表現の自由の保障を実効的なものとするとともに、プライバシーを保護することにあるものと解される。電気通信の利用者は、電気通信事業においてこのような通信の秘密が保護されているという信頼の下に通信を行っており、この信頼は社会的に保護の必要性の高いものということができる。そして、送信者情報は、通信の内容そのものではないが、通信の秘密に含まれるものであるから、その開示によって電気通信の利用者の信頼を害するおそれが強いというべきである。そうである以上、電気通信の送信者は、当該通信の内容にかかわらず、送信者情報を秘匿することについて、単に主観的利益だけではなく、客観的にみて保護に値するような利益を有するものと解される。
 このことは、送信者情報について電気通信事業従事者等が証人として尋問を受ける場合と、送信者情報が記載され、又は記録された文書又は準文書について電気通信事業者に対する検証物提示命令の申立てがされる場合とで異なるものではないと解するのが相当である。
 以上によれば、電気通信事業者は、その管理する電気通信設備を用いて送信された通信の送信者情報で黙秘の義務が免除されていないものが記載され、又は記録された文書又は準文書について、当該通信の内容にかかわらず、検証の目的として提示する義務を負わないと解するのが相当である。」

上記の通り、最高裁の判断は、送信者本人が開示に同意するような場合を除けば一切送信者情報の開示を認めないというものです。この点、本件が現に京アニ事件を模倣した極めて悪質な内容の脅迫を受けている被害者による申立であることを考えると、利益考慮の点では原決定のように送信者情報については開示を認めるのが妥当ではないかと私は考えますが、そのような利益考慮を前提とした判断を最高裁は行ないませんでした。そして最高裁が現行法のもとでは開示を認められないと判示してしまった以上、今後民事手続において匿名者のメールやダイレクトメッセージの送信者情報の開示を求めることは不可能になりました。

勿論、刑事手続上では捜査機関がプロバイダに捜査関係事項照会を行なったり、裁判所の令状を取って捜索差押を行なう場合には、プロバイダがこれに応じて送信者情報の開示に応じることはあります。ただ捜査を行なうかどうかは捜査機関の判断に委ねられており、匿名者の脅迫や詐欺被害について捜査機関が捜査に着手しない場合には、被害救済の手段は一切閉ざされてしまうことになります。脅迫や詐欺の加害者が匿名であり、メールやダイレクトメッセージ、LINEしか手がかりがないような場合には事実上泣き寝入りすることになるおそれが高いです。

私は、脅迫や詐欺の被害者に迅速に民事的な被害回復を実現させるため、立法により送信者情報の開示を認めるべきであると考えます。立法に当たっては当然憲法上の権利である通信の秘密の保護をどのように図るかは慎重に検討されるべきですが、少なくとも犯罪被害回復の為に通信の内容そのものではない送信者情報については開示の手段を設けるべきでしょう。

 

投稿者: 弁護士大窪和久

2021.05.16更新

法制審議会・民事訴訟法(IT化関係)部会で、「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する中間試案」がとりまとめられています(5月7日までパブコメが募集されていました)。これは日本が諸外国から遅れに遅れていた司法のIT化を目指すために作られたものですが、各方面から意見が出されています。

この中間試案では、訴状等についてオンラインでの申立を行なうようにできることを前提に、次の三つの案を呈示しています。①甲案:オンライン申立の義務化(例外を除いて書面による申立は認めない)②乙案:オンライン申立の訴訟代理人の義務化 ③丙案:オンライン申立は任意とし義務化しない

甲・乙・丙案のいずれが良いかという点について、私見では日弁連案(まずオンライン申立を認め、オンライン申立の体制整備を進めた上で訴訟代理人の義務化を行ない、その後訴訟代理人以外も義務化すべきか検討する)が妥当と考えています。紙の形で事件記録を作成・保存することについては、当事者にとっても裁判所にとってもコストとして大きいものがありますし、書面の持参や郵送をすることなくどこからでも申立をすることができるのは大きな利便性があります。その一方、ITリテラシーを皆が持っている訳ではないため、裁判を受ける権利の保障の関係上オンライン申立の体制整備は不可欠の前提ですので、当面はオンライン申立の体制整備を進めた上で訴訟代理人の義務化まで進めるのが妥当と考えます。

この点、先日公刊された消費者法ニュース127号で、裁判のIT化と審理の空洞化という特集が組まれていました。特集中小林孝志弁護士が「オンライン申立て等には断固として反対すべきである」という文章で丙案(オンライン申立は任意とし義務化しない)をとるべきとの論考が書かれていましたので拝読しました。

論考中で示されている、一般人がIT化というハードルにより裁判を受ける権利の保障が実質的に受けられなくなるという懸念はもっともであると考えますし、消費者保護の立場からも重要な視点だと思います。ただ、オンライン申立等の「訴訟代理人」の義務化も反対すべきという点は賛同できませんでした。論考中乙案にも反対する理由としてあげられているのは、①弁護士や司法書士にもIT弱者はいる②ITに不慣れなら事務員を雇えというのは細々とやっている弁護士も少なくない中賛成できない③弁護士が敢えて紙で訴訟書面を出すのなら何か理由があるはずだから尊重すべきということです。

しかしながら、登記手続については、既にオンライン申請制度が導入されており、司法書士はIT化に対応していますので、訴訟に携わる士業のうち弁護士だけIT化に対応できないという論は社会的に支持されないように思われます。また、弁護士にとっても紙の記録を作成・保存することから免れることで、従前より安いコストで事務所を運営することが可能になり、「細々とやっている弁護士」にとってIT化はむしろ利益になります。さらに、紙で訴訟書面を作るコストは依頼者が負担するものであり(特に消費者事件においては、契約書等多数の書面を証拠として提出する場面があり、依頼者のコストとして無視できないものがあります)、弁護士が依頼者のコストを無視して敢えて紙で訴訟書面を出す理由というのも想定しがたいものがあります。

裁判のIT化を進める中、消費者の裁判を受ける権利を損なわない様にする事自体は重要です。今後も(弁護士目線では無く)消費者目線での議論を続けていくことが必要だと思います。

 

 

 

 

投稿者: 弁護士大窪和久

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