弁護士大窪のコラム

2022.06.24更新

インターネット上において、犯罪歴が投稿されてしまい、生活に支障が出るので削除できないかという相談をよく受けます。

しかし、インターネット上の犯罪歴の削除請求については容易ではありません。2017年1月31日に最高裁がグーグル上の検索結果(犯罪歴が示されている)の削除について「当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので,その結果,当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には,検索事業者に対し,当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当である」との判断を行っています。その後の下級審では、インターネット上の犯罪歴の削除請求においては同最高裁判例の考え方に従い、犯罪歴は公共の利害に関する事項であって本件事実を公表されない法的利益が優越することが「明らか」であるとはいえないとして請求を認めない判断をすることが多くなりました。

ただ、上記最高裁の判断は検索事業者の事業の性格(インターネット上の情報流通の基盤)に着目したものであって、検索事業者以外について同様の判断をすべきか否かという点は別途考慮されるべきところです。

この点、2022年6月24日に最高裁はツイッター上での犯罪歴の削除請求について新たな判断を行いました。最高裁は、犯罪事実の削除の可否については、「上告人の本件事実を公表されない法的利益と本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきものであって、その結果、本件事実を公表されない法的利益が本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に優越する場合には、本件各ツイートの削除を求めることができるものと解するのが相当である」と判断しました。原審はツイートの削除については「犯罪事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合」に限られるという前記2017年1月31日の規範をつかって判断していますが、最高裁は「ツイッターの利用者に提供しているサービスの内容やツイッターの利用の実態等を考慮しても、 そのように解することはできない」とこれを否定しています。

したがって、インターネット上での犯罪歴の削除請求(検索結果を除く)については、犯罪事実を公表されない法的利益が優越することが「明らか」な場合に限らず、優越すると認められる場合にも認められることが最高裁の判断により明確になりました。今後の裁判所の判断にも大きく影響するものですので、ここで紹介させて頂きました。

なお、2022年6月24日最高裁判決の補足意見(草野耕一裁判官)は、犯罪の実名報道について具体的な効用があるのかという点について検討を行っており、その内容が大変説得的であると考えました。該当部分は次の通りです。

「実名報道がもたらす第一の効用は、実名報道の制裁としての働きの中に求めることができる。実名報道に、一般予防、特別予防及び応報感情の充足という制裁に固有の効用があることは否定し難い事実であろう(この効用をもたらす実名報道の機能を、以下、「実名報道の制裁的機能」という。)。しかしながら、犯罪に対する制裁は国家が独占的に行うというのが我が国憲法秩序の下での基本原則であるから、実名報道の制裁的機能が生み出す効用を是認するとしても、その行使はあくまで司法権の発動によってなされる法律上の制裁に対して付加的な限度においてのみ許容されるべきものであろう。したがって、本事件のように、刑の執行が完了し、刑の言渡しの効力もなくなっている状況下において、実名報道の制裁的機能が もたらす効用をプライバシー侵害の可否をはかるうえでの比較衡量の対象となる社 会的利益として評価する余地は全くないか、あるとしても僅少である。」

「実名報道がもたらす第二の効用は、犯罪者の実名を公表することによって、 当該犯罪者が他者に対して更なる害悪を及ぼす可能性を減少させ得る点に求めることができる(この効用をもたらす実名報道の機能を、以下、「実名報道の社会防衛機能」という。)。しかしながら、この効用は個人のプライバシーに属する事実を みだりに公表されない利益が法的保護の対象となるとする価値判断と原則的に相容れない側面を有している。なぜならば、人が社会の中で有効に自己実現を図っていくためには自己に関する情報の対外的流出をコントロールし得ることが不可欠であり、この点こそがプライバシーが保護されるべき利益であることの中核的理由の一つと考えられるからである。したがって、実名報道の社会防衛機能がもたらす効用をプライバシー侵害の可否をはかるうえでの比較衡量の対象となる社会的利益として評価し得ることがあるとしても、それは、再犯可能性を危惧すべき具体的理由がある場合や凶悪事件によって被害を受けた者(又はその遺族)のトラウマが未だ癒されていない場合、あるいは、犯罪者が公職に就く現実的可能性がある場合など、 しかるべき事情が認められる場合に限られると解するのが相当であるところ、本事件にはそのような事情は見出し難い。」

「第三に、実名報道がなされることにより犯罪者やその家族が受けるであろう 精神的ないしは経済的苦しみを想像することに快楽を見出す人の存在を指摘せねば ならない。人間には他人の不幸に嗜虐的快楽を覚える心性があることは不幸な事実 であり(わが国には、古来「隣りの不幸は蜜の味」と嘯くことを許容するサブカルチャーが存在していると説く社会科学者もいる。)、実名報道がインターネット上で拡散しやすいとすれば、その背景にはこのような人間の心性が少なからぬ役割を果たしているように思われる(この心性ないしはそれがもたらす快楽のことを社会科学の用語を使って、以下、「負の外的選好」といい、負の外的選好をもたらす実名報道の機能を、以下、「実名報道の外的選好機能」という。)。しかしながら、 負の外的選好が、豊かで公正で寛容な社会の形成を妨げるものであることは明白であり、そうである以上、実名報道がもたらす負の外的選好をもってプライバシー侵 害の可否をはかるうえでの比較衡量の対象となる社会的利益と考えることはできない(なお、実名報道の外的選好機能は国民の応報感情を充足させる限度において一定の社会的意義を有しているといえなくもないが、この点については、実名報道の制裁機能の項において既に斟酌されている。)。」

現在のインターネットでは、草野裁判官のいうところの「実名報道の外的選好機能」により、実名報道の内容が広く拡散してしまい、拡散した報道内容を削除することも難しい状態になっています。今回の最高裁判決をうけて、このような状態が少しでも改善されることを期待します。

投稿者: 弁護士大窪和久

2021.06.23更新

本日(2021年6月23日)、最高裁大法廷で夫婦別姓を認めない民法と戸籍法の規定について、合憲とする判断が下されました(令和2(ク)102号事件)。

同規定に関する最高裁の判断は2回目で、前回(2015年)の判断は合憲でしたが、今回改めて判断がなされるということで違憲判断に判例変更するのではないかとも予測されていましたが、従前の判断を維持した形です。

最高裁は、前回の判決以降に見られる諸事情(女性の有業率の上昇,管理職に占める女性の割合の増加その他の社会の変化や,いわゆる選択的夫婦別氏制の導入に賛成する者の割合の増加その他の国民の意識の変化)を踏まえても判断を変更する必要は無いと判断しました。憲法24条に反するとした反対意見を出した裁判官は3名あったものの、最高裁全体のスタンスは前回と変わりなく、立法で解決するべきというスタンスを取っています。

この点、夫婦別姓については1996年には法制審議会で夫婦別姓を認める方向での法律案の要綱が最終答申されていますが、議会多数を占める自民党の党内の反対もあって現時点に至るまで法改正には至っておりません。衆議院議員総選挙の結果にもよりますが、今後も立法による解決がなされる見通しは立っておらず、最高裁が判断を変更するまで本規定の改正はなされないのではないかと思われます。

投稿者: 弁護士大窪和久

2021.06.06更新

読売新聞で「「社員が殺されても知らないぞ」匿名メールの情報開示認めず…最高裁が1・2審判断覆す」という記事が掲載されていました。

記事によると、「〈放火されて社員が殺されても知らないぞ〉2019年夏。東京都内の映像会社にこんな内容の匿名メールが繰り返し送りつけられた。36人が犠牲になった「京都アニメーション放火殺人事件」の直後だったこともあり、映像会社は責任を追及するため、送信者を特定することにした」「同社は、民事訴訟法の規定に着目。証拠の散逸などを防ぐために設けられた「証拠保全手続き」や、その証拠を提示させる規定を使い、ネット接続業者(プロバイダー)のNTTドコモを相手取り、送信者の氏名や住所などの開示を求める裁判を起こした」とのことです。

記事にも指摘がありますが、インターネット上での誹謗中傷の投稿者の発信者情報開示に用いられるプロバイダ責任制限法は、不特定多数に向けられた投稿のみを対象としており、メールやダイレクトメッセージといった「1対1」のメッセージは対象外とされています(この点日弁連からはプロバイダ責任制限法の改正にあたり「実効的な発信者情報開示請求のための法改正等を求める意見書」内において「1対1」のメッセージの送信者情報も開示の対象に含めるべきとの意見がでておりますが、改正法でもこの意見は入れられませんでした)。そこで被害に遭った映像会社は、訴えの提起前における証拠保全として,送信者の氏名・住所が記録された記録媒体等につき検証の申出をするとともにNTTドコモに対する検証物提示命令の申立てを行なったのです。

この点原決定(東京高裁)は、「本件メールが明白な脅迫的表現を含むものであること、本件メールの送信者情報は本件送信者に対して損害賠償責任を追及するために不可欠なものであること、本件記録媒体等の開示により本件送信者の受ける不利益や抗告人に与える影響等の諸事情を比較衡量すると、本件記録媒体等に記録され、又は記載された送信者情報は保護に値する秘密に当たらず、抗告人は、本件記録媒体等を検証の目的として提示する義務を負う」との判断を行い、申立てを認めました。

しかしながら、最高裁判所第1小法廷の決定(令和3年3月18日 令和2年(許)第10号)では、次のような理由付で原決定を破棄して申立を却下しました(なおこの決定は先日までは最高裁ホームページに掲載されていましたが現在は掲載されていないようです。裁判所時報1764号3頁には掲載はなされています。)

「(1) 民訴法197条1項2号は、医師、弁護士、宗教等の職(以下、同号に列挙されている職を「法定専門職」という。)にある者又は法定専門職にあった者(以下、併せて「法定専門職従事者等」という。)が職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて尋問を受ける場合には、証言を拒むことができると規定する。これは、法定専門職にある者が、その職務上、依頼者等の秘密を取り扱うものであり、その秘密を保護するために法定専門職従事者等に法令上の守秘義務が課されていることに鑑みて、法定専門職従事者等に証言拒絶権を与えたものと解される。
 電気通信事業法4条1項は、「電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。」と規定し、同条2項は、「電気通信事業に従事する者は、在職中電気通信事業者の取扱中に係る通信に関して知り得た他人の秘密を守らなければならない。その職を退いた後においても、同様とする。」と規定する。これらは、電気通信事業に従事する者が、その職務上、電気通信の利用者の通信に関する秘密を取り扱うものであり、その秘密を保護するために電気通信事業に従事する者及びその職を退いた者(以下、併せて「電気通信事業従事者等」という。)に守秘義務を課したものと解される。
 そうすると、電気通信事業従事者等が職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて尋問を受ける場合に証言を拒むことができるようにする必要があることは、法定専門職従事者等の場合と異なるものではない。
 したがって、電気通信事業従事者等は、民訴法197条1項2号の類推適用により、職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて証言を拒むことができると解するのが相当である。
 (2) 民訴法197条1項2号所定の「黙秘すべきもの」とは、一般に知られていない事実のうち、法定専門職従事者等に職務の遂行を依頼した者が、これを秘匿することについて、単に主観的利益だけではなく、客観的にみて保護に値するような利益を有するものをいうと解するのが相当である(最高裁平成16年(許)第14号同年11月26日第二小法廷決定・民集58巻8号2393頁参照)。
 電気通信事業法4条1項が通信の秘密を保護する趣旨は、通信が社会生活にとって必要不可欠な意思伝達手段であることから、通信の秘密を保護することによって、表現の自由の保障を実効的なものとするとともに、プライバシーを保護することにあるものと解される。電気通信の利用者は、電気通信事業においてこのような通信の秘密が保護されているという信頼の下に通信を行っており、この信頼は社会的に保護の必要性の高いものということができる。そして、送信者情報は、通信の内容そのものではないが、通信の秘密に含まれるものであるから、その開示によって電気通信の利用者の信頼を害するおそれが強いというべきである。そうである以上、電気通信の送信者は、当該通信の内容にかかわらず、送信者情報を秘匿することについて、単に主観的利益だけではなく、客観的にみて保護に値するような利益を有するものと解される。
 このことは、送信者情報について電気通信事業従事者等が証人として尋問を受ける場合と、送信者情報が記載され、又は記録された文書又は準文書について電気通信事業者に対する検証物提示命令の申立てがされる場合とで異なるものではないと解するのが相当である。
 以上によれば、電気通信事業者は、その管理する電気通信設備を用いて送信された通信の送信者情報で黙秘の義務が免除されていないものが記載され、又は記録された文書又は準文書について、当該通信の内容にかかわらず、検証の目的として提示する義務を負わないと解するのが相当である。」

上記の通り、最高裁の判断は、送信者本人が開示に同意するような場合を除けば一切送信者情報の開示を認めないというものです。この点、本件が現に京アニ事件を模倣した極めて悪質な内容の脅迫を受けている被害者による申立であることを考えると、利益考慮の点では原決定のように送信者情報については開示を認めるのが妥当ではないかと私は考えますが、そのような利益考慮を前提とした判断を最高裁は行ないませんでした。そして最高裁が現行法のもとでは開示を認められないと判示してしまった以上、今後民事手続において匿名者のメールやダイレクトメッセージの送信者情報の開示を求めることは不可能になりました。

勿論、刑事手続上では捜査機関がプロバイダに捜査関係事項照会を行なったり、裁判所の令状を取って捜索差押を行なう場合には、プロバイダがこれに応じて送信者情報の開示に応じることはあります。ただ捜査を行なうかどうかは捜査機関の判断に委ねられており、匿名者の脅迫や詐欺被害について捜査機関が捜査に着手しない場合には、被害救済の手段は一切閉ざされてしまうことになります。脅迫や詐欺の加害者が匿名であり、メールやダイレクトメッセージ、LINEしか手がかりがないような場合には事実上泣き寝入りすることになるおそれが高いです。

私は、脅迫や詐欺の被害者に迅速に民事的な被害回復を実現させるため、立法により送信者情報の開示を認めるべきであると考えます。立法に当たっては当然憲法上の権利である通信の秘密の保護をどのように図るかは慎重に検討されるべきですが、少なくとも犯罪被害回復の為に通信の内容そのものではない送信者情報については開示の手段を設けるべきでしょう。

 

投稿者: 弁護士大窪和久

2021.04.20更新

グーグルマップの口コミの投稿において名誉毀損がなされることは良くありますが、その場合でも、投稿者の発信者情報開示についてグーグル社が任意で応じることはなく、裁判手続でも積極的に争ってくるのが通常です。

発信者情報開示の訴訟について、ハードルになっているのは「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」(権利侵害の明白性)という要件です。この要件は、投稿によって請求者の名誉毀損がなされたことだけではなく、「違法性阻却事由の存在をうかがわせるような事情の存在しない」ことまで必要とされており、開示を求める側がそれを立証しなければなりません。この立証が出来ないことを理由として発信者情報開示を断念するというケースは多々あります。

ただ、この権利侵害の明白性について、開示請求側に不可能なことまで証明を求めるようなことになっては制度趣旨を没却することになるとして、一審の原判決内容を覆した東京高裁の判例が出ましたので、本ブログでも簡単に取り上げたいと思います。

事案としては、グーグルマップの口コミで、”営業の電話がしつこいです。特定商取引法の17条で勧誘を断った消費者への再勧誘は禁止されているのに何度も掛かってきます”などといった投稿をなされた会社が、グーグル社に対して発信者情報開示を求めたものです。投稿をなされた会社は、顧客と電話禁止対象者を一元管理しており、勧誘を断った人については電話禁止対象者に加える仕組みをとっているので、勧誘を断った消費者への再勧誘はありえないと主張しました。

この点について、東京地裁の原判決(令和元年(ワ)14308号)は、「原告が主張する仕組みがとられていたとしても,テレフォンアポインターから本社管理部門に正しく電話禁止対象者の報告がされていなかったり,記載漏れ等により契約者リストに電話禁止対象者が正しく記載されていなかったり,テレフォンアポインターが誤って自ら担当する電話帳から電話禁止対象者を正しく消していなかったりすることにより,本来電話勧誘を行うべきでない者に電話勧誘がおこなわれてしまうおそれがあることは否定し難い」として、人為ミスによる再勧誘の抽象的な可能性があることを理由として、権利侵害の明白性要件を否定し、開示を認めませんでした。ただ、人為ミスが全くないことまで立証することは困難を極めるものであり、この判決のロジックですと発信者情報の開示が認められることはほぼ無いと思われます。

これに対して、東京高裁の控訴審判決(令和2年(ネ)1959号)は、人為ミスによる再勧誘の可能性があること自体は認めましたが、「被害者である控訴人におよそ再度の電話勧誘をすることはなかったという不可能に近い立証まで強いることは相当でない。その意味で、プロバイダ法4条1項で定める「権利侵害が明らか」という要件について、権利侵害された被害者が発信者に対して損害賠償請求をする訴訟における違法性阻却事由の判断と完全に重なるものではないと解され、再勧誘の可能性が全くないことまで請求原因として立証することを要しないというべきである」として、原判決の判断を覆して権利侵害の明白性要件を肯定しました。

本事案については上告されており、最終的な判断はまだなされていないようですが、グーグルマップの口コミに関して発信者情報開示を事実上封じかねない一審の判決はバランスを欠くと思われますので、本高裁控訴審判決の様な判断が定着することを期待致します。

投稿者: 弁護士大窪和久

2021.03.19更新

 本月17日に、札幌地裁が同性婚の不受理を行なったことについては憲法に違反するという判断を示しました。本判決はBBCニュースでも報じられ、白石早樹子さんの解説において「今回の札幌地裁の判決ははっきりとした分岐点だ。賠償請求は退けられたが、違憲判決という大きな成果を勝ち取った実質勝訴だという声が次々に上がっている」と紹介されています。

 本裁判については、弁護団がCALL4(社会課題の解決を目指す訴訟“の支援に特化したウェブプラットフォーム)上で判決文、判決要旨だけではなく、主張書面や証拠なども公開しているため(公開箇所はこちら)、原告被告がどのような主張を行なっているのか明確になっています。原告準備書面では同性婚に関して緻密な書面が提出されており、弁護団が本判決を勝ち取るのにいかに汗を流してきたかが良くわかるものとなっています。

 判決では、 同性間の婚姻を認める規定を設けていない民法及び戸籍法の婚姻に関する諸規定について、法の下の平等を定める憲法14条1項に反するとの判断をしています。

 具体的には、「同性愛は精神疾患ではなく,自らの意思に基づいて選択、変更できないことは,現在は確立した知見になっている。圧倒的多数派である異性愛者の理解又は許容がなければ,同性愛者のカップルは,重要な法的利益である婚姻によって生じる法的効果を享受する利益の一部であってもこれを受け得ないとするのは,同性愛者の保護が,異性愛者と比してあまりにも欠けるといわざるを得ない」「我が国及び諸外国において,同性愛者と異性愛者との間の区別を解消すべきとする要請が高まっていることは考慮すべき事情である一方,同性婚に対する否定的意見や価値観を有する国民が少なからずいることは,同性愛者に対して,婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段を提供しないことを合理的とみるか否かの検討の場面においては,限定的に斟酌すべきものである」とした上で、同性愛者に対しては,婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段を提供しないとしていることは,立法府の裁量権の範囲を超えたものであるといわざるを得ず,本件区別取扱いは,その限度で合理的根拠を欠く差別取扱いに当たると解さざるを得ない」と判断しているのです。これまで日本の裁判所が同性婚を認めない民法等の規定を違憲であるとした判断はなく、まさに画期的な判断といえるでしょう。

 なお本判決は、同性婚を認めない民法等の規定は憲法24条には違反しないとしています。その理由については、現行民法への改正や憲法が制定された戦後初期の頃においても、同性愛は精神疾患であるとされており、同性婚は許されないものと解されていたこと、憲法 24条が「両性」など男女を想起させる文言を用いていることにも照らせば、同条は異性婚について定めたものであり、同性婚について定めるものではないというものです。ただここで本判決は、民法等で同性婚を認める規定をおくことについて「憲法24条に反する」という判断を行なっているわけではありません。ネット等では本判決が同性婚を憲法24条に違反するものと判示したというような言説がありますが、判決文にあたればそのような読み方は出来ないことは明白です。

 判決中にも言及されているとおり、日本では特に高齢者で同性婚について否定的な意見を持つ人が多く、(私も地方時代、そのような意見を聞くことが少なからずありました)、そのせいもあってか法制度の整備も遅々としているのが現状です。本判決を機に法制度整備をきちんと進める方向へ議論がなされることを期待します。

 

投稿者: 弁護士大窪和久

2020.11.18更新

先日、櫻井光政弁護士(私の所属する桜丘法律事務所所長)が原告として、東京地検特捜部が業務上横領容疑で捜査対象とした男性を任意で取り調べた際、検事から接見を妨害されたことについて国賠を求めた事件の判決がありました。判決では弁護権の違法な侵害を認め、10万円の慰謝料の支払を命じています。

事実関係については、現在進行中の事件に関することでもありますので、こちらの記事で書いてあるような原告本人が記者会見で述べた内容以上のことを現時点でここで開示する予定はありません(なお、櫻井、私を含む当事務所の弁護士が弁護団をつくっています)。

ただ、本件は、任意取調中の検察の接見妨害について接見妨害を認めた先例として価値がある判決だと考えています。曲がりなりにも特捜たる存在がこのような違法な接見妨害を行なってまで被疑者の調書を取っていることが、まさにこの国の人質司法の病理を体現しているものと言わざるを得ません。

(2020.11.19 追記)

事務所のブログで櫻井弁護士が記事を書いておりますのでご参照ください。

投稿者: 弁護士大窪和久

2020.10.20更新

典型的な弁護過誤の例として、民事訴訟における控訴期限の徒過があります。

民事訴訟において、第一審判決に不服があるときには控訴をすることが出来ますが、法律上期限が定められています。民事訴訟法285条では、「控訴は、判決書又は第254条第2項の調書の送達を受けた日から二週間の不変期間内に提起しなければならない」とされています。具体的には、控訴状は、判決正本を受領した日をいれないで、2週間の最終日までに提出する必要があります。これを徒過した場合には、控訴を行なうことが出来なくなります。なお、最終日が土日祝日や年末年始であればその翌日が最終日となりますが、最終日については書記官にあらかじめ確認しておくのが確実でしょう。

控訴状提出のミスでありがちなものは、控訴状の提出先が「判決をした第一審の裁判所」であるにも関わらず、控訴状を高裁に送ってしまうようなケースです。期限ギリギリで速達で郵送して安心したと思いきや、提出すべき期間を徒過してしまい取り返しのつかないことになるということもあります。単純なミスですが事務局に郵送を頼んでいたところそようなことになってしまった、というケースもあります。

弁護士が控訴期限を徒過した場合、弁護士としての基本的な業務を怠ったとして、懲戒請求されその結果懲戒例は多数有ります。

また、弁護士が控訴していれば勝訴していたとして訴訟での請求額相当の損害賠償を求めるということもあります。ただ、この場合請求額がそのまま損害になるかというとそういうわけでもなく、控訴審において勝訴の見込みがどの程度あったかが問題となります(過去の裁判例では、控訴したとしても勝訴の見込みがなかったとして弁護士に対する損害賠償を認めなかったものもあります(昭和60年1月23日横浜地判 判例時報1181号119頁等))。一方、訴訟まで行かずとも弁護士が加入している弁護士損害賠償保険により一定額の賠償がなされるというケースもあります。

本来有ってはならないことではありますが、万が一自分が依頼した弁護士が控訴期間徒過のような弁護過誤を行なった場合には、どのような対応が妥当かについて他の弁護士にセカンドオピニオンをとって判断するのも良いと思います。

 

投稿者: 弁護士大窪和久

2020.10.13更新

今日はメトロコマース事件大阪医科大学事件の上告審判決が出ています。どちらも最高裁HPに既に判決文が掲載されています。

いずれも短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条(改正前の労働契約法20条)が禁じる不合理な条件の禁止にあたるかが問題となった事件で、メトロコマース事件では退職金、大阪医科大学事件では賞与について正社員と契約社員との間の格差が問題となりました。

いずれも高裁判決では格差が不合理であるという判断を行なっていますが、最高裁はこれを覆し、格差の不合理性を否定し使用者側に有利な判断を下しています。

もっとも、メトロコマース事件の方は反対意見があります。反対意見によれば、正社員と契約社員の職務の内容等に大きな相違がないことからすると、退職金についての使用者の裁量判断を尊重するとしても、不合理な条件の禁止にあたるといえ、高裁判決を破棄するには及ばないとしています。最高裁の判断はいずれも事例判断であり、実際の事件にそのままあてはまるものではないので反対意見の考え方も踏まえて考慮していく必要はあるでしょう。

投稿者: 弁護士大窪和久

2020.09.18更新

NHKのニュースで、「入れ墨のタトゥーの彫り師をしている男性が医師の免許がないのに客にタトゥーを入れたとして医師法違反の罪に問われた裁判で、最高裁判所は検察の上告を退ける決定をし、無罪が確定することになりました」との報道がありました。

ツイッターでも「あの最高裁がここまで踏み込んだ意見を出すのが驚き。これは弁護団の並々ならぬ尽力による成果なのだと思います」と書かせていただいたとおり、画期的な判断であると考えます。裁判長の補足意見で、「タトゥーの施術による保健衛生上の危険を防ぐため法律の規制を加えるのであれば、新たな立法によって行うべきだ」との立法提言がなされていますが、刑事訴訟の最高裁判決がここまで踏み込んだ立法提言を行うことはなかなかありません。

いずれ最高裁のホームページ等で判決文が公開される事件だと思いますので、公開後当ブログに改めて紹介させていただこうと思います。

投稿者: 弁護士大窪和久

2020.09.15更新

2014年にベネッセコーポレーションが個人情報流出させた事件を覚えていらっしゃいますでしょうか。

この事件については、個人情報流出について損害賠償を求める民事訴訟が複数提起されています。そのうちの一件(男性が慰謝料を求めた訴訟の差し戻し控訴審)で、2019年11月20日に大阪高裁は、プライバシー侵害を認め1000円の支払を命じた判決を下しています。この裁判は、一審と二審はともに損害を認めていませんでしたが、2017年に最高裁が精神的損害の有無や程度を十分に検討されていないとして、審理を高裁に差し戻したという経緯を辿っていました。

この事件の判決文については最高裁のホームページで掲載されていますし、判例時報2448号28頁でも紹介されていますので、興味を持たれた方は判決文にあたってみてください。本件訴訟の争点であるそもそも精神的損害が発生したと言えるか否かという点についてはかなり丁寧な認定を行なっていると思いました。

裁判所は、氏名・住所・電話番号等に関して「今日のように,情報ネットワークが多様化,高度化し,容易に入手可能なさまざまな情報を組み合わせることによって趣味嗜好や思想等まで把握されかねない危険性のあることが危惧されていることにも鑑みると,本件個人情報は,個人特定の基本となるベース情報として機能し,それを基に情報集積がされかねないものとしては重要な価値を持つものと評価すべき」とし、また本件で流出した子の氏名・性別・生年月日及び親との続柄については、「日常的に開示されることが多いものであるとはいえ,家族関係が一定程度明らかになる情報や
教育に関心が高いという属性が含まれており,前者に比してより私的領域性の高い情報ということができる」と認定しました。

また、上記各情報が流出したことにより、情報流出元が「教育関係の会社であったことや控訴人の年齢等から今後の学業生活等に関する支出が見込まれる顧客情報として,それらに関係する業者からは価値のある情報として有望視されることは避けられないもの」であり業者等からの広告,販売活動を受け,それに煩わしさや不快を感じる機会が増大することが予想されること、「流出した情報の全てを回収して抹消させることは不可能な状況となっているといわざるを得ない」ことなどから、「故意かつ営利目的を持って本件個人情報が流出したこと自体が精神的苦痛を生じさせるものである上,その流出した先の外縁が不明であることは控訴人の不安感を増幅させるものであって,このような事態は,一般人の感受性を基準にしても,その私生活上の平穏を害する態様の侵害行為」であるとしました。

そして、損害に関して、「本件個人情報を利用する他人の範囲を控訴人が自らコントロールできない事態が生じていること自体が具体的な損害であり,控訴人において予め本件個人情報が名簿業者に転々流通することを許容もしていないのであるから,上記のような現状にあること自体をもって損害と認められるべき」として肯定しています。

本件での損害額(1000円)自体は率直に言って低額に過ぎるのではないかと思われますが、損害認定に至る論理については他の事案でも参考になると考えますので、本ブログでも紹介させて頂きました。

投稿者: 弁護士大窪和久

弁護士大窪のコラム 桜丘法律事務所

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