企業のご担当者から、社内の通報窓口をどのように整えればよいか、通報をしてきた社員をどこまで守らなければならないのか、といったご相談を、私もお受けすることがあります。公益通報者保護法は令和七年に大きく改正され、その改正法が令和八年十二月一日から施行されることになりました(施行の期日は、令和七年十二月に公布された政令で定められています)。まず申し上げておきたいのは、この改正によって、通報をした人を保護する仕組みが一段と強化される一方で、企業の側から見ると、対応を誤った場合の責任が重くなり、あらかじめ整えておくべき事柄も増えるということです。他方で、施行まではまだ時間がありますので、今のうちから順を追って準備をしていただければ、慌てる必要はありません。以前のコラムで改正の内容そのものには触れましたが、施行が近づいてまいりましたので、あらためて、企業として今から備えておくべき点を、実務の観点から整理しておきたいと思います。
はじめに、現在の制度を確認しておきます。公益通報者保護法は、労働者などが、勤務先の法令違反にあたる事実を、社内の窓口や監督官庁、報道機関などに通報した場合に、その通報を理由とする解雇その他の不利益な取扱いから通報者を保護する法律です。令和二年の改正(令和四年六月一日施行)により、常時使用する労働者の数が三百人を超える事業者には、通報に適切に対応するために必要な体制を整備する義務(同法十一条二項)と、通報を受け付けて対応する担当者を「公益通報対応業務従事者」として指定する義務(同法十一条一項)とが課されました。この従事者には、通報者を特定させる事項を漏らしてはならないという守秘義務があり、これに違反した場合には刑事罰(三十万円以下の罰金)が科されることがあります。なお、常時使用する労働者が三百人以下の事業者については、これらは努力義務とされています。
そのうえで、令和七年の改正(令和七年六月十一日公布・令和七年法律第六十二号)によって、大きく次のような点が変わります。まず、通報者に対する不利益な取扱いを抑止するための仕組みが強められます。これまでは、通報を理由に解雇や懲戒などの不利益な取扱いをしても、その効力が否定されたり、損害賠償の対象になったりするにとどまっていましたが、改正法では、公益通報を理由として解雇または懲戒を行なった者に対して、刑事罰が科されることになります。報道等によれば、その法定刑は、行為をした個人について六月以下の拘禁刑または三十万円以下の罰金、法人については三千万円以下の罰金とされています。さらに、公益通報をした時からおおむね一年以内にされた解雇・懲戒については、公益通報を理由としてされたものと推定するという、いわゆる立証責任を転換する規定が設けられます。これにより、企業の側で、その解雇や懲戒が通報とは関係のない正当な理由によるものであることをきちんと説明できなければ、違法と扱われやすくなります。
次に、通報を妨げようとする行為への対処も加えられます。誰が通報したのかを詮索する、いわゆる通報者の探索を行なうことが禁止され、また、通報をしないことをあらかじめ約束させるような合意は無効とされます。あわせて、消費者庁による立入検査の権限が新設され、行政の勧告に従わない場合の命令や、その命令に違反した場合の罰則も設けられます。企業の対応が不十分な場合に、行政による関与が強まることになります。また、保護される「公益通報者」の範囲も広がります。現在は、在職中の労働者や、退職後一年以内の退職者、役員などが対象とされていますが、改正により、業務委託を受けて働くいわゆるフリーランス(特定受託事業者)なども保護の対象に加えられる予定です。社外の委託先も視野に入れて、通報の受付や周知のあり方を考えておく必要があります。
こうした改正を前に、企業の側でやっていただきたくないことを申し上げます。まず、通報をしてきた社員を、それを理由に配置転換したり、退職に追い込んだり、人事評価で不利に扱ったりすることです。改正後はこうした行為に刑事罰が伴い得るうえ、先ほどの推定規定によって、通報の後にされた不利益な取扱いは通報を理由とするものと扱われやすくなります。次に、通報者が誰かを社内で探ろうとしたり、「余計なことを外部に言うな」といった口止めをしたりすることも、禁止や無効の対象となりますので、避けるべきです。そして、「うちは従業員が三百人以下だから関係ない」と考えて何もしないことも、おすすめできません。体制整備が努力義務にとどまる小規模な事業者であっても、通報者を不利益に取り扱ってはならないという保護の規定そのものは、規模にかかわらず全ての事業者に及びます。最後に、施行の直前になって慌てて対応しようとすることも、避けたいところです。規程の見直しや社内への周知には、相応の時間がかかるためです。
そのうえで、施行までに備えておくべきことを整理します。体制整備義務のある事業者であれば、まず、現在の内部通報規程が改正法の内容に沿っているかを点検し、必要に応じて改訂することになります。通報を受け付ける窓口が実際に機能しているか、従事者の指定や守秘の取扱いが適切かを確認し、通報者を不利益に扱わないこと、探索や口止めをしないことを、担当部署だけでなく管理職を含めて社内に周知していくことが重要です。保護の対象が広がることを踏まえ、従業員だけでなく、退職した方や業務委託先に対しても、通報窓口の存在や利用の方法を伝える工夫が求められます。なお、この改正にあわせて、企業がとるべき措置を具体的に示す法定の指針も見直されることになっていますので、最終的にはその内容も踏まえて整えていくことになります。三百人以下の事業者においても、努力義務ではありますが、これを機に最低限の窓口と規程を整えておくことは、社内の不正を早期に発見し是正するという点でも意味があると考えます。
規程の整備や研修にどの程度の手間や費用がかかるかは、会社の規模や、現在の体制がどの程度整っているかによって大きく異なりますので、一律に申し上げることは難しいところです。ご相談をいただければ、貴社の現状をうかがったうえで、施行までに何を優先して行なうべきか、想定される進め方とあわせてご説明いたします。公益通報への対応は、いざ通報が寄せられてから慌てて整えようとしても間に合わないことが少なくありません。施行までまだ時間のある今のうちに、社内の体制を一度点検しておかれることをおすすめします。ご不明な点や、体制整備の進め方についてお考えの際には、まずはお早めにご相談いただければと思います。
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・公益通報者保護法改正により通報者に対する(不)利益な取扱いからの保護・救済が大幅強化されました
・【最高裁判例】正社員と契約社員の退職金・賞与の格差が不合理か否か








