弁護士大窪のコラム

2026.08.18更新

弁護士の業務に、AIをはじめとする技術がどこまで関わってよいのかは、私自身も関心をもって見ている問題です。令和八年八月、報道によりますと、法務省が、生成AIを用いたいわゆるリーガルテックの推進に向けて、どこまでが弁護士法の禁じる「非弁行為」に当たらない適法なサービスなのかを明確にする、新しい指針をまとめたことが明らかになりました。契約書の作成やチェックをAIが支援するサービスは、すでに企業の法務の現場で使われ始めており、それを利用してよいのか、あるいは提供する側として弁護士法に触れないのか、という問題は、今後さらに身近なものになっていくと思われます。まず申し上げておきたいのは、この指針は、企業の法務を支援するAIサービスについて、これまで曖昧だった適法と違法の境目を示し、事業者が萎縮せずにサービスを展開できるようにするという、規制緩和の方向を打ち出したものだということです。他方で、AIに任せてよい場面とそうでない場面の見極めは依然として重要であり、利用する側にも提供する側にも、なお慎重さが求められる点は変わりません。

はじめに、前提となる弁護士法七十二条について確認しておきます。同条は、弁護士または弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で、訴訟事件や紛争といった法律事件に関する法律事務を、業として取り扱うことを原則として禁止しています。これは、いわゆる「非弁行為」の禁止と呼ばれるもので、法律の専門家でない者が報酬目的で他人の法律事務に立ち入ることによって、依頼した方が不利益を被ったり、法律秩序が乱されたりすることを防ぐための規制です。違反した場合には刑事罰の定めもあります。以前のコラムでも、「必ず消せます」とうたうインターネットの削除業者について、弁護士でない者が報酬を得て削除の交渉や手続を代行することはこの七十二条に触れるおそれがある、と申し上げたことがありますが、この条文は、AIを用いたサービスについても同じように問題になり得ます。

AIと弁護士法七十二条との関係については、すでに令和五年八月に、法務省が「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第七十二条との関係について」という指針を公表していました。もっとも、その後の生成AIの急速な発展もあって、当時の指針では適法と違法の線引きが分かりづらく、かえって事業展開の妨げになっているとの指摘が出ていたようです。報道によりますと、今回の新しい指針は、この点をより具体的に整理し、たとえば、一つ目に紛争案件に用いることを目的として設計されたサービスではないこと、二つ目にそのために特化した機能を備えていないこと、三つ目に紛争案件への不適切な利用を避けるための措置が講じられていること、といった条件を満たしている場合には、仮にそのサービスが結果として紛争の場面で使われることがあったとしても、直ちに事業者による非弁行為とみなすのは難しい、という考え方を示したとされています。そのうえで、契約書の作成・審査・管理や、社内の内部通報に関する調査、コンプライアンスに関する業務などを支援するサービスは、原則として弁護士法に触れないものとして例示された、と報じられています。

このように適法な範囲が明確になること自体は、企業がAIを安心して活用していくうえで意義のあることだと思います。もっとも、私が弁護士の立場から申し上げておきたいのは、線引きが緩やかになるということは、裏を返せば、信頼性の十分でないサービスが世に広がりやすくなるということでもある、という点です。実際、今回の指針も、信頼性の低いサービスが広がれば法秩序が害されかねないと指摘し、弁護士の関与や、問題が生じた場合の相談窓口の設置、重大な規約違反があった場合にサービスの利用を停止する措置といった、事業者側の体制の整備を求めていると報じられています。AIは、定型的な契約書のチェックや情報の整理といった場面では大いに力を発揮しますが、個別の事情を踏まえた法的な判断や、相手方との交渉、紛争そのものの解決は、本来、責任を負う弁護士が担うべき領域です。利用される企業の側でも、どこまでをAIに任せ、どこからを弁護士に相談するのかを、意識して使い分けていただくことが大切だと思います。

もう一つ、今回の議論で触れておきたいのは、こうした技術の活用が、企業の法務にとどまらず、一般の市民の司法へのアクセスをどう広げていくか、という視点です。報道の中でも、専門家から、弁護士の偏在が深刻化している現状を踏まえ、企業法務だけでなく、市民が法的な助けを得やすくするという観点も必要であり、将来的には、適切な仕組みを整えたうえで、離婚後の養育費の取決めのような一部の身近な問題についても技術を使えるようにしていくべきだ、との指摘がなされています。諸外国でも、ドイツやアメリカの一部の州などで、弁護士でない事業者による法的サービスを、消費者保護の仕組みとあわせて一定の範囲で認めていく動きがあるようです。法務省も、今年度中に有識者による検討会を設け、来年度中にルールのあり方をまとめ、必要であれば新しい法律の制定も含めて検討していく方針だと報じられており、この分野の制度は、今後さらに動いていくものと思われます。

AIをはじめとする技術が法律の世界に入ってくること自体は、避けられない流れであり、うまく使えば、これまで法的な助けを得にくかった方々にとっての助けにもなり得ます。私自身も、日々の業務の中で、こうした技術の便利さと危うさの両方を感じています。大切なのは、便利さだけに目を向けるのではなく、その判断に誰が責任を負うのか、利用する方が不利益を被らない仕組みになっているのか、という点を見失わないことだと思います。AIを用いたサービスの利用にあたってご不安がある場合や、ご自身の抱えておられる問題がAIに任せてよいものかどうか迷われた場合には、まずはお早めに弁護士にご相談いただければと思います。

投稿者: 弁護士大窪和久

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