弁護士大窪のコラム

2021.05.16更新

法制審議会・民事訴訟法(IT化関係)部会で、「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する中間試案」がとりまとめられています(5月7日までパブコメが募集されていました)。これは日本が諸外国から遅れに遅れていた司法のIT化を目指すために作られたものですが、各方面から意見が出されています。

この中間試案では、訴状等についてオンラインでの申立を行なうようにできることを前提に、次の三つの案を呈示しています。①甲案:オンライン申立の義務化(例外を除いて書面による申立は認めない)②乙案:オンライン申立の訴訟代理人の義務化 ③丙案:オンライン申立は任意とし義務化しない

甲・乙・丙案のいずれが良いかという点について、私見では日弁連案(まずオンライン申立を認め、オンライン申立の体制整備を進めた上で訴訟代理人の義務化を行ない、その後訴訟代理人以外も義務化すべきか検討する)が妥当と考えています。紙の形で事件記録を作成・保存することについては、当事者にとっても裁判所にとってもコストとして大きいものがありますし、書面の持参や郵送をすることなくどこからでも申立をすることができるのは大きな利便性があります。その一方、ITリテラシーを皆が持っている訳ではないため、裁判を受ける権利の保障の関係上オンライン申立の体制整備は不可欠の前提ですので、当面はオンライン申立の体制整備を進めた上で訴訟代理人の義務化まで進めるのが妥当と考えます。

この点、先日公刊された消費者法ニュース127号で、裁判のIT化と審理の空洞化という特集が組まれていました。特集中小林孝志弁護士が「オンライン申立て等には断固として反対すべきである」という文章で丙案(オンライン申立は任意とし義務化しない)をとるべきとの論考が書かれていましたので拝読しました。

論考中で示されている、一般人がIT化というハードルにより裁判を受ける権利の保障が実質的に受けられなくなるという懸念はもっともであると考えますし、消費者保護の立場からも重要な視点だと思います。ただ、オンライン申立等の「訴訟代理人」の義務化も反対すべきという点は賛同できませんでした。論考中乙案にも反対する理由としてあげられているのは、①弁護士や司法書士にもIT弱者はいる②ITに不慣れなら事務員を雇えというのは細々とやっている弁護士も少なくない中賛成できない③弁護士が敢えて紙で訴訟書面を出すのなら何か理由があるはずだから尊重すべきということです。

しかしながら、登記手続については、既にオンライン申請制度が導入されており、司法書士はIT化に対応していますので、訴訟に携わる士業のうち弁護士だけIT化に対応できないという論は社会的に支持されないように思われます。また、弁護士にとっても紙の記録を作成・保存することから免れることで、従前より安いコストで事務所を運営することが可能になり、「細々とやっている弁護士」にとってIT化はむしろ利益になります。さらに、紙で訴訟書面を作るコストは依頼者が負担するものであり(特に消費者事件においては、契約書等多数の書面を証拠として提出する場面があり、依頼者のコストとして無視できないものがあります)、弁護士が依頼者のコストを無視して敢えて紙で訴訟書面を出す理由というのも想定しがたいものがあります。

裁判のIT化を進める中、消費者の裁判を受ける権利を損なわない様にする事自体は重要です。今後も(弁護士目線では無く)消費者目線での議論を続けていくことが必要だと思います。

 

 

 

 

投稿者: 弁護士大窪和久

2021.05.16更新

読売新聞オンラインで、「【独自】家族間問題に「ウェブ調停」導入へ…東京など4家裁で試行」との記事が掲載されていました。

記事によれば、「最高裁は、家族間の問題を扱う家事調停に、インターネット上で手続きを進める「ウェブ会議」を導入する方針を固めた。裁判のIT化の一環で、今年度内に東京、大阪、名古屋、福岡の4家裁で試行を開始し、その後、他地域への拡大も検討する」とのことです。

これまで、離婚や相続の家事調停については、原則として当事者が裁判所に出頭して行なうこととされています。調停の場合訴訟と異なり、当事者間の協議を行なうという性格上、代理人がついている場合でも当事者本人も裁判所に来る必要がありました。当事者が遠隔地に居住する場合等については、電話会議を用いる運用も例外的に行なわれてはいますが、原則としては裁判所への出頭が必要です。

民事訴訟についてはWEB会議が実施されるようになっていますが、家事事件についてはこれまで実施されておらず、これからの課題とされていたところです。

この点、特に東京家裁においては、当事者が裁判所に多数出頭することで裁判所が混み合う状況がかねてより存在し、昨年からのコロナ渦においては三密を避ける目的から調停期日を多く入れられないということも生じています。新型コロナウイルス感染防止の観点から裁判所に人が来ることを防ぐ必要は確かにありますので、WEB会議については積極的に実施して頂きたいものです。

投稿者: 弁護士大窪和久

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