弁護士大窪のコラム

2025.06.12更新

皆さんもスマートフォンで日常的に写真を撮りますよね。美しい風景、美味しそうな料理、面白い出来事など、様々な瞬間を切り取ってSNSに投稿することも多いでしょう。そのとき、「この写真は自分の著作物だ」と意識することはありますか?
実は、スマホで撮影した写真が、必ずしも著作権法で保護される「著作物」と認められるわけではありません。
今回は、まさにその点が争われた裁判例(東京地裁令和5年7月6日判決)をご紹介します。

事件の概要:何が争われたのか?
この事件は、ある司法書士X氏が起こしたものです。
1. X氏は、ご自身が裁判所に申し立てた「発信者情報開示仮処分命令申立書」という書類一式をiPhoneで撮影し、その写真をTwitter(現X)に投稿しました。
2. すると、氏名不詳の発信者が、X氏が投稿したその写真を自身の投稿に添付し、「申立てをしたというなら、受付印を受けた控えの画像が出てくるのかと思ったのだが。」と、X氏の投稿内容を揶揄するような文章を投稿しました。
3. これに対しX氏は、「自分が撮影した写真の著作権が侵害された」などと主張し、プロバイダに対して発信者の情報開示を求めました。 
つまり、争いの出発点は「X氏がiPhoneで撮影した申立書類の写真は、そもそも著作権で保護される『著作物』なのか?」という点でした。

裁判所の判断①:その写真は「著作物」ではない
結論から言うと、裁判所はこの写真の著作物性を否定しました。 つまり、「著作物にはあたらない」と判断したのです。
著作権法では、「著作物」を「思想又は感情を創作的に表現したもの」と定義しています。 写真の場合、被写体の選定、構図やアングルの決定、光量の調整、シャッターチャンスの捉え方などに撮影者の「創作性」が表現されると考えられています。
では、なぜ今回の写真は「創作性」がないと判断されたのでしょうか。裁判所は、以下の点を指摘しています。
・ 構図がありふれている
 写真は、複数の書類を少しずらして重ね、その全体がだいたい収まるように真上から撮影した、ごくありふれたものでした。
• 撮影方法に格別の工夫がない
 光量、シャッタースピード、ズーム倍率などについても、撮影者であるX氏が特に工夫を凝らしたとは認められませんでした。
iPhoneをはじめとするスマートフォンのカメラは非常に高性能で、誰でも簡単に綺麗な写真が撮れるように、多くの設定が自動で調整されます。 そのため、ただ被写体に向けてシャッターを切っただけでは、撮影者の「思想又は感情」が「創作的に表現」されたとは言えなくなってしまう可能性があるのです。
この裁判所の判断は、「アイデアと表現の二分論」という知的財産権の基本的な考え方に基づいています。これは、「アイデア(着想)」そのものは皆で自由に利用できるものとし、それを具体的に「表現」した部分だけを保護するという考え方です。今回のケースで言えば、「申立書類の写真を撮って投稿する」というアイデアは保護されず、その具体的な「表現」である写真に創作性が認められなかったため、著作権による保護の対象外と判断されたわけです。

裁判所の判断②:「仮に」著作物だとしても「適法な引用」にあたる
さらに、裁判所はもう一歩踏み込んで、「仮にこの写真が著作物だったとしても」という仮定の上での判断も示しました。 結論として、発信者の行為は「適法な引用」にあたり、著作権侵害にはならないと判断したのです。
著作権法では、一定の条件を満たせば、他人の著作物を自分の著作物の中で利用することができます。これが「引用」です。裁判所は、今回のケースが以下の点から「引用」の条件を満たすと判断しました。
• 目的の正当性:発信者の投稿は、X氏が「申立てをした」と投稿しているにもかかわらず、その証拠となる写真に「受付印」がないことを批評する目的がありました。 このように、批評の対象を明確にするために写真を利用することは、正当な範囲内だと認められました。
• 公正な慣行:投稿の文脈から、一般の閲覧者が普通に読めば、写真の出所(撮影者がX氏であること)は分かると判断されました。 そのため、批評の目的や態様などを考慮すると、写真を添付したことは公正な慣行に合致していると認められたのです。
また、著作者の氏名を表示する権利(氏名表示権)の侵害についても、裁判所は同様の理由から、文脈上著作者が誰であるか明らかであるため、氏名の表示を省略することは許されると判断しました。

この裁判例から、次の二つの点を読み取る事が可能です。

1. 「自分で撮った写真=著作物」とは限らない

特に、何かの商品を記録したり、書類を複写する目的で真正面から撮影したりするなど、被写体をありのままに写しただけの写真は、創作性が否定されやすい傾向にあります。 自分の写真に著作権を主張するためには、構図、アングル、光と影の効果、背景の選択など、何らかの形で「自分ならではの創意工夫」が表現されている必要があります。

2. 他人の写真の利用は慎重に

今回のケースでは、結果的に著作物性が否定され、引用も認められました。しかし、これはあくまで個別の事案に対する判断です。安易に他人の写真をコピーして自分の投稿に使うことは、非常に高いリスクを伴います。もしその写真に創作性が認められれば、当然、著作権侵害を問われる可能性があります。
また、たとえ著作権侵害にならなくても、使い方によっては今回のように相手を揶揄したり、社会的評価を低下させたりする内容であれば、名誉毀損など別の問題に発展する可能性も十分にあります。
SNSが普及し、誰もが情報の発信者にも受信者にもなる時代だからこそ、写真一枚の取り扱いにも細心の注意が求められます。

投稿者: 弁護士大窪和久

2025.06.01更新

インターネット上に一度掲載された情報が、いつまでも残り続けることに不安を感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。特に、過去の不名誉な情報が検索結果に表示され続けることは、社会生活を送る上で大きな負担となり得ます。
今回は、時間の経過などを理由として過去のブログ記事の削除が認められた裁判例(名古屋地方裁判所 令和6年8月8日判決)について、解説します。

1 はじめに
この判決は、記事が掲載された当初は問題がなかったとしても、時間の経過によって記事を掲載し続けることの正当性が失われる場合があることを示した点に特色があります。名誉毀損と表現の自由、そして「忘れられる権利」にも関連する論点を含んでいます。

2 事案の概要
あるブログサービス上に、原告が過去に代表取締役を務めていた会社(以下「本件会社」)に関する記事(以下「本件記事」)が掲載されました。 本件記事は、「本件会社が詐欺のように元本保証と高配当により資金調達を行っていたが突然閉鎖したようであり、計画的な倒産の可能性がある」といった内容でした。つまり、本件会社が詐欺的な行為をしていた可能性を示唆するものでした。本件記事が書かれるきっかけとなった新聞報道があり、本件記事掲載後、原告は本件会社の業務に関して出資法違反で有罪判決を受けています。
原告は、「この記事は名誉棄損であり、プライバシーも侵害している」と主張し、ブログ運営者である被告に対し、記事の削除を求めて裁判を起こしました。

3 争点
この裁判の主な争点は、「本件記事が原告の名誉権を侵害するかどうか」、特に「時間の経過によって、本件記事を掲載し続けることが法的に許されるのかどうか」という点でした。
 原告は、「記事が掲載されてから10年以上が経過しており、もはやこの記事を公衆の目に触れさせ続ける公共の利益はほとんどない。記事の公共性は失われている」と主張しました。
被告は、「記事の内容は、原告が有罪判決を受けた事実などから真実であり、会社の信用性に関する情報として引き続き重要だ。公共性も公益目的も認められるため、公正な論評として保護されるべきだ」と反論しました。

4 裁判所の判断
裁判所は、以下の点を考慮し、原告の請求を認めて記事の削除を命じました。

(1)名誉毀損の成立
まず、本件記事が「詐欺のような」「詐欺の可能性が高い」といった表現を用いていることから、原告の社会的評価を低下させるものであると認定しました。
(2) 本件記事の前提事実が公共の利害に関する事項にあたらない
裁判所は、名誉毀損にあたる表現の差止めは、表現の自由との関係で慎重に判断する必要があるとしつつ、意見や論評の差止めが許される場合を限定的に示しました。具体的には、その意見や論評が公正な論評に当たらないことが明白であり(公共の利害に関するものでない、公益目的でない、前提事実が真実でない、人身攻撃に及んでいるなど)、かつ被害者が重大で著しく回復困難な損害を被るおそれがある場合に限られるとしました。
裁判所は、本件記事が掲載された当初は、前提となる事実に真実性があり、公共性や公益目的も認められ、公正な論評に当たるものであったと判断しました。
しかし、以下の事情から、時間の経過とともに状況が変化したと指摘しました。
・有罪判決の言い渡しから9年半以上、記事掲載からも11年以上が経過していること。
・有罪判決の執行猶予期間は既に満了し、刑の言渡しは効力を失っていること。
・記事で引用されていた元の新聞記事も、インターネット上で一般的に閲覧できなくなっていること。
・本件会社や原告に関する刑事手続きが終了した後も、長期間にわたって閲覧され続けることを想定して投稿されたとは認め難いこと。
・本件会社の行為が、記事掲載後も継続的に社会の関心事となっているような事情は見当たらないこと。
これらの点を総合的に考慮し、裁判所は、本件記事が前提とする事実は、口頭弁論終結日(裁判の最終段階)の時点においては、もはや公共の利害に関する事項に当たるとはいえないことが明白であると判断しました。

5 結論
以上のことから、裁判所は、本件記事の掲載を続けることによって原告が著しく回復困難な損害を被るおそれがあると認め、被告に対し、本件記事の削除を命じる判決を下しました。

6 本判決の意義
この判決は、インターネット上に掲載された過去の記事による名誉毀損について、「時間の経過」という要素が、記事の公共性を判断する上で極めて重要になることを明確に示した点で大きな意義があります。
たとえ掲載当時は真実であり公共性があったとしても、時が経つにつれてその情報が社会的な関心を失い、個人の名誉やプライバシーを不当に害し続ける場合には、記事の削除が認められる可能性があることを示唆しています。
インターネット上の情報は半永久的に残り、拡散する可能性があります。 このような特性を踏まえ、過去の情報による権利侵害と表現の自由のバランスをどのように取るべきか、改めて考えるきっかけとなる重要な判例といえるでしょう。

投稿者: 弁護士大窪和久

2025.05.08更新

インターネット上の電子掲示板における投稿に関し、ファイル転送サービスのダウンロードURLを公開する行為が著作権(公衆送信権)侵害にあたるとして、プロバイダに対する発信者情報開示請求が認められた裁判例(東京地方裁判所判決/令和7年3月7日。以下「本判決」といいます。)について、事案の概要と本判決の意義について解説いたします。
1.事案の概要
本件は、原告が、インターネットの動画共有サイトであるYouTubeやツイキャスにおいて動画配信活動を行っていたところ、そのうち有料会員限定で配信した動画(本件配信動画)の一部を複製した動画ファイル(本件動画ファイル)が、無料大容量ファイル転送サービス「ギガファイル便」にアップロードされ、そのダウンロード用URL(本件URL)が被告の提供するインターネット接続サービスを介して、氏名不詳者(本件投稿者)により電子掲示板に投稿・公開された事案です。
原告は、本件記事の投稿により、有料会員限定であった本件配信動画が無料でダウンロードできる状態に置かれ、原告の営業活動上の利益が侵害されたこと、及び本件配信動画に係る著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかであるとして、本件投稿者との契約関係に基づきその氏名、住所等の情報を保有する被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)第5条第1項に基づき、本件投稿者の発信者情報の開示を求めたものです。
2.争点
本件における主な争点は、本件記事の投稿によって、原告の権利(特に著作権)が侵害されたことがプロバイダ責任制限法第5条第1項にいう「明らか」といえるかという点でした。
被告は、著作権侵害の主張に対し、以下の点を反論として主張しました。
• 本件投稿者が本件動画ファイルをギガファイル便にアップロードした者と同一人物であるかは明らかでない。
• 仮に本件投稿者がアップロード者と同一人物でない場合、本件動画ファイルがギガファイル便にアップロードされた時点、あるいは本件URLがアップロード者によって第三者に公開された時点で既に「送信可能化」は完了しており、本件記事の投稿によって重ねて送信可能化がされたとはいえない。
• したがって、本件投稿者が著作権侵害を幇助したことも明らかではない。
3.裁判所の判断
裁判所は、以下のとおり認定・判断し、原告の請求を認めました。
(1) 事実認定
• 原告はツイキャスにおいて有料会員限定の動画配信を行っており、本件配信動画は有料会員のみが視聴できる動画であった。
• 本件配信動画は、原告の見解発信等を含み、一定の創作性を有する映画の著作物にあたり、著作権者は原告であると認められる。
• 本件動画ファイルは、本件配信動画の大部分を録画したものであり、本件配信動画の複製物である。
• ギガファイル便は、ファイルをアップロードした際に生成される固有のダウンロードページURLを知らないと、ファイルをダウンロードできない仕組みである。また、アップロードされたファイルのファイル名等からURLを検索する機能は設けられていない。
• 本件記事が投稿されるまでの間、本件URLがインターネット上で公開されるなど、不特定又は多数の者に知られていた事実は認められない。
• 本件記事は、原告のチャンネル名や本件配信動画の内容を示す記載とともに本件URLが記載されており、これに接した者が本件URLから本件チャンネルの動画をダウンロードできると理解できるように記載されていた。
(2) 著作権侵害に関する判断
裁判所は、上記の事実認定を踏まえ、以下のように判断しました。
• ギガファイル便にアップロードされた本件動画ファイルは、本件記事の投稿の前には、不特定又は多数の者からの求めに応じ自動的に送信されることはなかった。
• しかし、本件記事が投稿され本件URLが公開されたことによって、不特定又は多数の者が本件動画ファイルをダウンロードすることができるようになり、「自動公衆送信」される状態に至った。
• 本件投稿者が本件動画ファイルをギガファイル便にアップロードした本人であるか否かは明らかではないとしながらも、本件投稿者は、本件記事を投稿し、本件URLを公開することによって、不特定または多数の者が本件動画ファイルをダウンロードすることを可能にしたものと認定しました。
• これは、不特定または多数の者が、インターネットを通じて(求めに応じて)著作物を自動的に受信できる状態にする行為、すなわち公衆送信権侵害(送信可能化)に該当すると判断しました。
• そして、本件動画ファイルが本件配信動画の複製物であり、著作権者の許諾を得ていないことは明らかであることから、本件記事の投稿は原告の著作権(公衆送信権)侵害を直接的にもたらしており、「侵害情報の流通によって」原告の著作権が侵害されたことが明らかであると結論づけました。
(3) 情報開示の正当理由に関する判断
裁判所は、原告が本件投稿者に対して損害賠償請求権等を行使する予定であることが認められ、そのために発信者情報の開示を受ける必要性があることから、原告にはプロバイダ責任制限法第5条第1項第2号に定める「当該発信者情報の開示を受けるべき正当な理由」があることを認めました。
4.結論
以上の判断に基づき、裁判所は原告の請求を全面的に認め、被告に対し、本件投稿者の氏名、住所、電話番号、メールアドレスといった発信者情報を開示するよう命じる判決を下しました。
5.本判決の意義
本判決は、無料ファイル転送サービスに違法にアップロードされた著作物のダウンロードURLを電子掲示板等に投稿し公開する行為について、以下の重要な法的示唆を与えています。
• ファイルをアップロードした者とURLを投稿した者が同一であるか否かに関わらず、URLを投稿・公開する行為自体が、不特定多数の者が当該ファイルにアクセスしダウンロードすることを可能にする行為として、「送信可能化」に該当し、著作権(公衆送信権)侵害となり得ることを明確に示しました。
• URL公開前は不特定多数がアクセスできない状態であったものが、URL公開によってアクセス可能となった場合、URL公開行為が著作権侵害の状態を完成させる行為として評価されることを示しました。
本判決は、ファイル共有サービスにおける違法アップロードへの関与形態のうち、特にダウンロードURLの公開行為に対する法的評価を明確にしたものであり、今後の著作権侵害事案における発信者情報開示請求の実務に影響を与える可能性のある裁判例であると考えられます。
インターネット上での情報発信は自由ですが、他者の著作権を侵害するコンテンツのダウンロードURLを安易に公開する行為は、違法な「送信可能化」行為として法的責任を問われる可能性があることを改めて認識する必要があります。

投稿者: 弁護士大窪和久

2022.06.24更新

インターネット上において、犯罪歴が投稿されてしまい、生活に支障が出るので削除できないかという相談をよく受けます。

しかし、インターネット上の犯罪歴の削除請求については容易ではありません。2017年1月31日に最高裁がグーグル上の検索結果(犯罪歴が示されている)の削除について「当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので,その結果,当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には,検索事業者に対し,当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当である」との判断を行っています。その後の下級審では、インターネット上の犯罪歴の削除請求においては同最高裁判例の考え方に従い、犯罪歴は公共の利害に関する事項であって本件事実を公表されない法的利益が優越することが「明らか」であるとはいえないとして請求を認めない判断をすることが多くなりました。

ただ、上記最高裁の判断は検索事業者の事業の性格(インターネット上の情報流通の基盤)に着目したものであって、検索事業者以外について同様の判断をすべきか否かという点は別途考慮されるべきところです。

この点、2022年6月24日に最高裁はツイッター上での犯罪歴の削除請求について新たな判断を行いました。最高裁は、犯罪事実の削除の可否については、「上告人の本件事実を公表されない法的利益と本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきものであって、その結果、本件事実を公表されない法的利益が本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に優越する場合には、本件各ツイートの削除を求めることができるものと解するのが相当である」と判断しました。原審はツイートの削除については「犯罪事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合」に限られるという前記2017年1月31日の規範をつかって判断していますが、最高裁は「ツイッターの利用者に提供しているサービスの内容やツイッターの利用の実態等を考慮しても、 そのように解することはできない」とこれを否定しています。

したがって、インターネット上での犯罪歴の削除請求(検索結果を除く)については、犯罪事実を公表されない法的利益が優越することが「明らか」な場合に限らず、優越すると認められる場合にも認められることが最高裁の判断により明確になりました。今後の裁判所の判断にも大きく影響するものですので、ここで紹介させて頂きました。

なお、2022年6月24日最高裁判決の補足意見(草野耕一裁判官)は、犯罪の実名報道について具体的な効用があるのかという点について検討を行っており、その内容が大変説得的であると考えました。該当部分は次の通りです。

「実名報道がもたらす第一の効用は、実名報道の制裁としての働きの中に求めることができる。実名報道に、一般予防、特別予防及び応報感情の充足という制裁に固有の効用があることは否定し難い事実であろう(この効用をもたらす実名報道の機能を、以下、「実名報道の制裁的機能」という。)。しかしながら、犯罪に対する制裁は国家が独占的に行うというのが我が国憲法秩序の下での基本原則であるから、実名報道の制裁的機能が生み出す効用を是認するとしても、その行使はあくまで司法権の発動によってなされる法律上の制裁に対して付加的な限度においてのみ許容されるべきものであろう。したがって、本事件のように、刑の執行が完了し、刑の言渡しの効力もなくなっている状況下において、実名報道の制裁的機能が もたらす効用をプライバシー侵害の可否をはかるうえでの比較衡量の対象となる社 会的利益として評価する余地は全くないか、あるとしても僅少である。」

「実名報道がもたらす第二の効用は、犯罪者の実名を公表することによって、 当該犯罪者が他者に対して更なる害悪を及ぼす可能性を減少させ得る点に求めることができる(この効用をもたらす実名報道の機能を、以下、「実名報道の社会防衛機能」という。)。しかしながら、この効用は個人のプライバシーに属する事実を みだりに公表されない利益が法的保護の対象となるとする価値判断と原則的に相容れない側面を有している。なぜならば、人が社会の中で有効に自己実現を図っていくためには自己に関する情報の対外的流出をコントロールし得ることが不可欠であり、この点こそがプライバシーが保護されるべき利益であることの中核的理由の一つと考えられるからである。したがって、実名報道の社会防衛機能がもたらす効用をプライバシー侵害の可否をはかるうえでの比較衡量の対象となる社会的利益として評価し得ることがあるとしても、それは、再犯可能性を危惧すべき具体的理由がある場合や凶悪事件によって被害を受けた者(又はその遺族)のトラウマが未だ癒されていない場合、あるいは、犯罪者が公職に就く現実的可能性がある場合など、 しかるべき事情が認められる場合に限られると解するのが相当であるところ、本事件にはそのような事情は見出し難い。」

「第三に、実名報道がなされることにより犯罪者やその家族が受けるであろう 精神的ないしは経済的苦しみを想像することに快楽を見出す人の存在を指摘せねば ならない。人間には他人の不幸に嗜虐的快楽を覚える心性があることは不幸な事実 であり(わが国には、古来「隣りの不幸は蜜の味」と嘯くことを許容するサブカルチャーが存在していると説く社会科学者もいる。)、実名報道がインターネット上で拡散しやすいとすれば、その背景にはこのような人間の心性が少なからぬ役割を果たしているように思われる(この心性ないしはそれがもたらす快楽のことを社会科学の用語を使って、以下、「負の外的選好」といい、負の外的選好をもたらす実名報道の機能を、以下、「実名報道の外的選好機能」という。)。しかしながら、 負の外的選好が、豊かで公正で寛容な社会の形成を妨げるものであることは明白であり、そうである以上、実名報道がもたらす負の外的選好をもってプライバシー侵 害の可否をはかるうえでの比較衡量の対象となる社会的利益と考えることはできない(なお、実名報道の外的選好機能は国民の応報感情を充足させる限度において一定の社会的意義を有しているといえなくもないが、この点については、実名報道の制裁機能の項において既に斟酌されている。)。」

現在のインターネットでは、草野裁判官のいうところの「実名報道の外的選好機能」により、実名報道の内容が広く拡散してしまい、拡散した報道内容を削除することも難しい状態になっています。今回の最高裁判決をうけて、このような状態が少しでも改善されることを期待します。

投稿者: 弁護士大窪和久

2021.06.23更新

本日(2021年6月23日)、最高裁大法廷で夫婦別姓を認めない民法と戸籍法の規定について、合憲とする判断が下されました(令和2(ク)102号事件)。

同規定に関する最高裁の判断は2回目で、前回(2015年)の判断は合憲でしたが、今回改めて判断がなされるということで違憲判断に判例変更するのではないかとも予測されていましたが、従前の判断を維持した形です。

最高裁は、前回の判決以降に見られる諸事情(女性の有業率の上昇,管理職に占める女性の割合の増加その他の社会の変化や,いわゆる選択的夫婦別氏制の導入に賛成する者の割合の増加その他の国民の意識の変化)を踏まえても判断を変更する必要は無いと判断しました。憲法24条に反するとした反対意見を出した裁判官は3名あったものの、最高裁全体のスタンスは前回と変わりなく、立法で解決するべきというスタンスを取っています。

この点、夫婦別姓については1996年には法制審議会で夫婦別姓を認める方向での法律案の要綱が最終答申されていますが、議会多数を占める自民党の党内の反対もあって現時点に至るまで法改正には至っておりません。衆議院議員総選挙の結果にもよりますが、今後も立法による解決がなされる見通しは立っておらず、最高裁が判断を変更するまで本規定の改正はなされないのではないかと思われます。

投稿者: 弁護士大窪和久

2021.06.06更新

読売新聞で「「社員が殺されても知らないぞ」匿名メールの情報開示認めず…最高裁が1・2審判断覆す」という記事が掲載されていました。

記事によると、「〈放火されて社員が殺されても知らないぞ〉2019年夏。東京都内の映像会社にこんな内容の匿名メールが繰り返し送りつけられた。36人が犠牲になった「京都アニメーション放火殺人事件」の直後だったこともあり、映像会社は責任を追及するため、送信者を特定することにした」「同社は、民事訴訟法の規定に着目。証拠の散逸などを防ぐために設けられた「証拠保全手続き」や、その証拠を提示させる規定を使い、ネット接続業者(プロバイダー)のNTTドコモを相手取り、送信者の氏名や住所などの開示を求める裁判を起こした」とのことです。

記事にも指摘がありますが、インターネット上での誹謗中傷の投稿者の発信者情報開示に用いられるプロバイダ責任制限法は、不特定多数に向けられた投稿のみを対象としており、メールやダイレクトメッセージといった「1対1」のメッセージは対象外とされています(この点日弁連からはプロバイダ責任制限法の改正にあたり「実効的な発信者情報開示請求のための法改正等を求める意見書」内において「1対1」のメッセージの送信者情報も開示の対象に含めるべきとの意見がでておりますが、改正法でもこの意見は入れられませんでした)。そこで被害に遭った映像会社は、訴えの提起前における証拠保全として,送信者の氏名・住所が記録された記録媒体等につき検証の申出をするとともにNTTドコモに対する検証物提示命令の申立てを行なったのです。

この点原決定(東京高裁)は、「本件メールが明白な脅迫的表現を含むものであること、本件メールの送信者情報は本件送信者に対して損害賠償責任を追及するために不可欠なものであること、本件記録媒体等の開示により本件送信者の受ける不利益や抗告人に与える影響等の諸事情を比較衡量すると、本件記録媒体等に記録され、又は記載された送信者情報は保護に値する秘密に当たらず、抗告人は、本件記録媒体等を検証の目的として提示する義務を負う」との判断を行い、申立てを認めました。

しかしながら、最高裁判所第1小法廷の決定(令和3年3月18日 令和2年(許)第10号)では、次のような理由付で原決定を破棄して申立を却下しました(なおこの決定は先日までは最高裁ホームページに掲載されていましたが現在は掲載されていないようです。裁判所時報1764号3頁には掲載はなされています。)

「(1) 民訴法197条1項2号は、医師、弁護士、宗教等の職(以下、同号に列挙されている職を「法定専門職」という。)にある者又は法定専門職にあった者(以下、併せて「法定専門職従事者等」という。)が職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて尋問を受ける場合には、証言を拒むことができると規定する。これは、法定専門職にある者が、その職務上、依頼者等の秘密を取り扱うものであり、その秘密を保護するために法定専門職従事者等に法令上の守秘義務が課されていることに鑑みて、法定専門職従事者等に証言拒絶権を与えたものと解される。
 電気通信事業法4条1項は、「電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。」と規定し、同条2項は、「電気通信事業に従事する者は、在職中電気通信事業者の取扱中に係る通信に関して知り得た他人の秘密を守らなければならない。その職を退いた後においても、同様とする。」と規定する。これらは、電気通信事業に従事する者が、その職務上、電気通信の利用者の通信に関する秘密を取り扱うものであり、その秘密を保護するために電気通信事業に従事する者及びその職を退いた者(以下、併せて「電気通信事業従事者等」という。)に守秘義務を課したものと解される。
 そうすると、電気通信事業従事者等が職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて尋問を受ける場合に証言を拒むことができるようにする必要があることは、法定専門職従事者等の場合と異なるものではない。
 したがって、電気通信事業従事者等は、民訴法197条1項2号の類推適用により、職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて証言を拒むことができると解するのが相当である。
 (2) 民訴法197条1項2号所定の「黙秘すべきもの」とは、一般に知られていない事実のうち、法定専門職従事者等に職務の遂行を依頼した者が、これを秘匿することについて、単に主観的利益だけではなく、客観的にみて保護に値するような利益を有するものをいうと解するのが相当である(最高裁平成16年(許)第14号同年11月26日第二小法廷決定・民集58巻8号2393頁参照)。
 電気通信事業法4条1項が通信の秘密を保護する趣旨は、通信が社会生活にとって必要不可欠な意思伝達手段であることから、通信の秘密を保護することによって、表現の自由の保障を実効的なものとするとともに、プライバシーを保護することにあるものと解される。電気通信の利用者は、電気通信事業においてこのような通信の秘密が保護されているという信頼の下に通信を行っており、この信頼は社会的に保護の必要性の高いものということができる。そして、送信者情報は、通信の内容そのものではないが、通信の秘密に含まれるものであるから、その開示によって電気通信の利用者の信頼を害するおそれが強いというべきである。そうである以上、電気通信の送信者は、当該通信の内容にかかわらず、送信者情報を秘匿することについて、単に主観的利益だけではなく、客観的にみて保護に値するような利益を有するものと解される。
 このことは、送信者情報について電気通信事業従事者等が証人として尋問を受ける場合と、送信者情報が記載され、又は記録された文書又は準文書について電気通信事業者に対する検証物提示命令の申立てがされる場合とで異なるものではないと解するのが相当である。
 以上によれば、電気通信事業者は、その管理する電気通信設備を用いて送信された通信の送信者情報で黙秘の義務が免除されていないものが記載され、又は記録された文書又は準文書について、当該通信の内容にかかわらず、検証の目的として提示する義務を負わないと解するのが相当である。」

上記の通り、最高裁の判断は、送信者本人が開示に同意するような場合を除けば一切送信者情報の開示を認めないというものです。この点、本件が現に京アニ事件を模倣した極めて悪質な内容の脅迫を受けている被害者による申立であることを考えると、利益考慮の点では原決定のように送信者情報については開示を認めるのが妥当ではないかと私は考えますが、そのような利益考慮を前提とした判断を最高裁は行ないませんでした。そして最高裁が現行法のもとでは開示を認められないと判示してしまった以上、今後民事手続において匿名者のメールやダイレクトメッセージの送信者情報の開示を求めることは不可能になりました。

勿論、刑事手続上では捜査機関がプロバイダに捜査関係事項照会を行なったり、裁判所の令状を取って捜索差押を行なう場合には、プロバイダがこれに応じて送信者情報の開示に応じることはあります。ただ捜査を行なうかどうかは捜査機関の判断に委ねられており、匿名者の脅迫や詐欺被害について捜査機関が捜査に着手しない場合には、被害救済の手段は一切閉ざされてしまうことになります。脅迫や詐欺の加害者が匿名であり、メールやダイレクトメッセージ、LINEしか手がかりがないような場合には事実上泣き寝入りすることになるおそれが高いです。

私は、脅迫や詐欺の被害者に迅速に民事的な被害回復を実現させるため、立法により送信者情報の開示を認めるべきであると考えます。立法に当たっては当然憲法上の権利である通信の秘密の保護をどのように図るかは慎重に検討されるべきですが、少なくとも犯罪被害回復の為に通信の内容そのものではない送信者情報については開示の手段を設けるべきでしょう。

 

投稿者: 弁護士大窪和久

2021.04.20更新

グーグルマップの口コミの投稿において名誉毀損がなされることは良くありますが、その場合でも、投稿者の発信者情報開示についてグーグル社が任意で応じることはなく、裁判手続でも積極的に争ってくるのが通常です。

発信者情報開示の訴訟について、ハードルになっているのは「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」(権利侵害の明白性)という要件です。この要件は、投稿によって請求者の名誉毀損がなされたことだけではなく、「違法性阻却事由の存在をうかがわせるような事情の存在しない」ことまで必要とされており、開示を求める側がそれを立証しなければなりません。この立証が出来ないことを理由として発信者情報開示を断念するというケースは多々あります。

ただ、この権利侵害の明白性について、開示請求側に不可能なことまで証明を求めるようなことになっては制度趣旨を没却することになるとして、一審の原判決内容を覆した東京高裁の判例が出ましたので、本ブログでも簡単に取り上げたいと思います。

事案としては、グーグルマップの口コミで、”営業の電話がしつこいです。特定商取引法の17条で勧誘を断った消費者への再勧誘は禁止されているのに何度も掛かってきます”などといった投稿をなされた会社が、グーグル社に対して発信者情報開示を求めたものです。投稿をなされた会社は、顧客と電話禁止対象者を一元管理しており、勧誘を断った人については電話禁止対象者に加える仕組みをとっているので、勧誘を断った消費者への再勧誘はありえないと主張しました。

この点について、東京地裁の原判決(令和元年(ワ)14308号)は、「原告が主張する仕組みがとられていたとしても,テレフォンアポインターから本社管理部門に正しく電話禁止対象者の報告がされていなかったり,記載漏れ等により契約者リストに電話禁止対象者が正しく記載されていなかったり,テレフォンアポインターが誤って自ら担当する電話帳から電話禁止対象者を正しく消していなかったりすることにより,本来電話勧誘を行うべきでない者に電話勧誘がおこなわれてしまうおそれがあることは否定し難い」として、人為ミスによる再勧誘の抽象的な可能性があることを理由として、権利侵害の明白性要件を否定し、開示を認めませんでした。ただ、人為ミスが全くないことまで立証することは困難を極めるものであり、この判決のロジックですと発信者情報の開示が認められることはほぼ無いと思われます。

これに対して、東京高裁の控訴審判決(令和2年(ネ)1959号)は、人為ミスによる再勧誘の可能性があること自体は認めましたが、「被害者である控訴人におよそ再度の電話勧誘をすることはなかったという不可能に近い立証まで強いることは相当でない。その意味で、プロバイダ法4条1項で定める「権利侵害が明らか」という要件について、権利侵害された被害者が発信者に対して損害賠償請求をする訴訟における違法性阻却事由の判断と完全に重なるものではないと解され、再勧誘の可能性が全くないことまで請求原因として立証することを要しないというべきである」として、原判決の判断を覆して権利侵害の明白性要件を肯定しました。

本事案については上告されており、最終的な判断はまだなされていないようですが、グーグルマップの口コミに関して発信者情報開示を事実上封じかねない一審の判決はバランスを欠くと思われますので、本高裁控訴審判決の様な判断が定着することを期待致します。

投稿者: 弁護士大窪和久

2021.03.19更新

 本月17日に、札幌地裁が同性婚の不受理を行なったことについては憲法に違反するという判断を示しました。本判決はBBCニュースでも報じられ、白石早樹子さんの解説において「今回の札幌地裁の判決ははっきりとした分岐点だ。賠償請求は退けられたが、違憲判決という大きな成果を勝ち取った実質勝訴だという声が次々に上がっている」と紹介されています。

 本裁判については、弁護団がCALL4(社会課題の解決を目指す訴訟“の支援に特化したウェブプラットフォーム)上で判決文、判決要旨だけではなく、主張書面や証拠なども公開しているため(公開箇所はこちら)、原告被告がどのような主張を行なっているのか明確になっています。原告準備書面では同性婚に関して緻密な書面が提出されており、弁護団が本判決を勝ち取るのにいかに汗を流してきたかが良くわかるものとなっています。

 判決では、 同性間の婚姻を認める規定を設けていない民法及び戸籍法の婚姻に関する諸規定について、法の下の平等を定める憲法14条1項に反するとの判断をしています。

 具体的には、「同性愛は精神疾患ではなく,自らの意思に基づいて選択、変更できないことは,現在は確立した知見になっている。圧倒的多数派である異性愛者の理解又は許容がなければ,同性愛者のカップルは,重要な法的利益である婚姻によって生じる法的効果を享受する利益の一部であってもこれを受け得ないとするのは,同性愛者の保護が,異性愛者と比してあまりにも欠けるといわざるを得ない」「我が国及び諸外国において,同性愛者と異性愛者との間の区別を解消すべきとする要請が高まっていることは考慮すべき事情である一方,同性婚に対する否定的意見や価値観を有する国民が少なからずいることは,同性愛者に対して,婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段を提供しないことを合理的とみるか否かの検討の場面においては,限定的に斟酌すべきものである」とした上で、同性愛者に対しては,婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段を提供しないとしていることは,立法府の裁量権の範囲を超えたものであるといわざるを得ず,本件区別取扱いは,その限度で合理的根拠を欠く差別取扱いに当たると解さざるを得ない」と判断しているのです。これまで日本の裁判所が同性婚を認めない民法等の規定を違憲であるとした判断はなく、まさに画期的な判断といえるでしょう。

 なお本判決は、同性婚を認めない民法等の規定は憲法24条には違反しないとしています。その理由については、現行民法への改正や憲法が制定された戦後初期の頃においても、同性愛は精神疾患であるとされており、同性婚は許されないものと解されていたこと、憲法 24条が「両性」など男女を想起させる文言を用いていることにも照らせば、同条は異性婚について定めたものであり、同性婚について定めるものではないというものです。ただここで本判決は、民法等で同性婚を認める規定をおくことについて「憲法24条に反する」という判断を行なっているわけではありません。ネット等では本判決が同性婚を憲法24条に違反するものと判示したというような言説がありますが、判決文にあたればそのような読み方は出来ないことは明白です。

 判決中にも言及されているとおり、日本では特に高齢者で同性婚について否定的な意見を持つ人が多く、(私も地方時代、そのような意見を聞くことが少なからずありました)、そのせいもあってか法制度の整備も遅々としているのが現状です。本判決を機に法制度整備をきちんと進める方向へ議論がなされることを期待します。

 

投稿者: 弁護士大窪和久

2020.11.18更新

先日、櫻井光政弁護士(私の所属する桜丘法律事務所所長)が原告として、東京地検特捜部が業務上横領容疑で捜査対象とした男性を任意で取り調べた際、検事から接見を妨害されたことについて国賠を求めた事件の判決がありました。判決では弁護権の違法な侵害を認め、10万円の慰謝料の支払を命じています。

事実関係については、現在進行中の事件に関することでもありますので、こちらの記事で書いてあるような原告本人が記者会見で述べた内容以上のことを現時点でここで開示する予定はありません(なお、櫻井、私を含む当事務所の弁護士が弁護団をつくっています)。

ただ、本件は、任意取調中の検察の接見妨害について接見妨害を認めた先例として価値がある判決だと考えています。曲がりなりにも特捜たる存在がこのような違法な接見妨害を行なってまで被疑者の調書を取っていることが、まさにこの国の人質司法の病理を体現しているものと言わざるを得ません。

(2020.11.19 追記)

事務所のブログで櫻井弁護士が記事を書いておりますのでご参照ください。

投稿者: 弁護士大窪和久

2020.10.20更新

典型的な弁護過誤の例として、民事訴訟における控訴期限の徒過があります。

民事訴訟において、第一審判決に不服があるときには控訴をすることが出来ますが、法律上期限が定められています。民事訴訟法285条では、「控訴は、判決書又は第254条第2項の調書の送達を受けた日から二週間の不変期間内に提起しなければならない」とされています。具体的には、控訴状は、判決正本を受領した日をいれないで、2週間の最終日までに提出する必要があります。これを徒過した場合には、控訴を行なうことが出来なくなります。なお、最終日が土日祝日や年末年始であればその翌日が最終日となりますが、最終日については書記官にあらかじめ確認しておくのが確実でしょう。

控訴状提出のミスでありがちなものは、控訴状の提出先が「判決をした第一審の裁判所」であるにも関わらず、控訴状を高裁に送ってしまうようなケースです。期限ギリギリで速達で郵送して安心したと思いきや、提出すべき期間を徒過してしまい取り返しのつかないことになるということもあります。単純なミスですが事務局に郵送を頼んでいたところそようなことになってしまった、というケースもあります。

弁護士が控訴期限を徒過した場合、弁護士としての基本的な業務を怠ったとして、懲戒請求されその結果懲戒例は多数有ります。

また、弁護士が控訴していれば勝訴していたとして訴訟での請求額相当の損害賠償を求めるということもあります。ただ、この場合請求額がそのまま損害になるかというとそういうわけでもなく、控訴審において勝訴の見込みがどの程度あったかが問題となります(過去の裁判例では、控訴したとしても勝訴の見込みがなかったとして弁護士に対する損害賠償を認めなかったものもあります(昭和60年1月23日横浜地判 判例時報1181号119頁等))。一方、訴訟まで行かずとも弁護士が加入している弁護士損害賠償保険により一定額の賠償がなされるというケースもあります。

本来有ってはならないことではありますが、万が一自分が依頼した弁護士が控訴期間徒過のような弁護過誤を行なった場合には、どのような対応が妥当かについて他の弁護士にセカンドオピニオンをとって判断するのも良いと思います。

 

投稿者: 弁護士大窪和久

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