弁護士大窪のコラム

2020.11.21更新

民事裁判のIT化がようやく日本でも始まりつつありますが、民事裁判のIT化を進める上で出された意見として、本人訴訟の場合どうするのかというものがあります。

この点、2020年11月20日付河北新報の記事では、このように書かれています。

「日本の民事裁判では、弁護士を付けず訴えを起こす「本人訴訟」が認められている。原告がアプリを使う際に手間取った時、誰がどうサポートするのか。代理人は技術的に精通する必要があろう。訴訟当事者が習熟度により不利益を被ることがないよう、弁護士会によるバックアップが欠かせない。」

この記事ではあたかも本人訴訟でも当然に何某かの代理人がつくかのような書きぶりをしておりますが、実際には本人訴訟を行なう場合に裁判所や第三者が代理人を付けてくれることはありません(たまに民事事件で国選弁護人のような制度は無いのかと聞かれることはありますが、そのようなものはありません)。ですので訴訟でのアプリ利用等についても、当事者本人がなさねばならないことになります。

また、記事では弁護士会によるバックアップが期待されています。この点日弁連では、昨年9月12日付で、「民事裁判手続のIT化における本人サポートに関する基本方針」というものを出しています。その中で本人訴訟支援について「裁判を受ける権利を実質的に保障して必要な法律サービスを提供することを可能とするため,IT面についても必要なサポートを提供する」と打ちだしています。もっとも、そればかりではなく、「民事裁判手続のIT化は,新たな司法システムの構築を目指すものであり,それに伴い裁判を受ける権利に支障が生じる場合は,国がその責任において支障を除去することは当然である」として、国に十全なサポート体制の構築や支援を求めてもいるのです。

上記日弁連の基本方針にもあるように、本来的には、本人訴訟については国がバックアップすべき問題です。隣国の韓国では、代理人弁護士においては電子訴訟を推奨する一方、当事者本人の場合は従前通りの紙による裁判の機会を与えており、記録の電子化等については裁判所が行なっています。また他国でも、記録の電子化については国が行なうということをしています。他方、日本の裁判所は、今までの議論の中では本人訴訟の支援について全く行なう姿勢を見せておらず、当事者本人の「自助」任せにするということのようです。マスメディアにおかれては、民事裁判のIT化による当事者の負担について、国あるいは裁判所がサボタージュしてなんら対応しようとしていない点についても着目していただきたいものです。

投稿者: 弁護士大窪和久

2020.10.29更新

cnet Japanで、「マイクロソフト「Teams」のデイリーアクティブユーザーが1億1500万人に」という記事が掲載されました。

同記事によれば、「Microsoft Teams」に関する最新の統計を発表した。最高経営責任者(CEO)のSatya Nadella氏によれば、Teamsの現在のデイリーアクティブユーザーは1億1500万人を超えているという」とのことです。今年3月の時点では4400万人ということだったので、この短期間で3倍近くにまでユーザーが増えたことになります。

コロナ渦で通常の会議からWEB会議に移行したのは日本だけではなく世界的な傾向ですが、このような増え方をみると、改めてコロナ渦が世界に及ぼした影響の大きさという物を感じずにはいられません。

先のブログにもあるとおり日本でも裁判所を含めTeamsがWEB会議用のツールとして広くビジネスで使われるようになりました。ZOOMのような手軽さはありませんが、その分セキュリティ面では優れているツールであり、今後も広く使われていくのではないかと思います。マイクロソフトはTeamsだけではなくOffice365といったサブスクリプションサービスでも売り上げを伸ばしており、コロナ渦は強い追い風になっています。

 

投稿者: 弁護士大窪和久

2020.10.26更新

民事裁判において、新型コロナウイルスでWEB会議の実施件数が東京地裁で9月は400件となり、導入当初の10倍に急増しているとの報道がありました。

同報道では、「東京地裁はウェブ会議が急増した背景に新型コロナウイルスの感染拡大による関係者の意識や行動の変化があるとみて、さらに活用を進めていく方針です。東京地方裁判所の後藤健民事部所長代行者は「新型コロナウイルスの影響で、結果として弁護士の意識が変わり使ってもらえるようになったのではないか。より迅速で適正な裁判ができるようになることを期待している」と話しています」と東京地裁の見解が掲載されています。

しかし、「弁護士の意識が変わり使えてもらえるようになったから」WEB会議の実施件数が増えたというのは、事実とは乖離している見解のように思われます。

そもそも、期日をWEB会議にするか否かについては裁判所の裁量によるものであり弁護士が決められるものでは本来ありません。また、東京地裁がWEB会議を導入し始めたのは今年の2月以降(しかも、全ての部で導入したわけではありません)であり、コロナウイルス感染拡大以前にWEB会議が実施されたことはありませんでした。感染拡大以前は、弁護士が希望しても一切WEB会議は実施されなかったのです。

また、東京地裁は緊急事態宣言中は一部の期日(身柄の刑事事件、民事保全等)を除いては全ての期日を行なわず、WEB会議で期日を進めるということも行ないませんでした。さらに、緊急事態宣言が開けてからも今日に至るまで法廷を隔週開廷にしており期日がなかなか入らない状態が継続していますが、法廷での期日が入らない週に代替としてWEB会議を実施するということも行なっていません。

むしろWEB会議については東京地裁ではなく大阪地裁など他の裁判所での実施の方が先行しており、東京地裁は他の裁判所に比べても後れを取っております。WEB会議による進行を訴訟当事者から求められても、機材が期日に準備できない等の理由で実施が出来ないということもあります。

9月の400件という数字自体、東京地裁で行なわれている期日のほんの一部に過ぎません。東京地裁の消極的な運用方針により、新型コロナウイルス感染拡大の影響があってもなお「これしかWEB会議が行なわれていない」というのが現状認識として正しいように思われます。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、東京地裁の裁判が大幅に遅延しているのは事実です。東京地裁におかれては、是非とも「より迅速で適正な裁判ができるよう」に従前の姿勢を改め積極的にWEB会議を実施して頂きたいと思います。

投稿者: 弁護士大窪和久

2020.10.22更新

他の裁判所では既に運用が行なわれていますが、東京地裁でも他の裁判所に遅れて、teamsによる訴訟手続を進めるようになってきました。

裁判官によれば、もともと進める予定ではあったが、新型コロナウイルス感染拡大が今も続いている状況に鑑み、前倒しで積極的に取り扱いを行なうようになったということのようです。接続テストを行ない、問題が無いことを確認した上で期日を行なうという流れです(これは他の裁判所も同じ)。

もっとも、弁護士によってはまだteamsは未経験であり、従前の電話会議や弁論準備の方が良いという意見を出す方もおられました。

確かにteamsは他のテレビ会議システム(ZOOMなど)と比べても初見ですと取っつきにくい面があるのは事実ですが、せっかく裁判所がITを使うようになってきたということに加え、新型コロナウイルス感染拡大防止のためには少しでも接触の機会を減らすことが重要ですので、弁護士側でも積極的にteamsを利用していくことが望ましいと思います。またteamsは単に電話会議のかわりになるだけではなく、書面共有など紙に頼らない手続進行もやろうと思えばできるシステムですので、弁護士側も活用方法について裁判所に提案していくのが良いのではないかとも考えます。

 

投稿者: 弁護士大窪和久

2020.10.16更新

刑事裁判の場合、弁護人は検察が裁判所に提出予定の証拠について確認する必要があります。ただ、検察が弁護人に証拠のコピーを送ってくれるわけではありません(民事訴訟の場合、相手方に対し証拠の写しを送る必要がありますが、刑事裁判の場合そのようにルール設計がされているわけではありません)。弁護人が検察庁に直接いって証拠を謄写するのが原則となります。

もっとも、東京地検の場合、謄写センターで有料にてコピーをとってもらうことが可能です。また弁護士会の協同組合で謄写を受け付けてくれることもあります。ただ費用としては一枚数十円かかりますし、地方によってはそれ以上の負担が生じることもあります。

そのような費用的な問題で、私がかつて紋別の公設事務所にいた頃は、たまに実費を支払うので謄写をかわりにしてもらいたいという話を遠隔地の弁護士から求められたことはありました。断ると「弁護士会の金で事務所をおいているのにできないのはどういうことか」と憤られる方もいないわけではありませんでした。

記録謄写を公設事務所の弁護士に求めないようにという申し出等を弁護士会の方でしていただいたこともあり、次第にそのようなこともなくなりましたが、遠隔地の記録謄写が刑事弁護を行なう上でネックになっている現実そのものは今も変わっておりません。

この記録謄写に関しては、そもそも電子データによる謄写物の交付がなされれれば上記のような問題は一気に解決してしまうはずです。しかしながら、検察側はそのようなことは一切考えておりません。また東京地検謄写センターもまたそのようなことは行なわない旨明言しています(リンク先の高野先生のブログ参照)。民事裁判についてはIT化が進む中、刑事裁判だけが旧態依然とした紙中心の裁判から変化しようとしません。これは法改正により是正しなければいけない問題だと思います。

投稿者: 弁護士大窪和久

2020.10.03更新

裁判官が民事事件に関する文書やUSBメモリーを紛失するという事件が報道されていました。

NHKの報道によれば、「高松地方裁判所によりますと刑事部に所属する男性の裁判官が先月26日午前2時ごろに飲酒を伴う会食をしたあと、帰宅途中にリュックサックを紛失した」「リュックサックにはこの裁判官が担当する予定の民事裁判の原告側や被告側が作った書面の写しや、この裁判を含む複数の裁判についての情報が記録されたUSBメモリが入っている」とのことです。

裁判所は、裁判官が裁判に関する文書やデータを自宅に持ち帰る際は飲酒はせず、娯楽施設などに立ち寄らないよう指導していたにも関わらず、この指導を守らなかった裁判官に落ち度があるとしているようです。ただ、そもそも機密情報であるデータをUSBという紛失しやすい媒体で持ち帰ったり、裁判に関する文書を自宅に持ち帰ったりするという運用そのものがあり得ないことではないでしょうか。

しかも、裁判官が裁判に関する文書やUSBを紛失することはこれまでにもあったことです。裁判所の外部に持ち出す以上常に紛失する可能性は付いて回るものなので、再発を防ぐためには持ち出し自体を禁止すべきでした。民間企業では通常のルールとして運用されているものですが、裁判所は事件情報という当事者にとって非常にセンシティブなものについて杜撰な取り扱いを行ない続けていることになり、大変な問題といって良いでしょう。

コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言より後も、裁判所は隔週開廷となったり、裁判官も含めた職員が交代で休みを取るなどしてソーシャルディスタンスを図っています。このことにより事件滞留も指摘されているところです。裁判官も事件滞留を防ぐためには自宅での起案をせざるを得ないという事情もあったのかも知れません。しかし裁判官の自宅起案を認めるのであれば、そもそも事件情報を持ち出さなくても参照できるシステム(VPNの導入、クラウドストレージの利用等)を進めておくべきでした。もちろんVPNやクラウドストレージからの情報流出の危険は皆無ではありませんが、USBを持ち歩くことよりは危険度は遙かに低いものです。かりにこうしたシステムをどうしても導入できないのであれば、ソーシャルディスタンスを保って業務や起案のできる事務所等を臨時に借り上げるべきでしょう。

裁判所が今回紛失した裁判官を非難することに終始し、運用の問題点を抜本的に改善するのでなければ、今回のような事態が再発することは必須です。

投稿者: 弁護士大窪和久

2020.09.30更新

サービス開始当初から、LEGAL LIBRARYを利用しています。

一言で言うと法律専門書の電子書籍をサブスクリプションで利用できるというものですが、今となっては業務に欠かせない戦力になっています。私が感じる利点は次の3つです。

1 場所を取らない

法律事務所での悩みの一つは書籍が大きなスペースを取ってしまうという点です。特に東京では地価も高く、書籍を置くことへのコストが高いのがネックになっています。

しかしながら、本サービスでは電子書籍故スペースの問題は全くありません。PCだけがあれば膨大な書籍の情報にアクセスできます。個人的にはここに掲載されている書籍(注釈民法等)は手放してしまっても良いかと考えています。

2 検索機能が充実している

紙の書籍では検索は当然できませんが、電子書籍ならそれが可能です。例えば起案で必要になる事項が出てきた場合、それを横断的に検索することにより、スピーディーに調べることができます。

LEGAL LIBRARYでは、キーワードだけでなく、タイトル、著者出典等の詳細検索をすることができ、目的の情報にたどり着くのは楽です。

3 書式が使える

LEGAL LIBRARYでは最近電子書籍に掲載されている書式をデータでダウンロードすることができるようになりました。これにより書式の活用がしやすくなったのは大きな利点であり、紙の書籍よりも優位です。

このような法律専門書の電子書籍サブスクリプションサービスについては、他国では普通に使われているものではありますが、日本でも同種のサービスが使えるようになったのは本当に素晴らしいです。個人的には、スマートフォンでのアプリに対応するであるとか、より書籍の量を増やす(特に刑事実務については充実して欲しい)であるとかの要望がありますが、現状でも便利ですので引き続き使っていこうと思います。

投稿者: 弁護士大窪和久

2020.09.28更新

日経新聞で、「刑事裁判、IT化に遅れ 遠隔制度の活用は限定的」という記事が掲載されています。

同記事によれば、

「新型コロナウイルスの影響の下、日本の刑事裁判でIT活用の遅れが目立っている。海外ではオンライン化で感染を防ぎつつ審理の停滞を防ぐ工夫が進む」とありますが、日本では刑事裁判においてITはほぼ活用されていないといって良いでしょう。

民事裁判においては、内閣官房がIT化推進の方針を立てたことにより、少しずつではありますがIT化が進みつつありますが、刑事裁判は取り残されたままです。

また、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言が終わったあとも、刑事裁判所の法廷は隔週開廷で三密を避ける方針をとっておりますし、検察についても隔週出勤等により捜査公判共に停滞しているというのが現状です。それにも関わらず、手つかずのIT化にも全く手を付けようとはしていません。このような刑事裁判の停滞により、裁判が長期化しており特に身柄事件については被告人が未決のまま長期間の勾留を強いられるなど、従前の人質司法の弊害が更に際立つ形となっております。

このまま他国に比べて貧弱な刑事裁判を続けるのは明らかに誰の得にもなっていないので、コロナ渦での他国の実践を少しでも学んでいくべきとは思いますが、裁判所や法務省のこれまでの動きを見る限り悲観的にならざるを得ません。

投稿者: 弁護士大窪和久

2018.11.09更新

 現在、裁判手続のIT化が現実化しようとしています。

 2017年6月9日に閣議決定された「未来投資戦略2017」のなかで、「迅速かつ効率的な裁判の実現を図るため、諸外国の状況も踏まえ、裁判における手続保障や情報セキュリティ面を含む総合的な観点から、関係機関等の協力を得て利用者目線で裁判に係る手続等のIT化を推進する方策について速やかに検討し、本年度中に結論を得る。」とされたことをうけて、2017年10月から8回にわたり裁判手続等のIT化検討会が開かれました。議論の内容等については公開されています。

 同検討会の議論を経て、2018年3月30日に「裁判手続等のIT化に向けた取りまとめ」がなされました。同とりまとめでは、「3つのe」、すなわちe提出(オンラインによる提出)、e法廷(テレビ会議やウェブ会議の活用の大幅拡大)、e事件管理(電子情報での事件管理及び情報へのオンラインのアクセスを実現)を実現し、民事訴訟手続の全面的なIT化を目指すとしています。この取りまとめを受けて、日本弁護士連合会も「裁判手続等のIT化の取組を迅速かつ積極的に行っていく」として、単位会からの意見を取りまとめたうえ最高裁や法務省と協議を進めているところです。

 一方、札幌弁護士会は先日裁判手続等のIT化について、司法過疎地の切り捨てのおそれがあること等から、拙速な検討を行うべきではないとの会としての意見書をだしました。またこの意見書の中では、「現在の技術水準の程度のテレビ会議・ウェブ会議のシステムを前提にする限り、裁判官と当事者・代理人が、直接会うことと同じレベルで接して感得することは到底期待し難い。あたかも現実に会って訴訟活動を遂行しているのと同様の効果が期待できるVR等の技術を活用するならばともかく、現状の技術水準でe法廷を推進することは、裁判の本質を不当に変質・劣化させかねず、妥当ではない」とも書かれており、事実上e法廷の導入を否定する見解を表明しています。

 私はこれを読んで非常に驚きました。なぜなら、裁判手続等のIT化、特にe法廷の恩恵を一番受けるのは、まさに北海道の司法過疎地の住人であると思うからです。私は北海道の司法過疎地である旭川地方裁判所紋別支部管内で3年間、同裁判所名寄支部管内で5年間仕事をさせていただいておりましたが、支部管内住民にとって「裁判所が遠い」ということが司法アクセスへの大きな壁になっていることをこの目でみてきました。

 たとえば紋別の住人が札幌地方裁判所で裁判を起こされた場合、裁判所まで片道4~5時間かけていく必要がでてきます。道外で訴訟を起こされた場合更に時間と費用を要します。逆に訴訟を起こしたくても、裁判管轄が地元の裁判所でなければ、訴訟を起こすこと自体躊躇せざるを得ないのが現状です。更に紋別や名寄という支部では裁判官が一人だけで合議が組めない事などの事情から扱える事件が限られているという問題もあります。

 更に問題なのが独立簡裁です。旭川本庁から180キロ離れており、どの旭川の地裁支部(稚内・名寄・紋別)からも100キロ以上離れている中頓別簡易裁判所という独立簡裁があります。旭川から中頓別まで繋ぐ鉄道は廃止されており、移動手段は自動車しかありません。冬場になると地吹雪の中峠を越えなければならず、自家用車による移動すらままならないことも珍しくはありません。そして、この独立簡裁は、少し前までは電話会議システムすらなく、裁判所を利用しようとする当事者は裁判所への出頭を余儀なくされていました。

 こうした場所的遠隔を乗り越えるための手段として、数多くの国で裁判手続でテレビ会議・ウェブ会議を活用しています。私は北海道にいる間、隣国ロシア(サハリン及びウラジオストク)に北海道弁護士会連合会の北方圏交流委員会のメンバーとして何回か訪れ、ロシアの裁判所や検察庁、法律事務所等を見学する機会をいただきました。そして訪問するたびに、裁判手続のIT化が進んでいっており、日本がこれから実現しようとする「3つのe」については既に実現しています。テレビ会議システムも各法廷に備わっており、例えばウラジオストクにある高等裁判所の事件についてサハリンの地方裁判所とつなぎ、当事者はサハリンの地方裁判所にいながら高裁の弁論を行うことが可能です。

 私はこうしたシステムがあれば、場所的遠隔のため司法サービスを受けられない人、特に司法過疎地の人が救われると思いましたし、このようなシステムが一日も早く日本で導入されるべきだと考えています。そのため北海道の司法過疎地での上記問題およびこれを乗り越える手段となりうる隣国ロシアでの取り組みについて、各所で伝えてきました。5年前には日本裁判官ネットワークのシンポジウム「地域司法とIT裁判所」に参加して発表させていただく機会もありました。なおこのシンポジウムの内容は判例時報2212、2213号に掲載されていますので興味のある方は是非ご一読ください。

 こうした司法過疎地での問題を抱え、かつ北方圏交流委員会の活動を通して隣国ロシアの司法状況についても日本で一番情報を有しているはずの北海道の弁護士が事実上e法廷の導入を拒否するというのは正直理解に苦しむというよりありません(なお札幌は地裁本庁のある札幌市には弁護士が集中していますが、公設事務所も設置されている司法過疎地が地裁管内にあり、司法過疎地の問題は他人事、というわけでは当然ありません)。

 札幌弁護士会の意見書で裁判手続のIT化が司法過疎を促進するという理由は二つあげられています。一つ目の理由として、IT化されれば裁判所の機能が大規模庁に集約されてしまうおそれがあることをあげています。この点、北海道ではこれまで裁判所の機能が集約されてきたのは事実であり、例えば地裁支部では執行事件の取り扱いをやめるようになりました。この時に裁判所側は、執行事件は郵送で対応できるので集約しても弊害はないということを言ってましたので、IT化を理由として同じようなことを言われることを危惧しているのかもしれません。しかし裁判所機能集約とIT化は別の問題です。例えば執行事件が集約されるおそれがあるからといって、執行に関する書類の郵送での受理を取りやめるということにはならないでしょう。

 札幌弁護士会の意見書では、「訴訟当事者・代理人も出頭を要しない手続が拡充されると、弁護士の東京への一極集中化をもたらしかねず、司法過疎地がますます広範囲になる」ということも理由としてあげています。しかしながら、e法廷はあくまでも裁判手続内の問題であり、利用者がどこの弁護士を選任するかという問題とは直接関連しません。むしろe法廷が実現すれば道内(とりわけ司法過疎地)の弁護士にとっても遠隔地の事件を受任しやすくなり、その結果地元の方にとってもメリットがあるのではないでしょうか。

 私が危惧するのは、司法過疎地の現場を抱える北海道の弁護士が裁判手続のIT化、とりわけe法廷の導入に消極あるいは反対意見を出すことにより、司法過疎地の裁判所にはe法廷が導入されないという事態が生じないだろうかという点です。現に裁判所は中頓別簡易裁判所のように電話会議システムを長きにわたり簡裁に設置しなかったり、現行法上も設置することが認められているテレビ電話会議システムを地裁支部に設置しないということを行ってきました。これと同じことが裁判手続等のIT化でもまた繰り返され、「裁判手続のIT化から司法過疎地が切り捨てられる」ことのないよう願うばかりです。

投稿者: 弁護士大窪和久

2016.02.16更新

 2013年2月に書いた司法のIT化に関する記事です。発表自体は他の方の発表と合わせて判例時報のバックナンバーに載せてもらいましたので興味のある方はそちらを。

 日本の司法のIT化は3年前と比べて何も進歩してきませんでした。私はサハリンには過去4回ほど訪問しており、行くたびに街並みも発展していましたが、裁判所の設備も充実していきました。北海道の街並みと裁判所のそれと比べると、非常に複雑です。

(以下事務所ブログ転載)

 2013年2月9日に行われた日本裁判官ネットワークが主催するシンポジウム「地域司法とIT裁判所」の中で、私はサハリンの司法のIT化について発表させていただきました。

 北海道弁護士会連合会は20年前よりサハリン州弁護士会の弁護士と交流があり、2年に1回は北海道の弁護士がサハリン州を訪問しています。私も過去3回訪問させていただいておりますが、3回目の訪問時(2011年)でサハリンの裁判所の訪問を行った際、IT化の面では日本が大きく遅れをとっていると感じざるを得ませんでした。私がサハリンの方が進んでいると思った点は次の通りです。

1 情報キオスク

 サハリンの裁判所では、裁判所のロビーや法廷の外にタッチパネル式の掲示板(情報キオスク)が設置されており、事件毎に法廷の場所・当事者・代理人名が表示されますので、それでどの法廷でどのような事件の裁判がなされているか検索することが可能です。また、2010年より、係属中の事件につき全てインターネットで検索可能ともなっています。日本では、裁判所内では法廷の外に張り紙を貼ったり、受付で事件の案内等を行うにとどまり、ITの利用はなされていません。

2 テレビ電話会議システム

 サハリンの裁判所では、法廷内に他の裁判所内の法廷を映し出すモニターが設置されており、「同時裁判」が可能となっています。同時裁判とは、たとえば本来ハバロフスクの高等裁判所で行うべき裁判をサハリンの地方裁判所で別の裁判官が同時に法廷にでること及び当事者がサハリンの法廷にいる形で行うことを条件にしてできる、というものです。遠方の裁判所にはいけないという場合でも近くの裁判所にいく形で裁判を行うことができます。日本では、テレビ電話会議システムは一部裁判所(本庁及び規模の大きい支部)におかれているにとどまり、利用できるのも民事訴訟の証人尋問等限られた場合でしかありません。

3 全判決のインターネット公開

 サハリンの裁判所では、2008年以降言い渡しのあった判決については全てインターネットで公開が義務づけられております。事件の内容・裁判官名で判例検索可能です(ただし利用にあたっては登録が必要となります)。日本では、最高裁のサイト等で限定的にインターネットで公開されているにすぎず、裁判官ですら公刊物に掲載されている判例や訴訟当事者から提出のあった裁判例以外の判決の内容を知ることは困難なのが現状です。

4 主張書面等の電子メールによる提出

 サハリンの裁判所では、訴状・主張書面等について電子メールで提出可能となっています。日本では、書面提出に電子メールを使うことは認められておらず、持参、郵送あるいはファックスの利用による提出を行うことしかできません。

 なおサハリンでは弁護士の側もITを活用しており、裁判所に書面を電子メールで提出するのはもちろんのこと、判例や法律については書籍ではなくインターネット上のデータベースで検索を行って調べていました(法律が改正が多く、書籍では追いつかないためデータベースを利用しているとのことでした)。どの事務所もペーパーレスが徹底されており、紙の事件記録や書籍に囲まれた日本の法律事務所とはかなりの違いがあります。

 サハリンの司法がここまでIT化が進んだのはここ数年のことのようですが、IT化の結果司法の使い勝手は非常に向上していました。日本もIT化を進めない理由は無いと思いますので、司法の使い勝手を良くするため他国に学ぶべきだと思います。特にテレビ電話会議システムを充実させることにより、遠隔地故裁判所を利用できないという地方の悩みは大きく軽減されるはずです。

投稿者: 弁護士大窪和久

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