2023年5月10日に、保釈制度に関連し、刑事訴訟法等の一部を改正する法律が成立しました。本法律では、保釈により釈放された被告人が公判廷へ出頭させることを確保することが目的となっており、以下のような内容が定められています。これら改正により、今後の保釈に関しては監督者の定めが必要となることは多くなると思われます。出頭確保の法整備がなされたからといって保釈が認められやすくなるかどうかについては今後の裁判所の運用を見なければわかりませんが、弁護人の活動としては出頭確保がなされていることから保釈が認められるべきであるとして積極的に保釈請求等を行なうことになっていくでしょう。
1 保釈をされた被告人の公判期日への出頭等を確保するための罰則の新設
保釈等をされた被告人の公判期日への不出頭罪(刑訴法第二百七十八条の二)、保釈等をされた被告人の制限住居離脱罪(刑訴法第九十五条の三)、保釈等の取消し・失効後の被告人の出頭命令違反の罪(刑訴法第九十八条の二、第九十八条の三、第三百四十三条の二、第三百四十三条の三)が新設されました。法定刑はいずれも2年以下の拘禁刑とされています。
2 保釈をされている被告人に対する報告命令制度の創設
裁判所は、被告人の逃亡を防止し、又は公判期日への出頭を確保するため必要があると認めるときは、保釈を許す決定を受けた被告人に対し、「その住居、労働又は通学の状況、身分関係その他のその変更が被告人が逃亡すると疑うに足りる相当な理由の有無の判断に影響を及ぼす生活上又は身分上の事項として裁判所の定めるものについて報告をすることを命ずることができるもの」とされました。そして、報告を命ぜられた被告人が、正当な理由がなく報告をせず、又は虚偽の報告をした場合には、保釈の取消し及び保証金の没取が可能となります(刑訴法第九十五条の四、第九十六条第一項等)。
3 保釈をされている被告人の監督者制度の創設
裁判所は、保釈を許可する場合に、必要と認めるときは、適当と認める者を、その同意を得て監督者として選任することができることとなりました。そして、裁判所は監督者に対して被告人と共に出頭することや、被告人に関する報告を命じることができます。また、監督者が選任される場合に定める監督保証金について、監督者が裁判所の命令に違反した場合監督保証金の没取及び保釈等の取消し等がなされることになります(刑訴法第九十八条の四、第九十八条の八、第九十八条の九等)。
4 拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告後における裁量保釈の要件の明確化
拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告があった後は、裁量保釈の為には、刑訴法90条に規定する不利益その他の不利益の程度が著しく高い場合でなければならないものと明文化されました。ただし、保釈された場合に被告人が逃亡するおそれの程度が高くないと認めるに足りる相当な理由があるときは、この限りでないものとされています(刑訴法第三百四十四条第二項)。
5 控訴審における判決宣告期日への被告人の出頭の義務付け等
控訴裁判所は、拘禁刑以上の刑に当たる罪で起訴されている被告人であって、保釈等をされているものについては、判決を宣告する公判期日への出頭を命じなければならないものとしました。ただし、重い疾病又は傷害その他やむを得ない事由により被告人が当該公判期日に出頭することが困難であると認めるときは、この限りでないものとされています。(刑訴法第三百九十条の二)なお、控訴裁判所は、上記被告人が判決を宣告する公判期日に出頭しないとき等においては、無罪等の言渡しをした原判決に対する控訴を棄却する判決等以外の判決を宣告することができないものとされました。ただし、 ただし書に規定する場合であって刑の執行のためその者を収容するのに困難を生ずるおそれがないと認めるとき等においては、この限りでないものとされています(刑訴法第四百二条の二)。
6 位置測定端末により保釈されている被告人の位置情報を取得する制度の創設
裁判所は、保釈を許可する場合、被告人が国外に逃亡することを防止するため、位置測定端末(GPS)をその身体に装着することを命ずる(位置測定端末装着命令)ことができることができるようになりました(刑訴法第九十八条の十二第一項)。位置測定端末装着命令が発令される場合、飛行場又は港湾施設の周辺の区域その他の位置測定端末装着命令を受けた者が本邦から出国する際に立ち入ることとなる区域であって、当該者が所在してはならない区域(所在禁止区域)を定めるものとされています(刑訴法第九十八条の十二第二項)。