弁護士大窪のコラム

2021.10.07更新

ヤフーニュースで「法廷で弁護人のPC用電源は使用禁止?!裁判所の仰天判断をどう見るべきか」との記事が掲載されていました。

記事によれば、横浜地裁で行なわれていた公判前整理手続が始まる直前、景山太郎裁判長が公判前整理手続で弁護人がPCを使うのに法廷内での電源を使用しない様に命じたとのことです。これに対して弁護人が異議を申し立てたものの、景山太郎裁判長が異議を棄却した為、弁護人が東京高裁に異議申立をおこなったというものです。

本事件の弁護人である高野隆弁護士のブログではこの裁判長の判断に関する経過が報告されております。同ブログの中では景山太郎裁判長の意見書も掲載されていました。意見書によれば、景山太郎裁判長としては「弁護人らが自前の電源(パソコンの内蔵電池等)を使ってパソコンを使用することは何ら妨げられておらず自由にできるのであって(公判前整理手続期日程度の時間であれば、法廷電源の使用は不要であろう。)、弁護人らの上記主張に論理の飛躍があることは明らかである(もとより検察官も法廷でパソコンを使用することがあるが、当然のことながら、後述のような場合以外に法廷電源を使ってそのパソコンに充電するなどということは一切していないであろう。弁護人らの理屈によれば、訴訟手続において防御活動のために必要なものは全て国費で賄う、あるいは裁判所が法廷に用意する必要があることになりかねない」とのご見解のようです。

しかしながら、本事件は否認事件であり証拠も膨大であるものと思われ、既に4回目の公判前整理手続に入っていた事件です。そのような事件において、公判前整理手続で証拠をPCで検索した上で意見を述べたり、双方の書面の内容を確認することは重要なプロセスであると思われます。また弁護人が他の期日でもPCを利用している場合等、内蔵充電だけでPCが起動できないような場面も十分考えられますので、公判前整理手続においてあえて法廷内での電源を使用させないというのは大変不合理な判断であると私は考えます。「弁護人らの理屈によれば、訴訟手続において防御活動のために必要なものは全て国費で賄う、あるいは裁判所が法廷に用意する必要があることになりかねない」として電源利用を排した景山太郎裁判長の議論は極論に走ったものであり、国民の理解は得られないのではないのでしょうか。

投稿者: 弁護士大窪和久

2021.09.29更新

事務所のホームページでもご案内しておりますが、2021年10月11日に事務所説明会をZOOMをつかって行ないます。櫻井所長及び神山弁護士からお話をさせて頂きます。

事前申込制ですので、詳しくはこちらをご確認ください。

投稿者: 弁護士大窪和久

2021.09.24更新

朝日新聞で、「破産者マップ」で氏名や住所公開したことについて、2人がサイト運営者を提訴したとの報道がありました。その他メディアでも広く報道されています。

報道によれば、「破産者の情報を地図上に示した無料ウェブサイト「破産者マップ」でプライバシーと名誉を侵害されたとして、氏名や住所を掲載された2人がサイト運営者に計22万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。「ネットの地図上で可視化するのは公益性がまったくない」と訴えている」とのことです。

サイト自体は個人情報保護委員会の行政指導により2019年3月に閉鎖されておりますが、それから約2年半経過してからの提訴となりました。各種報道によれば相手方本人の特定や送達に相当の時間を要したとのことですが、本件ではサイト運営者の身元が不明であり、特定に相当のコストがかかったことは容易に想像ができます。

サイト運営者側は争っており、いずれ地裁判決で判断がなされるものと思われます。訴訟については経過等わかればおってこちらでも取り上げたいと思います。

 

 

投稿者: 弁護士大窪和久

2021.09.15更新

毎日新聞で、「ネット上の中傷対策、侮辱罪に懲役刑導入 法制審総会で諮問へ」との記事が掲載されています。

同記事によれば、「インターネット上の誹謗(ひぼう)中傷対策として、上川陽子法相は14日、刑法の侮辱罪を厳罰化する法改正を16日の法制審議会(法相の諮問機関)総会に諮問すると発表した。侮辱罪の罰則は刑法で最も軽い「拘留(30日未満)または科料(1万円未満)」と規定されているが、新たに懲役や禁錮刑を導入する」とのことです。

侮辱罪の厳罰化があっても、匿名者の投稿について捜査機関が特定に及び腰であることから厳罰化自体にはあまり意味が無いのは既にブログに書かせて頂いたとおりです。ただ、この記事にも指摘がある公訴時効の長期化(1年から3年)という点については、侮辱罪の立件に繋がりやすくなる可能性はあります。

現在、匿名者の投稿について捜査機関が自ら特定を行なうことは消極的ですので、被害者側が自ら民事上の手続(プロ責法による発信者情報開示)を行なわなければならないことが通例です。ただこの手続にも半年~1年程度の時間がかかってしまい、現行法の侮辱罪ですと発信者情報開示の手続の間に公訴時効期間が経過してしまうという難点があります。この点のみを見てみれば改正の意味はあるかも知れません。

投稿者: 弁護士大窪和久

2021.08.13更新

私が2005年4月~2008年4月の任期で赴任していた紋別ひまわり基金法律事務所(日弁連が設立した司法過疎対策を目的とした公設事務所)で、今月新所長として宮下尚也弁護士が赴任されました。

これまで紋別ひまわり基金法律事務所は7代にわたり所長が交代しており(日弁連の事務所紹介参照)、今回で8代目となります。一時期ではありますが事務所に携わったものとして、2001年から現在に至るまでの長期間にわたり事務所が続いていることについて感慨深いものがあります。

5代目までの弁護士はいずれも(私を含め)第二東京弁護士会所属の弁護士が赴任していましたが、6代目からは道弁連が設立した都市型公設事務所すずらん基金法律事務所出身の弁護士が赴任しております。紋別ひまわり基金法律事務所が所長を交代しながらも取り組みを継続しているのは、赴任している弁護士があってこそですが、その弁護士を養成した事務所の役割も極めて大きいものがあります。都市型公設事務所については各弁護士会内で存続の要否について議論がなされているところではありますが、司法過疎地へ人を送るという重要な役割を今もなお担っていることを踏まえて議論していただければと思います。

 

 

投稿者: 弁護士大窪和久

2021.08.11更新

8月10日にABEMA Prime「なりすましのせいで実害も?被害当事者に聞く 顔も売る時代に...被害は防げない? 」に出演しました。 https://gxyt4.app.goo.gl/jNBZw

時間の関係上番組中話せなかったこともありますので、おってブログの方にも書こうかと思います。

 

投稿者: 弁護士大窪和久

2021.07.02更新

共同通信で、「米、日本の技能実習を問題視 国務省が人身売買報告書」とのニュースが報じられていました。

同ニュース記事によれば、「米国務省は1日、世界各国の人身売買に関する2021年版の報告書を発表した。日本については国内外の業者が外国人技能実習制度を「外国人労働者搾取のために悪用し続けている」として問題視」「日本の外国人技能実習制度では政府当局の監視強化などが必要だと明記」とのことです。

外国人技能実習制度については、技能実習とは建前で、実態としては安い労働力確保の手段として都会・地方問わず広く使われているものとして国内外でも問題視されて久しいです。米国も2010年以来毎年年次報告書でこの制度を批判しており、今回が初めてではありません。そうした批判にも関わらず我が国は外国人技能実習制度を継続しています。

この外国人技能実習制度の犠牲になった方の一人について、先日当事務所の新人が事件として受任しており、雇用先が不払にしていた給料を先取特権を行使し差押を行ないました(詳細は事務所ブログのこちらの記事参照)。これは氷山の一角にすぎず、同制度が続く限りは同じように犠牲になる人が増え続けていくことになるでしょう。

投稿者: 弁護士大窪和久

2021.06.23更新

本日(2021年6月23日)、最高裁大法廷で夫婦別姓を認めない民法と戸籍法の規定について、合憲とする判断が下されました(令和2(ク)102号事件)。

同規定に関する最高裁の判断は2回目で、前回(2015年)の判断は合憲でしたが、今回改めて判断がなされるということで違憲判断に判例変更するのではないかとも予測されていましたが、従前の判断を維持した形です。

最高裁は、前回の判決以降に見られる諸事情(女性の有業率の上昇,管理職に占める女性の割合の増加その他の社会の変化や,いわゆる選択的夫婦別氏制の導入に賛成する者の割合の増加その他の国民の意識の変化)を踏まえても判断を変更する必要は無いと判断しました。憲法24条に反するとした反対意見を出した裁判官は3名あったものの、最高裁全体のスタンスは前回と変わりなく、立法で解決するべきというスタンスを取っています。

この点、夫婦別姓については1996年には法制審議会で夫婦別姓を認める方向での法律案の要綱が最終答申されていますが、議会多数を占める自民党の党内の反対もあって現時点に至るまで法改正には至っておりません。衆議院議員総選挙の結果にもよりますが、今後も立法による解決がなされる見通しは立っておらず、最高裁が判断を変更するまで本規定の改正はなされないのではないかと思われます。

投稿者: 弁護士大窪和久

2021.06.06更新

読売新聞で「「社員が殺されても知らないぞ」匿名メールの情報開示認めず…最高裁が1・2審判断覆す」という記事が掲載されていました。

記事によると、「〈放火されて社員が殺されても知らないぞ〉2019年夏。東京都内の映像会社にこんな内容の匿名メールが繰り返し送りつけられた。36人が犠牲になった「京都アニメーション放火殺人事件」の直後だったこともあり、映像会社は責任を追及するため、送信者を特定することにした」「同社は、民事訴訟法の規定に着目。証拠の散逸などを防ぐために設けられた「証拠保全手続き」や、その証拠を提示させる規定を使い、ネット接続業者(プロバイダー)のNTTドコモを相手取り、送信者の氏名や住所などの開示を求める裁判を起こした」とのことです。

記事にも指摘がありますが、インターネット上での誹謗中傷の投稿者の発信者情報開示に用いられるプロバイダ責任制限法は、不特定多数に向けられた投稿のみを対象としており、メールやダイレクトメッセージといった「1対1」のメッセージは対象外とされています(この点日弁連からはプロバイダ責任制限法の改正にあたり「実効的な発信者情報開示請求のための法改正等を求める意見書」内において「1対1」のメッセージの送信者情報も開示の対象に含めるべきとの意見がでておりますが、改正法でもこの意見は入れられませんでした)。そこで被害に遭った映像会社は、訴えの提起前における証拠保全として,送信者の氏名・住所が記録された記録媒体等につき検証の申出をするとともにNTTドコモに対する検証物提示命令の申立てを行なったのです。

この点原決定(東京高裁)は、「本件メールが明白な脅迫的表現を含むものであること、本件メールの送信者情報は本件送信者に対して損害賠償責任を追及するために不可欠なものであること、本件記録媒体等の開示により本件送信者の受ける不利益や抗告人に与える影響等の諸事情を比較衡量すると、本件記録媒体等に記録され、又は記載された送信者情報は保護に値する秘密に当たらず、抗告人は、本件記録媒体等を検証の目的として提示する義務を負う」との判断を行い、申立てを認めました。

しかしながら、最高裁判所第1小法廷の決定(令和3年3月18日 令和2年(許)第10号)では、次のような理由付で原決定を破棄して申立を却下しました(なおこの決定は先日までは最高裁ホームページに掲載されていましたが現在は掲載されていないようです。裁判所時報1764号3頁には掲載はなされています。)

「(1) 民訴法197条1項2号は、医師、弁護士、宗教等の職(以下、同号に列挙されている職を「法定専門職」という。)にある者又は法定専門職にあった者(以下、併せて「法定専門職従事者等」という。)が職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて尋問を受ける場合には、証言を拒むことができると規定する。これは、法定専門職にある者が、その職務上、依頼者等の秘密を取り扱うものであり、その秘密を保護するために法定専門職従事者等に法令上の守秘義務が課されていることに鑑みて、法定専門職従事者等に証言拒絶権を与えたものと解される。
 電気通信事業法4条1項は、「電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。」と規定し、同条2項は、「電気通信事業に従事する者は、在職中電気通信事業者の取扱中に係る通信に関して知り得た他人の秘密を守らなければならない。その職を退いた後においても、同様とする。」と規定する。これらは、電気通信事業に従事する者が、その職務上、電気通信の利用者の通信に関する秘密を取り扱うものであり、その秘密を保護するために電気通信事業に従事する者及びその職を退いた者(以下、併せて「電気通信事業従事者等」という。)に守秘義務を課したものと解される。
 そうすると、電気通信事業従事者等が職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて尋問を受ける場合に証言を拒むことができるようにする必要があることは、法定専門職従事者等の場合と異なるものではない。
 したがって、電気通信事業従事者等は、民訴法197条1項2号の類推適用により、職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて証言を拒むことができると解するのが相当である。
 (2) 民訴法197条1項2号所定の「黙秘すべきもの」とは、一般に知られていない事実のうち、法定専門職従事者等に職務の遂行を依頼した者が、これを秘匿することについて、単に主観的利益だけではなく、客観的にみて保護に値するような利益を有するものをいうと解するのが相当である(最高裁平成16年(許)第14号同年11月26日第二小法廷決定・民集58巻8号2393頁参照)。
 電気通信事業法4条1項が通信の秘密を保護する趣旨は、通信が社会生活にとって必要不可欠な意思伝達手段であることから、通信の秘密を保護することによって、表現の自由の保障を実効的なものとするとともに、プライバシーを保護することにあるものと解される。電気通信の利用者は、電気通信事業においてこのような通信の秘密が保護されているという信頼の下に通信を行っており、この信頼は社会的に保護の必要性の高いものということができる。そして、送信者情報は、通信の内容そのものではないが、通信の秘密に含まれるものであるから、その開示によって電気通信の利用者の信頼を害するおそれが強いというべきである。そうである以上、電気通信の送信者は、当該通信の内容にかかわらず、送信者情報を秘匿することについて、単に主観的利益だけではなく、客観的にみて保護に値するような利益を有するものと解される。
 このことは、送信者情報について電気通信事業従事者等が証人として尋問を受ける場合と、送信者情報が記載され、又は記録された文書又は準文書について電気通信事業者に対する検証物提示命令の申立てがされる場合とで異なるものではないと解するのが相当である。
 以上によれば、電気通信事業者は、その管理する電気通信設備を用いて送信された通信の送信者情報で黙秘の義務が免除されていないものが記載され、又は記録された文書又は準文書について、当該通信の内容にかかわらず、検証の目的として提示する義務を負わないと解するのが相当である。」

上記の通り、最高裁の判断は、送信者本人が開示に同意するような場合を除けば一切送信者情報の開示を認めないというものです。この点、本件が現に京アニ事件を模倣した極めて悪質な内容の脅迫を受けている被害者による申立であることを考えると、利益考慮の点では原決定のように送信者情報については開示を認めるのが妥当ではないかと私は考えますが、そのような利益考慮を前提とした判断を最高裁は行ないませんでした。そして最高裁が現行法のもとでは開示を認められないと判示してしまった以上、今後民事手続において匿名者のメールやダイレクトメッセージの送信者情報の開示を求めることは不可能になりました。

勿論、刑事手続上では捜査機関がプロバイダに捜査関係事項照会を行なったり、裁判所の令状を取って捜索差押を行なう場合には、プロバイダがこれに応じて送信者情報の開示に応じることはあります。ただ捜査を行なうかどうかは捜査機関の判断に委ねられており、匿名者の脅迫や詐欺被害について捜査機関が捜査に着手しない場合には、被害救済の手段は一切閉ざされてしまうことになります。脅迫や詐欺の加害者が匿名であり、メールやダイレクトメッセージ、LINEしか手がかりがないような場合には事実上泣き寝入りすることになるおそれが高いです。

私は、脅迫や詐欺の被害者に迅速に民事的な被害回復を実現させるため、立法により送信者情報の開示を認めるべきであると考えます。立法に当たっては当然憲法上の権利である通信の秘密の保護をどのように図るかは慎重に検討されるべきですが、少なくとも犯罪被害回復の為に通信の内容そのものではない送信者情報については開示の手段を設けるべきでしょう。

 

投稿者: 弁護士大窪和久

2021.05.25更新

時事ドットコムニュースで、ネットの誹謗中傷に関して、「自民党は25日、インターネット交流サイト(SNS)で相次ぐ誹謗(ひぼう)中傷への対応を議論するため、情報通信戦略調査会に設けた小委員会(小委員長・山下貴司元法相)の初会合を開いた。今後、刑法改正も視野に、侮辱行為の厳罰化など対策を議論する」との記事が掲載されていました。

確かに、侮辱罪は現行法で30日未満の拘留または1万円未満の科料と法定刑が定められており、名誉毀損罪の法定刑(3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金)に比べても著しく軽いという問題点があります。このため、警察が捜査に及び腰になってしまうという面があることは否定できません。

ただ、ネットの誹謗中傷に関して法定刑が軽いという問題点より重要なことは、匿名の投稿について捜査機関が投稿者を特定できないことを理由として捜査に消極的になるという点です。SNSの運営会社は裁判所の令状がなければ匿名の投稿者の情報について捜査機関に開示するとしていますが、捜査機関は令状をとってSNS運営に対して開示を求めることをなかなか行なおうとしません。民事上の発信者情報開示を行なって被害者側が匿名の投稿について初めて捜査に着手するのが一般的です。

このような捜査機関側の対応が改まらない限り、厳罰化がなされても結局立件に至ることはありませんので、ネット中傷は防げないことに変わりはありません。

投稿者: 弁護士大窪和久

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