ネットで面白い記事や動画を見つけたとき、そのリンク(URL)をSNSなどでシェアする。今や当たり前の行動ですよね。しかし、その「リンクを貼る」という何気ない行為が、法的にどのような意味を持つのか、深く考えたことはありますか?
「リンク先が違法なものだったら、貼った自分も罪に問われるの?」
この問いは、実は法律家の間でも非常に悩ましい論点です。最近、まさにこの点が争われた裁判(東京地裁令和6年1月18日判決)がありましたので、今回はその判決を解説します。
・事案の概要:VTuber vs ネット掲示板の投稿者
事案の概要は次の通りです。
被害者: VTuberとして活動しているAさん。
問題の行為: ネット掲示板「5ちゃんねる」に、Aさんが著作権を持つ写真(以下「元画像」)が無断でアップロードされた外部サイトのURLが投稿された。
Aさんの主張: 「URLを投稿する行為は、私の著作権侵害を手助けする行為(幇助)であり、権利侵害だ。投稿者の情報を開示せよ!」と、プロバイダを訴えました。
ポイントは、投稿者は画像を直接掲示板にアップしたのではなく、あくまで外部サイトへの「リンク」を貼ったにすぎない、という点です。これに対して裁判所は、Aさんの請求を認めませんでした。
・判決の核心にある「直接性」という考え方
「リンクを貼っただけではセーフ」と単純化するのは危険です。裁判所が今回、請求を認めなかったのには、明確な法的理由があります。
それは、プロバイダが発信者の情報を開示するためには、その投稿が「情報の流通によって権利の侵害を”直接的”にもたらしている」と認められる必要がある、というルールです。
今回のケースでは、投稿されたURLをクリックしても、すぐには元画像が表示されませんでした。一度「別のサイトに移動します」という警告ページが挟まり、そこに表示された同じURLをもう一度クリックしないと元画像にはたどり着けませんでした。この「複数回のクリック」というユーザー自身の積極的な行為が必要だった点を踏まえ、裁判所は「投稿者のURL送信が、著作権侵害を”直接的”にもたらしたとまでは言えない」と判断しています。
・判断の裏にある3つの考え方と裁判所のとった立場
「情報の流通によって」という言葉の解釈をめぐっては、法律家の間で大きく3つの考え方(学説)が議論されています。
1 単独説(一番厳しい見方):
投稿された情報それ自体が権利侵害を起こしている必要がある、という考え方です。例えば、他人の名誉を毀損する悪口を書くようなケースが典型です。
2 相当因果関係説(一番広い見方)
情報の流通と権利侵害の間に「常識的に考えて、それが原因だよね」と言える関係(相当因果関係)があれば足りる、という考え方です。これだと、多くのリンク行為が含まれる可能性があります。
3 中間説(今回の裁判所がとった立場)
上記2つの中間です。単なる因果関係だけでは足りず、権利侵害を「直接的にもたらした」と評価できる関係が必要だ、とする考え方です。近年の最高裁判所の判断もこの「中間説」に近い立場をとっており、今回の地方裁判所の判決も、その流れに沿って「中間説」を明確に採用しました。
この点、最高裁の判決(最三小判令和2年7月21日)のリツイート事件(他人の写真をリツイートした際に、写真に表示されていた著作者の氏名が、システムの仕様で自動的にトリミング(切取り)されて見えなくなってしまったことが氏名表示権の侵害であるかが争点となった事件)で、最高裁判所は、「リツイートという情報の送信が、氏名が表示されない状態を”直接的”にもたらした」と判断しています。リツイートという行為そのものが、権利侵害(氏名表示権の侵害)の引き金になった、と評価されたわけです7。
一方、今回のリンク事件では、URL自体は、権利侵害の決定的な要因ではありません。あくまで侵害の本体はリンク先のサーバーにある「元画像データ」であり、URLはそこへ案内する「手段」にすぎないと判断されました 。
この「情報の送信行為そのものが侵害の引き金か、それとも単なる案内役にすぎないか」という違いが、二つの事件で結論を分けた重要なポイントと言えるでしょう。
裁判例を踏まえ、私たちが日常で気をつけるべきことは次の点です。
明らかに違法なコンテンツが集まっていると知っているサイトへのリンクを貼る行為は、たとえ今回のケースでセーフとされても、推奨されるものではありません。
一方、あなたが創作者(クリエイター)なら、自分の作品が侵害された際は、どのような形でリンクが貼られているか(自動再生されるか、クリックが必要かなど)を具体的に記録しておくことが、後の法的措置で重要になる場合があります。
著作権侵害を理由とした発信者情報開示事件も近年増えております。もしトラブルに遭遇した場合にはご相談ください。