弁護士大窪のコラム

2025.08.10更新

 ネットで面白い記事や動画を見つけたとき、そのリンク(URL)をSNSなどでシェアする。今や当たり前の行動ですよね。しかし、その「リンクを貼る」という何気ない行為が、法的にどのような意味を持つのか、深く考えたことはありますか?
「リンク先が違法なものだったら、貼った自分も罪に問われるの?」
 この問いは、実は法律家の間でも非常に悩ましい論点です。最近、まさにこの点が争われた裁判(東京地裁令和6年1月18日判決)がありましたので、今回はその判決を解説します。

・事案の概要:VTuber vs ネット掲示板の投稿者
 事案の概要は次の通りです。
被害者: VTuberとして活動しているAさん。
問題の行為: ネット掲示板「5ちゃんねる」に、Aさんが著作権を持つ写真(以下「元画像」)が無断でアップロードされた外部サイトのURLが投稿された。
Aさんの主張: 「URLを投稿する行為は、私の著作権侵害を手助けする行為(幇助)であり、権利侵害だ。投稿者の情報を開示せよ!」と、プロバイダを訴えました。
 ポイントは、投稿者は画像を直接掲示板にアップしたのではなく、あくまで外部サイトへの「リンク」を貼ったにすぎない、という点です。これに対して裁判所は、Aさんの請求を認めませんでした。

・判決の核心にある「直接性」という考え方
 「リンクを貼っただけではセーフ」と単純化するのは危険です。裁判所が今回、請求を認めなかったのには、明確な法的理由があります。
それは、プロバイダが発信者の情報を開示するためには、その投稿が「情報の流通によって権利の侵害を”直接的”にもたらしている」と認められる必要がある、というルールです。
 今回のケースでは、投稿されたURLをクリックしても、すぐには元画像が表示されませんでした。一度「別のサイトに移動します」という警告ページが挟まり、そこに表示された同じURLをもう一度クリックしないと元画像にはたどり着けませんでした。この「複数回のクリック」というユーザー自身の積極的な行為が必要だった点を踏まえ、裁判所は「投稿者のURL送信が、著作権侵害を”直接的”にもたらしたとまでは言えない」と判断しています。

・判断の裏にある3つの考え方と裁判所のとった立場
 「情報の流通によって」という言葉の解釈をめぐっては、法律家の間で大きく3つの考え方(学説)が議論されています。
1 単独説(一番厳しい見方):
投稿された情報それ自体が権利侵害を起こしている必要がある、という考え方です。例えば、他人の名誉を毀損する悪口を書くようなケースが典型です。
2 相当因果関係説(一番広い見方)
情報の流通と権利侵害の間に「常識的に考えて、それが原因だよね」と言える関係(相当因果関係)があれば足りる、という考え方です。これだと、多くのリンク行為が含まれる可能性があります。
3 中間説(今回の裁判所がとった立場)
上記2つの中間です。単なる因果関係だけでは足りず、権利侵害を「直接的にもたらした」と評価できる関係が必要だ、とする考え方です。近年の最高裁判所の判断もこの「中間説」に近い立場をとっており、今回の地方裁判所の判決も、その流れに沿って「中間説」を明確に採用しました。

 この点、最高裁の判決(最三小判令和2年7月21日)のリツイート事件(他人の写真をリツイートした際に、写真に表示されていた著作者の氏名が、システムの仕様で自動的にトリミング(切取り)されて見えなくなってしまったことが氏名表示権の侵害であるかが争点となった事件)で、最高裁判所は、「リツイートという情報の送信が、氏名が表示されない状態を”直接的”にもたらした」と判断しています。リツイートという行為そのものが、権利侵害(氏名表示権の侵害)の引き金になった、と評価されたわけです7。
 一方、今回のリンク事件では、URL自体は、権利侵害の決定的な要因ではありません。あくまで侵害の本体はリンク先のサーバーにある「元画像データ」であり、URLはそこへ案内する「手段」にすぎないと判断されました 。
 この「情報の送信行為そのものが侵害の引き金か、それとも単なる案内役にすぎないか」という違いが、二つの事件で結論を分けた重要なポイントと言えるでしょう。

 裁判例を踏まえ、私たちが日常で気をつけるべきことは次の点です。
 明らかに違法なコンテンツが集まっていると知っているサイトへのリンクを貼る行為は、たとえ今回のケースでセーフとされても、推奨されるものではありません。
 一方、あなたが創作者(クリエイター)なら、自分の作品が侵害された際は、どのような形でリンクが貼られているか(自動再生されるか、クリックが必要かなど)を具体的に記録しておくことが、後の法的措置で重要になる場合があります。
 著作権侵害を理由とした発信者情報開示事件も近年増えております。もしトラブルに遭遇した場合にはご相談ください。

投稿者: 弁護士大窪和久

2025.06.12更新

皆さんもスマートフォンで日常的に写真を撮りますよね。美しい風景、美味しそうな料理、面白い出来事など、様々な瞬間を切り取ってSNSに投稿することも多いでしょう。そのとき、「この写真は自分の著作物だ」と意識することはありますか?
実は、スマホで撮影した写真が、必ずしも著作権法で保護される「著作物」と認められるわけではありません。
今回は、まさにその点が争われた裁判例(東京地裁令和5年7月6日判決)をご紹介します。

事件の概要:何が争われたのか?
この事件は、ある司法書士X氏が起こしたものです。
1. X氏は、ご自身が裁判所に申し立てた「発信者情報開示仮処分命令申立書」という書類一式をiPhoneで撮影し、その写真をTwitter(現X)に投稿しました。
2. すると、氏名不詳の発信者が、X氏が投稿したその写真を自身の投稿に添付し、「申立てをしたというなら、受付印を受けた控えの画像が出てくるのかと思ったのだが。」と、X氏の投稿内容を揶揄するような文章を投稿しました。
3. これに対しX氏は、「自分が撮影した写真の著作権が侵害された」などと主張し、プロバイダに対して発信者の情報開示を求めました。 
つまり、争いの出発点は「X氏がiPhoneで撮影した申立書類の写真は、そもそも著作権で保護される『著作物』なのか?」という点でした。

裁判所の判断①:その写真は「著作物」ではない
結論から言うと、裁判所はこの写真の著作物性を否定しました。 つまり、「著作物にはあたらない」と判断したのです。
著作権法では、「著作物」を「思想又は感情を創作的に表現したもの」と定義しています。 写真の場合、被写体の選定、構図やアングルの決定、光量の調整、シャッターチャンスの捉え方などに撮影者の「創作性」が表現されると考えられています。
では、なぜ今回の写真は「創作性」がないと判断されたのでしょうか。裁判所は、以下の点を指摘しています。
・ 構図がありふれている
 写真は、複数の書類を少しずらして重ね、その全体がだいたい収まるように真上から撮影した、ごくありふれたものでした。
• 撮影方法に格別の工夫がない
 光量、シャッタースピード、ズーム倍率などについても、撮影者であるX氏が特に工夫を凝らしたとは認められませんでした。
iPhoneをはじめとするスマートフォンのカメラは非常に高性能で、誰でも簡単に綺麗な写真が撮れるように、多くの設定が自動で調整されます。 そのため、ただ被写体に向けてシャッターを切っただけでは、撮影者の「思想又は感情」が「創作的に表現」されたとは言えなくなってしまう可能性があるのです。
この裁判所の判断は、「アイデアと表現の二分論」という知的財産権の基本的な考え方に基づいています。これは、「アイデア(着想)」そのものは皆で自由に利用できるものとし、それを具体的に「表現」した部分だけを保護するという考え方です。今回のケースで言えば、「申立書類の写真を撮って投稿する」というアイデアは保護されず、その具体的な「表現」である写真に創作性が認められなかったため、著作権による保護の対象外と判断されたわけです。

裁判所の判断②:「仮に」著作物だとしても「適法な引用」にあたる
さらに、裁判所はもう一歩踏み込んで、「仮にこの写真が著作物だったとしても」という仮定の上での判断も示しました。 結論として、発信者の行為は「適法な引用」にあたり、著作権侵害にはならないと判断したのです。
著作権法では、一定の条件を満たせば、他人の著作物を自分の著作物の中で利用することができます。これが「引用」です。裁判所は、今回のケースが以下の点から「引用」の条件を満たすと判断しました。
• 目的の正当性:発信者の投稿は、X氏が「申立てをした」と投稿しているにもかかわらず、その証拠となる写真に「受付印」がないことを批評する目的がありました。 このように、批評の対象を明確にするために写真を利用することは、正当な範囲内だと認められました。
• 公正な慣行:投稿の文脈から、一般の閲覧者が普通に読めば、写真の出所(撮影者がX氏であること)は分かると判断されました。 そのため、批評の目的や態様などを考慮すると、写真を添付したことは公正な慣行に合致していると認められたのです。
また、著作者の氏名を表示する権利(氏名表示権)の侵害についても、裁判所は同様の理由から、文脈上著作者が誰であるか明らかであるため、氏名の表示を省略することは許されると判断しました。

この裁判例から、次の二つの点を読み取る事が可能です。

1. 「自分で撮った写真=著作物」とは限らない

特に、何かの商品を記録したり、書類を複写する目的で真正面から撮影したりするなど、被写体をありのままに写しただけの写真は、創作性が否定されやすい傾向にあります。 自分の写真に著作権を主張するためには、構図、アングル、光と影の効果、背景の選択など、何らかの形で「自分ならではの創意工夫」が表現されている必要があります。

2. 他人の写真の利用は慎重に

今回のケースでは、結果的に著作物性が否定され、引用も認められました。しかし、これはあくまで個別の事案に対する判断です。安易に他人の写真をコピーして自分の投稿に使うことは、非常に高いリスクを伴います。もしその写真に創作性が認められれば、当然、著作権侵害を問われる可能性があります。
また、たとえ著作権侵害にならなくても、使い方によっては今回のように相手を揶揄したり、社会的評価を低下させたりする内容であれば、名誉毀損など別の問題に発展する可能性も十分にあります。
SNSが普及し、誰もが情報の発信者にも受信者にもなる時代だからこそ、写真一枚の取り扱いにも細心の注意が求められます。

投稿者: 弁護士大窪和久

2025.06.01更新

インターネット上に一度掲載された情報が、いつまでも残り続けることに不安を感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。特に、過去の不名誉な情報が検索結果に表示され続けることは、社会生活を送る上で大きな負担となり得ます。
今回は、時間の経過などを理由として過去のブログ記事の削除が認められた裁判例(名古屋地方裁判所 令和6年8月8日判決)について、解説します。

1 はじめに
この判決は、記事が掲載された当初は問題がなかったとしても、時間の経過によって記事を掲載し続けることの正当性が失われる場合があることを示した点に特色があります。名誉毀損と表現の自由、そして「忘れられる権利」にも関連する論点を含んでいます。

2 事案の概要
あるブログサービス上に、原告が過去に代表取締役を務めていた会社(以下「本件会社」)に関する記事(以下「本件記事」)が掲載されました。 本件記事は、「本件会社が詐欺のように元本保証と高配当により資金調達を行っていたが突然閉鎖したようであり、計画的な倒産の可能性がある」といった内容でした。つまり、本件会社が詐欺的な行為をしていた可能性を示唆するものでした。本件記事が書かれるきっかけとなった新聞報道があり、本件記事掲載後、原告は本件会社の業務に関して出資法違反で有罪判決を受けています。
原告は、「この記事は名誉棄損であり、プライバシーも侵害している」と主張し、ブログ運営者である被告に対し、記事の削除を求めて裁判を起こしました。

3 争点
この裁判の主な争点は、「本件記事が原告の名誉権を侵害するかどうか」、特に「時間の経過によって、本件記事を掲載し続けることが法的に許されるのかどうか」という点でした。
 原告は、「記事が掲載されてから10年以上が経過しており、もはやこの記事を公衆の目に触れさせ続ける公共の利益はほとんどない。記事の公共性は失われている」と主張しました。
被告は、「記事の内容は、原告が有罪判決を受けた事実などから真実であり、会社の信用性に関する情報として引き続き重要だ。公共性も公益目的も認められるため、公正な論評として保護されるべきだ」と反論しました。

4 裁判所の判断
裁判所は、以下の点を考慮し、原告の請求を認めて記事の削除を命じました。

(1)名誉毀損の成立
まず、本件記事が「詐欺のような」「詐欺の可能性が高い」といった表現を用いていることから、原告の社会的評価を低下させるものであると認定しました。
(2) 本件記事の前提事実が公共の利害に関する事項にあたらない
裁判所は、名誉毀損にあたる表現の差止めは、表現の自由との関係で慎重に判断する必要があるとしつつ、意見や論評の差止めが許される場合を限定的に示しました。具体的には、その意見や論評が公正な論評に当たらないことが明白であり(公共の利害に関するものでない、公益目的でない、前提事実が真実でない、人身攻撃に及んでいるなど)、かつ被害者が重大で著しく回復困難な損害を被るおそれがある場合に限られるとしました。
裁判所は、本件記事が掲載された当初は、前提となる事実に真実性があり、公共性や公益目的も認められ、公正な論評に当たるものであったと判断しました。
しかし、以下の事情から、時間の経過とともに状況が変化したと指摘しました。
・有罪判決の言い渡しから9年半以上、記事掲載からも11年以上が経過していること。
・有罪判決の執行猶予期間は既に満了し、刑の言渡しは効力を失っていること。
・記事で引用されていた元の新聞記事も、インターネット上で一般的に閲覧できなくなっていること。
・本件会社や原告に関する刑事手続きが終了した後も、長期間にわたって閲覧され続けることを想定して投稿されたとは認め難いこと。
・本件会社の行為が、記事掲載後も継続的に社会の関心事となっているような事情は見当たらないこと。
これらの点を総合的に考慮し、裁判所は、本件記事が前提とする事実は、口頭弁論終結日(裁判の最終段階)の時点においては、もはや公共の利害に関する事項に当たるとはいえないことが明白であると判断しました。

5 結論
以上のことから、裁判所は、本件記事の掲載を続けることによって原告が著しく回復困難な損害を被るおそれがあると認め、被告に対し、本件記事の削除を命じる判決を下しました。

6 本判決の意義
この判決は、インターネット上に掲載された過去の記事による名誉毀損について、「時間の経過」という要素が、記事の公共性を判断する上で極めて重要になることを明確に示した点で大きな意義があります。
たとえ掲載当時は真実であり公共性があったとしても、時が経つにつれてその情報が社会的な関心を失い、個人の名誉やプライバシーを不当に害し続ける場合には、記事の削除が認められる可能性があることを示唆しています。
インターネット上の情報は半永久的に残り、拡散する可能性があります。 このような特性を踏まえ、過去の情報による権利侵害と表現の自由のバランスをどのように取るべきか、改めて考えるきっかけとなる重要な判例といえるでしょう。

投稿者: 弁護士大窪和久

2025.04.19更新

2024年5月17日に、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)の改正案が公布され、法律名も特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律(情報流通プラットフォーム対処法)となりました。この情報流通プラットフォーム対処法は、公布から1年以内の施行と定められていましたが、2025年4月1日に施行されました。

情報流通プラットフォーム対処法への改正の趣旨は、誹謗中傷等のインターネット上の違法・有害情報に対処するため、大規模プラットフォーム事業者に対して対応の迅速化、運用状況の透明化にかかる措置を義務づけるというものです。大手SNSや匿名掲示板においてなされた誹謗中傷の投稿について削除請求をしたとしても、削除請求の窓口が分からなかったり、削除請求を行っても何ら回答がなかったりすることがありました。また、そもそも投稿削除の基準も明らかにされていないことも多かったです。こうした問題に対して改善を図るために法改正がなされました。

情報流通プラットフォーム対処法により、対応の迅速化のための措置として、削除申出窓口の整備公表、削除申出への対応体制の整備、削除申出に対する結果の原則14日以内の通知がなされることになりました。

また、運用状況の透明化のための措置として、削除基準の策定・公表、削除した場合の投稿者への通知がなされることになりました。

さらに、情報流通プラットフォーム対処法では、大規模プラットフォーム事業者に対して、運営者の氏名(名称)及び住所、法人の場合には代表者の氏名を届出ることが義務化されました。特に匿名掲示板では運営者の素性すらわからないことがありましたが、改正法の届出義務により、運営者は素性を明らかにしなければいけなくなりました。

情報流通プラットフォーム対処法の施行により、これまでよりは誹謗中傷に対する対応が改善されることが期待されます。また、匿名掲示板の運営者の届出義務化により、投稿削除仮処分・訴訟がやりやすくなる可能性もあります。

情報流通プラットフォーム対処法が施行されたため、従前対応してくれなかった誹謗中傷の投稿に対しても、改めて削除請求を行なうことが考えられます。

投稿者: 弁護士大窪和久

2024.09.11更新

発信者情報開示事件の裁判実務の改善のために事例集積を行う目的で、この度第二東京弁護士会でアンケートをとることになりました。

(全国の弁護士対象)発信者情報開示に関するアンケート回答ご協力のお願い

本アンケートは私の所属する消費者問題対策委員会で企画を行ったものです。

改正プロバイダ責任制限法改正以後、委員会内の弁護士で経験した発信者情報開示手続に関する事案の中では、コンテンツプロバイダの中には発信者情報開示手続に適正に対応せず、その結果手続上の問題が生じているように思われる例が多くありました。問題としては次の様なものがあります。

・発信者情報の提供命令が発令されても、コンテンツプロバイダがこれに応じない

・コンテンツプロバイダの代理人が訴訟委任状を提出しないまま、代理人として事実上出頭を続ける。

・発信者情報開示事件の決定がなされた場合でも、コンテンツプロバイダがこれに応じない。

こうした問題について解決する必要があると考えますが、そのためにはまず問題事案の集積が必要となるので、この度アンケートの実施に至っております。発信者情報開示手続に携わる先生方のご協力を頂ければと思います。

 

投稿者: 弁護士大窪和久

2023.04.16更新

NHKの記事(ChatGPT 就活も法律相談も 広がる活用 どう向き合う?)で、法律相談サイトがChatGPTを活用して24時間相談対応を目指すという取り組みが紹介されていますが、問題点として弁護士法における「非弁行為」が懸念されています。非弁行為とは、資格を持たない者が弁護士業務を行うことであり、これが禁止されています。

ChatGPTを活用して法律相談に対応する場合、AIが法律的な助言を提供することになりますが、AIは弁護士の資格を持っていないため、非弁行為に該当する可能性があります。運営会社はこの問題を認識しており、法律に抵触しないか確認した上で取り組みを始めたいとしています。

ただ、法律相談の場合、具体的な争訟に対する判断が不可欠であることから、非弁行為として禁止されている「鑑定」に該当するものと思われ、現行法のもとではAIによる法律相談は非弁行為に該当するのではないかというのが私見です。また、この問題点は弁護士がAIを使って法律相談を行う場合にも該当するのではないかと思われます。

今のChatGPTは、専門領域に関する相談については専門家に判断して貰うよう答えるようになっていますし、専門領域の回答のレベルも高くはありません。ただいずれ技術や学習の向上により、ChatGPT自体の回答のレベルは上がるだろうと思います。その際に弁護士法との抵触が問題になるかも知れません。

 

投稿者: 弁護士大窪和久

2023.04.13更新

詐欺行為がSNSを通じて横行していることが問題となっています。そのため、日本弁護士連合会は先日「SNSを利用した詐欺行為等に関する調査・対策等を求める意見書」を提出しました。この記事では、意見書の内容と提案されている対策について解説します。

意見書では、詐欺行為等を行う者が、携帯電話や電話転送サービスの本人確認規制が強化されたことから、本人確認が不十分で匿名性を維持できるSNSを活用し、被害者と連絡を取る手段として用いていることが指摘されています。現在、LINEやFacebook、Instagramなどが詐欺行為のツールとして利用されており、多くの被害者が救済されないままの状況が続いているとされています。

そこで、日本弁護士連合会は、総務省、消費者庁、内閣府消費者委員会に対し、実態把握のための調査を実施し、SNSを詐欺行為等のツールとして利用させないための実効性ある対策を検討するよう求めています。具体的な対策としては以下の3点が提案されています。

1 SNS事業者による適切な本人確認・本人確認記録の保管
SNS登録時や利用継続時に、事業者が利用者の電話番号や氏名・住所・生年月日等を公的な本人確認書類によって確認し、適切に記録を保管することが求められています。これにより、詐欺行為等に関与した加害者を特定しやすくすることが目的です。

2 被害者が加害者のアカウントを特定する情報を容易に確認できるようにすること
被害者が加害者のアカウントを特定し、民事訴訟等によって法的責任を追求しやすくするため、SNS事業者は被害者に対して加害者アカウントの情報を提供するよう求められています。例えば、アカウント登録時のIPアドレスや利用履歴などが挙げられます。ただし、これにはプライバシー保護の観点から、適切な手続きを経た場合に限られるべきであるとの注意喚起もなされています。

3 SNS事業者と行政機関との連携強化
SNS事業者と行政機関が連携し、詐欺行為等に関する情報共有や対策の検討を行うことが提案されています。また、行政機関からの指導や勧告に対して、事業者が積極的に協力する姿勢を示すことが求められています。

以前もこちらのブログで紹介させて頂いたとおり、SNSにおいて詐欺が行われても加害者に関する情報が開示されない状況になっていることが日弁連が意見書を出した背景にあります。このような対策が実施されることで、SNSを利用した詐欺行為等が抑止され、被害者が救済されやすくなることが期待されます。

投稿者: 弁護士大窪和久

2023.03.23更新

ITmediaの記事によれば、大規模言語モデル「GPT−4」において、米国の司法試験の模擬問題を解かせたところ、受験者上位10%の順位で合格するようになったということです。

この点、フリーで使えるchatgptで私もいろいろ試してみましたが、現時点でも一応の内容が記載されている程度の訴状の起案は行うことはできるようです。AIの進化が今年に入ってから著しく、年内に専門家レベルの主張書面作成のできるAIが出現してもおかしくは無いと思っています。そこまでいかなくとも、法務で用いる各種サービスにおいて、AIがより活用されることは間違いありません。

対人業務である弁護士業がAIにより駆逐されることはないと考えてはおりますが、技術について行けない弁護士が駆逐されてしまうことはあり得ますので、新しい技術には引き続きキャッチアップしていこうと思います。

投稿者: 弁護士大窪和久

2022.10.20更新

インターネット上の誹謗中傷の投稿者に関する情報開示のための新しい裁判手続(発信者情報開示命令事件)が、本年10月1日より開始されました。

これまでインターネット上の誹謗中傷の投稿者に関する情報開示については、(1)SNSの運営者等のコンテンツプロバイダに対して仮処分を申立てた上、仮処分の結果経由プロバイダからのアクセスに関する情報の開示を受ける(2)経由プロバイダに対して訴訟を行い、勝訴して経由プロバイダの契約者に関する情報の開示を得るという二回の裁判手続を経る必要がありました。二回の裁判手続を要することから、時間もかかり、その間に経由プロバイダのログ保存期間を徒過し、時間切れで特定に至らないということも残念ながらあります。また、投稿者が電話回線でMVNOを使っている場合等複数の経由プロバイダが関わる場合、二回の裁判手続では終わらず、さらに裁判をしなければ特定に至らないと言うこともありました。

本年10月1日から始まりました発信者情報開示命令事件は、コンテンツプロバイダに情報を開示させた上、経由プロバイダの発信者情報の保全を行い、経由プロバイダに情報を開示させるという一連の手続を一つの裁判手続の中で完結するようになります。これは投稿者が電話回線でMVNOを使っている場合等複数の経由プロバイダが関わる場合も同様です。

よって、本手続によって、従前数ヶ月発信者情報開示まで要していたのに対し、それより短期間で開示に至るのではないかと考えられています。運用が既に始まっておりますので、実際の運用の結果どうなったかについては、改めてブログに投稿したいと考えております。

投稿者: 弁護士大窪和久

2022.08.19更新

第二東京弁護士会は、SNSサービスを利用した違法行為に対する意見書(弁護士会照会への対応)を2022年8月17日に、総務大臣、消費者庁長官、内閣府消費者委員会委員長に提出しています。本意見書については私の所属する委員会の担当部会で議論し会としての提出ができるよう調整し、ようやく提出に至ったものです。なお、本意見書とほぼ同様の内容の意見書・会長声明が埼玉弁護士会、愛知県弁護士会、福井弁護士会からも既に出されています。

内容は、SNSサービスを通じた詐欺被害の実態を調査した上で、事業者に対して詐欺の被害者からの開示請求(特に弁護士会照会について)適切に回答をするよう指導するよう求めるものです。

背景として、現在広く使われているLINEが、詐欺の加害者と被害者との間のコミュニケーションで多く使われているという事実があります。詐欺の被害者は、加害者のLINEのアカウントしかわからず、損害賠償請求するにも加害者の所在が全く分からないということが良くあります。しかし、弁護士会照会などにより詐欺の個人情報の開示を求めても、事業者がこれに応じないため、被害者が泣き寝入りをせざるを得なくなっているというのが現状です。少なくとも、私の所属する委員会の担当部会で事例調査した限りでは、LINE株式会社が弁護士会照会に答えたケースはほぼありませんでした(過去例外的に回答したケースはあるようですが、近年は回答例は見受けられません)。

本意見書の提出は問題解決へのスタートラインに過ぎません。LINEなどSNSサービス事業者が適切な対応をするよう取り組みを続けていきたいと考えております。

投稿者: 弁護士大窪和久

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