弁護士大窪のコラム

2026.07.27更新

ある日突然、ご家族が逮捕されたという連絡を受け、どうしてよいか分からないまま、当事務所にお電話をくださる方がいらっしゃいます。ご本人と連絡が取れず、警察も詳しいことを教えてくれない、面会もできないと言われた――という状況で、強い不安を抱えてご相談に来られるのがほとんどです。まず申し上げておきたいのは、逮捕された直後の時期は、その後の見通しを大きく左右する非常に大切な時間であり、この時期にご家族にできることは、限られてはいるものの、確かにあるということです。他方で、良かれと思ってなさったことが、かえってご本人に不利に働いてしまうこともありますので、落ち着いて対応していただくことが大切です。

はじめに、逮捕された後、身柄の拘束がどのように進んでいくのかを整理しておきます。警察官は、被疑者を逮捕した場合、留置の必要があると判断すれば、逮捕の時から四十八時間以内に、書類とともに被疑者を検察官へ送致する手続をとらなければなりません(刑事訴訟法二百三条)。送致を受けた検察官は、二十四時間以内に、引き続き身柄を拘束する必要があると考えれば、裁判官に対して勾留を請求します(同法二百五条)。裁判官が勾留を認めると、原則として十日間、被疑者は勾留されることになり、さらにやむを得ない事由があると認められれば、最大で十日間まで延長されることがあります(同法二百八条)。つまり、逮捕から勾留の満期までは、最長でおよそ二十日余りという時間の枠組みの中で、起訴するかどうかが判断されていくことになります。この間、特に逮捕から勾留が決まるまでの最初の数日間は、ご本人が外部と連絡を取りにくく、また取調べも集中して行なわれる、極めて重要な時期です。

次に、この時期にご本人・ご家族が気をつけていただきたいことを申し上げます。まず、取調べにおける供述の問題です。ご本人には、自分の意思に反して供述をする必要はないという黙秘権が保障されています。これは憲法の保障する権利であり(憲法三十八条一項)、刑事訴訟法上も、取調べに先立って自己の意思に反して供述をする必要がない旨が告げられることになっています(同法百九十八条二項)。動揺した状態のまま、事実と異なる供述をしてしまったり、記憶があいまいなまま調書に署名してしまったりすると、後の裁判で不利に扱われてしまうことがあります。ご家族としては、面会や差入れの機会があれば、取調べには弁護士とよく相談してから対応するように、はっきりしないことをその場の勢いで認めないように、とお伝えいただくのがよいと思います。

一方で、ご家族の側でやってはいけないこと、避けていただきたいこともあります。事件の関係者と目される方――被害者とされる方やその周囲の方など――に、ご家族が直接連絡を取って謝罪や示談を持ちかけることは、控えていただくべきです。かえって証拠を隠そうとしている、口裏合わせをしようとしていると受け取られ、罪証を隠滅するおそれがあるとして、勾留や後に述べる接見禁止の判断に悪い影響を与えてしまうことがあります。示談や被害者への対応は、弁護士を通じて慎重に進めるべき事柄です。また、SNSなどに事件のことを書き込むことも、思わぬ形でご本人に不利益をもたらしかねませんので、お控えください。

そして、逮捕直後の段階でご家族にできる最も実効的なことは、できるだけ早く弁護士に相談し、弁護士にご本人と接見してもらうことです。身体を拘束されている被疑者は、弁護人となろうとする者と、立会人なしで面会し、書類や物のやり取りをすることができます(刑事訴訟法三十九条一項)。これを接見交通権といい、警察官や検察官の立会いなしに話ができるという点で、ご家族の面会とは大きく異なります。ご家族の面会は、時間や回数が制限され、警察官が立ち会うのが通常で、後で述べる接見禁止が付くと面会自体ができないこともありますが、弁護士の接見はこうした制約を受けません。弁護士が早期に接見することで、ご本人に黙秘権をはじめとする権利を正しく説明し、取調べへの対応を助言し、ご家族との橋渡しをすることができます。

弁護士に依頼する方法としては、大きく分けて、当番弁護士制度を利用する方法と、私選で弁護士に依頼する方法とがあります。当番弁護士制度は、各地の弁護士会が運営している制度で、逮捕されたご本人やご家族が弁護士会に連絡すると、原則として一回、弁護士が無料で接見に赴いてくれるというものです。まずはこの制度を使って一度弁護士に会ってもらい、その上で継続的な弁護を依頼するかどうかを検討することができます。また、勾留された事件については、資力が一定額に満たない場合に、国の費用で弁護人を付ける被疑者国選弁護制度を利用できます。この制度は、平成三十年六月一日から対象が広げられ、現在では勾留された全ての事件が対象となっています。もっとも、国選弁護人が付くのは勾留されてからであり、逮捕されてから勾留が決まるまでの最初の時期には、当番弁護士や私選の弁護士による対応が重要になります。

なお、事件によっては、裁判官が、罪証を隠滅するおそれがあるなどとして、弁護人以外の者との接見や書類のやり取りを禁じる、いわゆる接見禁止の決定をすることがあります(刑事訴訟法八十一条)。この場合、ご家族であっても面会や手紙のやり取りができなくなりますが、それでも弁護人の接見交通権は制限されません。接見禁止が付いている場合には、弁護士を通じてご本人の様子を確認したり、弁護士から、接見禁止の一部を解除するよう裁判所に働きかけたりすることも考えられます。

費用や見通しについては、事件の内容や、私選か国選か、身柄の解放を目指すのか否かなどによって大きく異なりますので、一律に申し上げることは難しいところです。ご相談の際に、想定される手続の流れとあわせてご説明いたします。逮捕直後の時期は、時間の制約が厳しく、最初の対応がその後を大きく左右します。ご家族が逮捕されてご不安な際には、ご本人のためにも、まずはお早めにご相談いただければと思います。

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刑事弁護費用の改訂

保釈制度関連法の改正について

 

投稿者: 弁護士大窪和久

2026.07.21更新

「残業をしても残業代が支払われていない」「固定残業代しかもらっていないが、実際の残業はそれを大きく超えている」「退職したが在職中の残業代を請求したい」といったご相談をお受けすることがあります。まず結論から申し上げますと、法律上支払われるべき残業代が支払われていないのであれば、これを請求することは可能です。もっとも、残業代の請求権には時効があり、時間が経つにつれて古い月の分から順に請求できなくなっていきます。そして、いくら残業をしたかを示す証拠が手元にあるかどうかで、実際に回収できる金額は大きく変わってきます。この二点を踏まえて、早めに動いていただくことが何よりも大切です。

はじめに、どのような場合に残業代が発生するのかを整理しておきます。労働基準法は、原則として一日八時間、一週四十時間を超えて労働させてはならないと定めており(同法三十二条)、これを超えて働かせる場合には、使用者は割増賃金を支払わなければなりません(同法三十七条)。割増率は、法定労働時間を超える時間外労働については二割五分以上、深夜(午後十時から午前五時まで)の労働については二割五分以上、法定休日の労働については三割五分以上とされています。さらに、一か月に六十時間を超える時間外労働については五割以上の割増率となり、これは従来猶予されていた中小企業についても、令和五年四月一日から適用されています。「固定残業代(みなし残業代)を払っているから追加の支払は不要だ」「あなたは管理職だから残業代は出ない」といった説明を受けることがありますが、固定残業代を超える残業があればその超過分は当然に請求できますし、いわゆる管理監督者にあたるかどうかも実態に即して判断されますので、会社の説明をそのまま受け入れる必要はありません。

次に、被害を大きくしないために避けていただきたいことがあります。最も避けたいのは、「いつか請求しよう」と考えたまま何もせずに放置してしまうことです。後で述べるとおり残業代の請求権は時効によって消えていきますので、放置している間にも、請求できたはずの古い月の分が一か月また一か月と失われていきます。また、在職中の方であれば、タイムカードや業務日報、パソコンのログ、業務に関するメールの送受信時刻、入退館の記録といった、労働時間を裏づける資料を、可能な範囲で早めに確保しておいていただくことが重要です。退職してしまうと、こうした資料を手に入れることが難しくなることが少なくありません。感情的に会社と対立してしまい、必要な資料を確保できないまま関係が断たれてしまうことも、できれば避けたいところです。

そして、特に注意していただきたいのが時効です。令和二年四月一日に施行された労働基準法の改正により、賃金請求権の消滅時効期間は、本来は五年、ただし「当分の間」は三年とされました(同法百十五条)。これは令和二年四月一日以降に支払期日が到来する賃金について適用されます(なお、退職金の請求権の時効は従来どおり五年です)。残業代を含む賃金の時効は、それぞれの給与の支払日を起算点として日々進行していきますので、放置すればするほど、請求できる範囲が古い方から狭まっていきます。この「当分の間三年」という経過措置については、日本弁護士連合会が令和七年六月にその速やかな撤廃(本来の五年への移行)を求める会長声明を出すなど、見直しを求める動きがあり、改正法の施行から五年が経過したことを踏まえた検討が今後行なわれる見込みですが、現時点ではなお三年とされています。したがって、いずれ五年に延びる可能性があるとしても、それを当てにして待つのではなく、今の時点で請求できる範囲を確保するために早めに動いていただくのが安全です。なお、時効が完成しそうな場合には、内容証明郵便で支払を求める(催告する)ことによって、六か月間は時効の完成が猶予されますので(民法百五十条)、その間に交渉や法的手続の準備を進めることになります。

実際に請求する場面での手段としては、まずは会社との話し合い・交渉から始め、それで解決しない場合には、労働審判や訴訟といった裁判所の手続を用いることになります。訴訟で認められた場合には、未払の残業代そのものに加えて、遅延損害金を請求することができます。遅延損害金の利率は、在職中の期間については民法の定める法定利率(令和八年四月以降も引き続き年三パーセントとされています)ですが、退職後の期間については、賃金の支払の確保等に関する法律により年十四・六パーセントとなります(ただし、会社が支払わないことについて合理的な理由があって争っている場合などには、この高い利率が適用されないこともあります)。さらに、割増賃金が支払われていなかったような場合には、裁判所は、労働者の請求により、未払額と同額までの「付加金」の支払を会社に命じることができます(労働基準法百十四条)。もっとも、付加金を命じるかどうかは裁判所の裁量に委ねられており、必ず認められるものではありません。

費用や期間の見通しについては、証拠がどの程度そろっているか、会社が争ってくるかどうか、金額の多寡などによって大きく異なりますので、一律に申し上げることは難しいところです。ご相談の際に、想定される手続の流れとあわせて、費用の見込みについてもご説明いたします。残業代の請求は、証拠を確保できているかどうかと、時効で消えてしまう前に動けるかどうかが結果を大きく左右します。未払の残業代があるのではないかと思われた際には、まずはお早めにご相談いただければと思います。

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消滅時効の期間が変更されます
 
【最高裁判例】正社員と契約社員の退職金・賞与の格差が不合理か否か
 
弁護士費用について
 

投稿者: 弁護士大窪和久

2026.07.14更新

以前のコラムでも触れましたが、令和七年四月一日に、いわゆるプロバイダ責任制限法が改正され、「情報流通プラットフォーム対処法」(正式には「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」といいます)として施行されました。施行から一年余りが経ちましたので、あらためて、この法律によってインターネット上の投稿の削除依頼がどう変わったのかを整理しておきたいと思います。

この法律の大きな特徴は、利用者の多い大規模なプラットフォーム事業者に対して、削除への対応を分かりやすく、かつ透明にすることを義務づけた点にあります。総務省は、令和七年四月三十日に、Google、LINEヤフー、Meta、TikTok、Xの五社を「大規模特定電気通信役務提供者」として指定しました。日常的に使われている主要なSNSや検索サービスの多くが、この規律の対象に含まれたことになります。

指定を受けた事業者は、おおむね次のような対応を求められます。まず、権利侵害を受けた人が削除を申し出るための窓口と方法を整備し、公表することです。次に、削除の申出を受けた場合には、その対応の結果を一定の期間内に申出をした人へ通知することです。さらに、どのような場合に削除を行なうのかという基準をあらかじめ定めて公表し、削除の運用状況を定期的に公表することも求められます。これらによって、これまで「申し出ても返事が来ない」「なぜ削除されないのか分からない」といった不透明さが、一定程度改善されることが期待されています。

もっとも、実務に携わる立場から申し上げますと、この改正で全てが解決するわけではない点にも注意が必要です。第一に、こうした義務が課されるのは指定された大規模な事業者に限られ、小規模な掲示板やサイトはこれまでと同じ枠組みで対応することになります。第二に、削除の申出に対して「通知が来る」ことと、実際に「削除される」こととは別の問題です。削除するかどうかは、最終的には事業者が権利侵害の有無を判断することになりますので、申し出れば必ず消えるというものではありません。そして第三に、この法律はあくまで投稿の削除に関する仕組みであり、誰が投稿したのかを特定する発信者情報開示の手続とは別のものです。投稿の削除と投稿者の特定とは、目的も手続も異なりますので、混同しないことが大切です。

したがって、窓口が整備され、以前よりは削除の申出がしやすくなったとはいえ、どの投稿がどの権利の侵害にあたるのかを的確に主張し、その裏づけとなる資料を揃えることの重要性は、これまでと変わりません。ご自身で削除の申出をしてみて対応が得られない場合や、投稿者の特定まで含めて検討したい場合には、お早めに弁護士にご相談いただければと思います。

投稿者: 弁護士大窪和久

2026.07.14更新

以前のコラムでも触れましたが、令和七年四月一日に、いわゆるプロバイダ責任制限法が改正され、「情報流通プラットフォーム対処法」(正式には「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」といいます)として施行されました。施行から一年余りが経ちましたので、あらためて、この法律によってインターネット上の投稿の削除依頼がどう変わったのかを整理しておきたいと思います。

この法律の大きな特徴は、利用者の多い大規模なプラットフォーム事業者に対して、削除への対応を分かりやすく、かつ透明にすることを義務づけた点にあります。総務省は、令和七年四月三十日に、Google、LINEヤフー、Meta、TikTok、Xの五社を「大規模特定電気通信役務提供者」として指定しました。日常的に使われている主要なSNSや検索サービスの多くが、この規律の対象に含まれたことになります。

指定を受けた事業者は、おおむね次のような対応を求められます。まず、権利侵害を受けた人が削除を申し出るための窓口と方法を整備し、公表することです。次に、削除の申出を受けた場合には、その対応の結果を一定の期間内に申出をした人へ通知することです。さらに、どのような場合に削除を行なうのかという基準をあらかじめ定めて公表し、削除の運用状況を定期的に公表することも求められます。これらによって、これまで「申し出ても返事が来ない」「なぜ削除されないのか分からない」といった不透明さが、一定程度改善されることが期待されています。

もっとも、実務に携わる立場から申し上げますと、この改正で全てが解決するわけではない点にも注意が必要です。第一に、こうした義務が課されるのは指定された大規模な事業者に限られ、小規模な掲示板やサイトはこれまでと同じ枠組みで対応することになります。第二に、削除の申出に対して「通知が来る」ことと、実際に「削除される」こととは別の問題です。削除するかどうかは、最終的には事業者が権利侵害の有無を判断することになりますので、申し出れば必ず消えるというものではありません。そして第三に、この法律はあくまで投稿の削除に関する仕組みであり、誰が投稿したのかを特定する発信者情報開示の手続とは別のものです。投稿の削除と投稿者の特定とは、目的も手続も異なりますので、混同しないことが大切です。

したがって、窓口が整備され、以前よりは削除の申出がしやすくなったとはいえ、どの投稿がどの権利の侵害にあたるのかを的確に主張し、その裏づけとなる資料を揃えることの重要性は、これまでと変わりません。ご自身で削除の申出をしてみて対応が得られない場合や、投稿者の特定まで含めて検討したい場合には、お早めに弁護士にご相談いただければと思います。

投稿者: 弁護士大窪和久

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